隠居たるもの、食事と料理、そして文化の関係をわきまえる。ガストロノミーとは、その関係を考察することを指すそうだ。決して贅沢に調理した最先端の料理を味わうことをそう呼ぶわけではない。瀬戸内国際芸術祭秋会期に身を置く10月9日、女木島に「瀬戸内ガストロノミー」という「作品」があったので、ちょっと気取って席を占めてみた。

女木島が鬼ヶ島?

レアンドロ・エルリッヒの作品「不在の存在」に併設されたレストラン イアラ 女木島で、EAT&ART TARO監修のランチを食す。それが「作品」なのである。予約して申し込み、目の前で料理が仕上がっていくのを眺め、島の歴史と食材のレクチャーを受けながら、「ふむふむ」と舌鼓をうつ。2000年前の中国は広州、1500年前の朝鮮半島の百済、海を伝った関係性の証を聴講し、地のものであるタコやいりこ、ぶりの説明を受ける。当たり前だが、女木島に鬼がいたわけではない。面白い、その上にとても美味しい。30分ほどで1500円也。

朝食は連日のうどん

1週間におよぶ旅の後半は高松を拠点にしていた。この日だって、歩いて高松港に出向き、フェリーに乗船して女木島・男木島に渡った。ホテルを予約する時、あえて朝食を頼んでいない。讃岐うどんを食べずしてどうするのか。港までの道すがらに「味庄」という素敵なセルフの店があった。朝5時半から開けているという。多分、店内で突っ伏して爆睡しているおじさんがうどんを打ち、茹でてくれるおばさんがひとりで切り盛りしているのだろう。かけとげそ天(翌日はかけとちくわ天)を注文し、自分でタンクからいりこ出汁を注いでいただく。シメて310円。これなのだ、そうこれなのだ。

夕食は必ずや骨付鳥を

うどん県が虎視眈々と次なる全国区ご当地グルメにと企てているのが骨付鳥である。だからといって昨日今日のぽっと出ではなく、1950年代の丸亀を発祥としている。骨付のもも肉にかぶりつく豪快なビジュアル、ニンニクが効いたスパイシーで刺激的な味、パリパリの皮にジューシーな肉。噛むほどに滋味が広がる。丸亀にも1泊したのだが、タイミングとして難しかったから、元祖である「一鶴」さんの本店ではなく高松店にうかがった。同じ店に6年前にも訪れているものの、なんか勝手が違う。おそろしく繁盛している。だとしてもだ、これは食べておかなくてはいけないのだ。50分弱並んでやっとのことで通された席は、6年前と同じ席で少し感動した。店長らしき人にそのことを伝えたところ、一緒にしみじみしてくれた。しっかりした歯ごたえの親鳥と、ふっくらと柔らかいひな鳥を1本ずつ注文した。1日動いて大汗もかいたから、ビールがすごぶるうまい。

私は瀬戸内国際芸術祭に行ったのである

気がつくと、香川で食した美味ばかりを語っている。この日は、朝から晩まで象徴的に香川を食していたっけ。しかし、少しは女木島と男木島に展示されていた「ゲージュツ」についても触れておこう。写真を並べるだけだけれども…。ああ、もうすぐ隠居の身。あんなに歩いたのにどういうわけか目方は増えている。

女木島:

段々の風/杉浦康益
女根/大竹伸朗
カモメの駐車場/木村崇人

男木島:

男木島の魂/ジャウメ・プレンサ
生成するウォールドローイング -日本家屋のために/村山悟郎
夕暮れ時、私をフェリーに案内しながら別れを惜しむ島の主。みな羨ましそう。
投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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