隠居たるもの、漢字ふたつに心が踊る。2022年4月1日のこと、いつもと変わらず小名木川沿いに歩き、途中で交差する大横川を渡っていつものスーパーに買い物に出た。前の晩からこの朝まで降っていた雨に大横川の桜並木は持ち堪え、かえってこの冷え込みにきゅっとしまって寿命も延びたように見受けられる。そんな桜を眺めながら、「いつまでのなにをどれだけ買うべきか」私たちはブレインストーミングに余念ない。しかし「現物」を目の前にしているわけではないから細目までは定めない。そしてスーパーに到着、それぞれが担当する売り場へと散っていく。山のように陳列してあった日清「最強どん兵衛」に私の目は釘付けになった。

格闘技世界一決定戦

もちろんみんながみんなというわけではないけれども、当時に「男子」だった私たちは小学校の高学年から中学時代にかけて、アントニオ猪木の「格闘技世界一決定戦」に熱中した。猪木 対 赤鬼ウィリエム・ルスカ(ミュンヘン五輪柔道金メダリスト)戦が1976年2月6日、猪木 対 熊殺しウィリー・ウィリアムス(極真会館)戦が1980年2月27日、そのあたりのことだ。なので「最強」というふた文字の漢字に熱狂を呼び覚まされ、いささか過敏に反応することがある。今回もまさしくそうだ。「最強」のふた文字が江東区は住吉のスーパーで踊っているのである。しかもそれを高らかにうたっているのは日清のカップ麺 どん兵衛なのだ。日清が「どん兵衛きつねうどん」を発売開始したのは1976年8月のことで、食べ盛りだった私たちは夜食と称してまさしくあの当時にさんざっぱら食べていた。それが46年の歳月を経て、ことここに及んで「最強」を名乗っているのである。これはいったいどういうことか…、そういえばネットニュースでチラッと見たような…。

つれあいが啜っている「最強どん兵衛かき揚げそば」

4月2日土曜日、お昼時には少し早い午前11時10分、つれあいが「最強どん兵衛かき揚げそば」を啜(すす)り始める。ジムから帰ってきた私が、洗濯したものをベランダに干し終えたころだった。「どう?最強?」「うん、なかなかに最強」パッケージに記されている文言を注視してみる。「厚さアップ サクサク旨い鬼かき揚げ」、「麺の弾力、のどごし 新太そば」、「華やぐ香り 6種の合わせだし」、「浅草 やげん堀 特製七味唐辛子」、そして「このどん兵衛 すべてが主役」とある。かき揚げひと口と麺ひと啜り、ご相伴にあずかってみた。あ、これは…。確かにカップ麺のレベルではない。かき揚げも「かやく」の類でなく玉ねぎ香るまごうことなきかき揚げだ。下手な立ち食いそばなんか比べ物にならないほど美味しい。調べてみると「最強」の発売開始はついこの前の3月28日、定価は248円(税別)、「これまでの『どん兵衛』を超えた衝撃の一杯」と日清は自信を見せている。あっぱれ、まさしく衝撃、こうした精進は清々しく気持ちがいい。それにしても何故に土曜日のこんな時間からつれあいがカップ麺を食しているのかというと、彼女が新型コロナワクチン ブースター接種の副反応まっただ中にあるからであった。

うちのつれあいは副反応がいくらかきついもんで

みなさんそれぞれに色々なお考えをお持ちだろうが、当面に控えるべき問題も見当たらない私たちは「接種」と判断した。私はすでに3週間ほど前に終え、つれあいは買い物に出た4月1日この日の午後3時すぎに予約を入れていた。接種翌日の夜に熱が39度をちょっと超えるなど、彼女の前回の副反応がいくらかきつかったため、この日の買い物にはその経験を反映させた。「食欲がわかない、調理どころではない、出前をとることもありうる」この3点の可能性を考慮しつつ「量は少なめ・調理が簡便」をポイントにした。接種した夜と翌日の朝までは大丈夫だろうが、そこから先の昼から夜にかけてはなんとも予想しがたい。そういうときはモソモソしたものを咀嚼するのが億劫で、するっと啜れるものがなにより。だから「最強どん兵衛かき揚げそば」をカゴに入れておいたのだ。案の定、朝食後にもぐった二度寝の寝床から出てきたつれあいは、予期せず美味しいどん兵衛を啜ってからまたしても寝床に向かう。熱は38度を少し超えていた。その横で、私はいつかビールのつまみにしたいと思っているスパイシーなカップ焼きそばをモソモソと食べていた。

次の機会には「最強どん兵衛きつねうどん」を

この2年ほどのこと、インスタント食品をときに口にするようになった。一人で家にいることが多くなって横着することが増えたし、なにより散種荘も含めて災害への備えの必要性に気づいて常にいくつか置いておくようにもなったからだ。カップ麺の賞味期限なんかいつまで経っても来ないように考えていたが、よく見ると概ね半年くらいしかない。長らくほっておき、あげくに「さすがにこれは…」と廃棄したものもふたつある。だから定期的に食べることになるんだけれど、そこは人情、やっぱり美味しいものがいい。ジャンクだからこその定番がある一方、まさに「最強」は新しい地平を切り拓いている。さっき「そうそう寝てもいられないのよ」とつれあいが起き出してきた。どうやら今回の副反応はこのあたりで頭打ちのようだ。でももう今日はパジャマから着替えるつもりはないと豪語しているし、夕飯は森下のモンブランにハンバーグの出前を頼むことになりそうだ。明日になったら晴れているうちに持ち堪えている近場の桜見物にでも出かけよう。後ろめたいこともないから、こちらの「桜を見る会」は今年も開催させていただく。ああ、もうすぐ隠居の身。そして次の機会に「最強どん兵衛きつねうどん」を。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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