隠居たるもの、親しんだ慣性に疑問をはさむ。11月22日金曜日、朝から冷たい雨が降る中、重い荷物を抱えて御茶の水に出向いた。小ぶりなプリメインアンプを中古オーディオ店に持ち込む約束をしていたからだ。そのついでに聴かなくなったCDも売却しようと、ついつい荷物が大きくなってしまった。これから本格化する忘年会シーズンの軍資金にあてようと皮算用したのである。そして、驚くほどの渋い査定に考えは改まった。
CDの総数43枚で2860円
1枚あたり66円。確かに持ち込んだものは、マニアックでありながらコレクターズアイテムでもない中途半端なものだったかもしれない。加えて古い物は状態が良くなかっただろう。だけれども、ブックオフのように一絡げでなにもわかっていないところに任せたわけではないし、今までにここまで安い値つけをされた経験もなかった。雨が降っていなかったら、「その査定なら持ち帰る」と憤然としたかもしれない。しかし雨足は強くなっていて、なんだか面倒に思ってしまいサインした。中古CDの市場があっという間に細ったのだろう。プリメインアンプの売却値は10500円(こちらはこんなものだと思っていた)、あと1回分の忘年会費用くらいは望んでいたのだが…。
その実、コレクターではない
モノ自体に対する執着は実はあまり強くもなく、CDはその最たるもので、買っては定期的な売却を繰り返してきた。リマスター違いの同じアルバムを何枚か持つなんてことはまずない。いちばん気に入ったバージョンだけ残して、あとはDisk Unionに持っていく。ただ、目の前になにかしら現物があることは大切なことと思い込んでいるのだろうか、庵には1000枚近いCDがある。それが今回の顛末でさっぱりと目が覚めた。無闇矢鱈にCDを購入してはいけない。この日の朝に、BECKのニューアルバム「ハイパースペース」をAmazonでポチッと購入したばっかりだったのだが…。
誰が音楽をタダにした?
一時は気になっていたこの本、結局は読んでいないし読むこともないだろうが、要は「主導した人たちがいて、音楽は配信の時代になって、レコード会社の支配は終わった」ということ。配信と変わらないデジタルデータであるCDの市場は、これからコレクターだけのマーケットになるに違いない。私はコレクターではないから、ここに惰性で居座らず、Apple Musicの利用料だって毎月支払っているのだから、賢く縦横に踊らされずに配信を使いこなせばいいのだ。そして、現物がどうしても欲しい時はレコードに手を出せばいい。Radioheadのアナログレコードには、デジタル音源の無料ダウンロードパスコードまでおまけでついていたではないか。山の家でといってTechnicsのレコードプレイヤーも手に入れたのだし。ひと月を超えてもそれはまだ修理から戻ってこないが…。
山の家に響く音
山の家のオーディオセットは、レコードプレイヤーとネットワークプレイヤーにしようと考えている。iPhoneだけ持っていけばネットワークプレイヤーが多彩な音源を鳴らしてくれるだろうし、静謐な中で血の通った音で聴きたいものはレコードを探して少しずつ足していけばいい。
言っておきたいこともある。CDという収入源が細っているからといって、ライブチケットの料金が高くなりすぎていないか?また、配信の時代になり「アルバム」という評価単位が重視されなくなった結果、聴きごたえのある新しい「アルバム」がなかなか出てこないようにも思う。これは、最初から「聴き方」が違う若者たちからしたらどうでもいいことなのかもしれないけれど…。
私にとって音楽はビジネスではなく、これまでだってこれからだって暮らしを彩るものだ。だからとにかく、いいようにされないように接点を意識的に変えてみる。ああ、もうすぐ隠居の身。まだ新しいことにもついていけるさ。