隠居たるもの、沈んでばかりもいられない。このところ時候のあいさつかのように、「もやもや」とか「沈鬱」とか「ストレス」とか、みなさんのSNS投稿に心中をお察しする単語をお見かけすることが多い。かくいう私もご多聞に漏れてはいない。では、この「鬱々とした気分」は新型コロナウィルス禍からもたらされたものだろうか。大きな要因の一つであることに違いはないが、それだけではない。1990年にリリースされた名曲「情熱の薔薇」で、THE BLUE HEARTSの甲本ヒロトは「涙はそこからやってくる。心のずっと奥の方」と歌っている。そう、「鬱々とした気分」がやってくるのは、もっと「ずっと奥の方」からだ。

「すべて佐川局長の指示です」

一昨日発売で昨日には売り切れていた週刊文春の記事を見聞きしただろうか。公僕たらんと矜持をもって働いていた私と同年代の善良な男性が、公文書の改ざんを強要され心身を蝕まれ自死に至る。2年前のことだ。一人残された奥様が公表し、文春で明かされた克明に綴られた彼の手記にはこう記されている。「この事実を知り、抵抗したとはいえ関わった者としての責任をどう取るか、ずっと考えてきました。事実を、公的な場所でしっかりと説明することができません。今の健康状態と体力ではこの方法をとるしかありませんでした。(55才の春を迎えることができない儚さと怖さ)家族(もっとも大切な家内)を泣かせ、彼女の人生を破壊させたのは、本省理財局です。」あまりにも痛ましい。これに対し、安倍晋三総理大臣、麻生太郎財務大臣、公文書管理を担当する北村誠吾地方創生担当大臣は「再調査の必要はない」ことをそろって即座に明言した。「鬱々とした気分」は「ここ」からやってくるのだ。

暗澹たる空気感

森友学園、加計学園、起訴されない安倍総理大臣のお友だちの強姦事件、デタラメだった「入試改革」、こじつけばかりのIR、明らかに違法な「桜を見る会」疑惑、番犬を検察のトップにするための定年延長問題、小池都知事を含め政治家だけがこだわるオリンピック予定通り開催、すべて同じだ。税金は私物化され仲間内の運転資金と化し、利権と富は彼らの間だけを循環し、ご相伴に預かろうとする者をかしずかせ、検察や警察を従えてやりたい放題に振る舞い、納税者を顧みることは一向にない。脱法行為が露見したところで、言い訳するどころか悪びれることなくすべてをなかったと言い張って、追求する者をニヤニヤと罵倒する始末。あげくに善良な公務員が自死に追い込まれ、内実を知る彼の手記で告発がなされているにも関わらず、態度はいたって「どこ吹く風」。こんな人たちが堂々とのさばっている、これが私たちの頭上に垂れこめている空気だ。

「鬱々とした気分」はこんなSF小説のようなシュチュエーションから降りてきているのだ。「選良」からしてこうなのだからして、みなさんの職場はいかばかりか。そこに新型コロナウィルスがやってきて、変わらず宴会をしている彼らと違って、自粛を要請される私たちは思うように知己と憂さを晴らすこともできず、憤りと何も変わらない悲しみが「鬱々とした気分」に拍車をかける。

歴史は変わらない!

正月明けに友人たちと酒を酌み交わしていた時のこと、新しいナイキの高速シューズの影響で区間新記録ラッシュだった箱根駅伝の話題になった。日本テレビの実況中継に友人は怒っていた。「区間新が出るたびにアナウンサーが『歴史が変わった!』と絶叫するんですよ。なに言ってんだこいつ、って本当に腹が立って。だって歴史は変わらないから。それに勝手に変えちゃいけないでしょ!」その通りである。東京マラソンを中継していたフジテレビのアナウンサーも、大迫傑が日本新記録でゴールする前後に「歴史が変わる!」「歴史が変わった!」と大騒ぎしていたっけ。歴史は「塗り変わる」ことはあっても、「変わる」ことはない。なぜなら、それが歴史だからだ。同じく、主観によって見え方は違ったとしたって、事実は事実でひとつしかない。この友人たちは先週の安倍総理大臣の記者会見についてもこんな風にぼやいていたっけ。「心のない人に『心をひとつにして』って言われても…。何をどうしていいかわかんない。」

テラ銭を払っている以上、私たちには知る権利がある

これからは、折をみて国民に語りかける記者会見をするそうだ。素晴らしい。税金というテラ銭を払っている私たちには権利があるはずだ。誰もが知りたがっていること、聞きたがっていることに胴元が応答してしかるべきだ。さしあたって3回目の会見を希望する。「70%以上が予定通りの開催は難しいと思っているオリンピック、予定通り開催にこだわるのはなぜか」、1日で週刊文春が売り切れるほどに国民が関心を持っている「善良な公務員が自死にいたった真相」、この2点だ。根拠のない上から目線で「そんなことをやっている場合ではない」と罵詈雑言を浴びせる方々を常に見かけるが、憤りと悲しみからくる「鬱々とした気分」に苛まれて精神的にギリギリの状態にある納税者が日本全国に数えきれないほどいる以上、総理大臣たるもの、懇切に対処するべきではないのか?三原じゅん子参議院議員がおっしゃる通り、「総理のお言葉」をみなで拝聴しようじゃないか。

涙はそこからやってくる 心のずっと奥の方 情熱の真っ赤な薔薇を 胸に咲かせよう。ああ、もうすぐ隠居の身。茶番は終わりにしようぜ。

https://youtu.be/hKluijUur3U
投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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