隠居たるもの、広げた風呂敷をきちんと畳む。悲願の引渡しを受けてから3週間と4日が過ぎた。今は1年以上かかって「絵に描いた餅」を、実際に「手に取れる餅」に変換すべくせっせと作業に励んでいる最中だ。しかし、寄る年波には勝てず思った以上に疲れてしまったり、そこは素人の悲しさ、簡単にできると考えていたものが実際にやってみると手強かったり、そんなこんなで目論見からすると遅れ気味ではある。だけれども、それは「完了」までの楽しい時間が先に延びたことに他ならないから、喜ぶことではあっても少しも気に病んだりはしていない。「絵に描いた餅」は「手に取れる餅」へと、ゆっくりだけど着々と形を変えているのだ。

吹き抜けの向こうに寝室がある

散種荘には吹き抜けがある。当初こんな「絵」は描いていなかった。平家にするつもりだったのだ。だがしかし、気に入って購入したこの土地がそれほどに広くなく、取り決められたルールに則って図面を引くと、ヘンゼルとグレーテルが暮らしているかと見紛(みまが)う童話の中の「可愛く小さな家」になってしまう。ゆえに仕方なく2階建てを検討するのだが、隅々まで床が届いた2階建より、吹き抜けになっていて3分の1くらいの床が間引きされている2階建ての方が当然にお金がかからない。つまりは苦肉の策だったのだ。わからないもので、それが計り知れない功を奏す。

1階はリビングとダイニング、2階は寝室とお風呂・洗面、階段を隔ててこうしてくっきり用途・性格に違いができたことで、それぞれが割り込まなくなる。よってトイレやお風呂・洗面の他に仕切りを設ける必要がなく、また吹き抜けを間に共有することで、「2階建てなんだけど建物全体で立体的なワンルーム」という雰囲気を醸すに至る。結果、日々を暮らす深川のマンションと延べ床面積がほぼ同じなのにも関わらず、その解放感は比べようがない。吹き抜けに音が反響することで、建物自体がコンサートホール並のスペックを持つことになったのも嬉しい副産物であった。その動機が「節約」に求められるのに、なんとも乙に見栄えがいい。この吹き抜けを挟む1階と2階、「記念にいただいた時計を眺めつつ、今はこうして暮らしてる」(https://inkyo-soon.com/commemorative-clock/ 8月11日の省察)で紹介した掛け時計をそれぞれに配置してみた。ありがたい、これも「絵」になる。そして「LONDON」時計に正対する、吹き抜けの向こうが二段ベッドが置かれる寝室だ。

続・二段ベッドを組み立てる

1日に1台ずつ組み立てた。照明には山小屋の寝室らしく、味のあるPLUMENのLED電球ふたつを選んでいたから、組み上がるまでは危なっかしくて天井から下げられない。(この製品は春に生産を終了してしまった。一緒に「餅」の「絵」を描いてくれた丸ビルのコンランショップが、本製品の生産終了後も展示品を取っておいてくれて、「よろしければ」と値引きして譲ってくれていた。)寝室だから窓も小さい。だから最も明るい時間帯でないと作業できない。サッカー部後輩と姪の住まいで試しに組み立てたのは7ヶ月以上前の3月中旬のこと(「二段ベッドを組み立てる」を参照:https://inkyo-soon.com/assemble-the-bunk-bed/)、東京オリンピック組織委員会の森喜朗委員長が、「オリンピックは予定通りに開催する」と強弁し、「私は最後までマスクをしない」とよくわからない自慢をされていた頃のことだ。小池百合子都知事だってまだ手のひらを返していない。試しに組み立てたのはそんなころに一度きり、はっきりと覚えているわけがない。この側板は内に向けるのか外に向けるのか、何度も間違えてやり直し、夫婦間の口数がみるみると少なくなる。私たちはそんな苦闘を繰り広げた。

寝室の全貌:「餅」は「絵に描いた」ものを超えていた

「やっぱり狭いなあ」何もない2階の寝室に初めて上がったとき、そう思った。もちろん図面上は2台置ける。だけれども、組み立てて置いたら「もっと狭く感じるんだろうなあ」そうとも思っていた。それがどうだ、「二段ベッド2台構想」に栄光あれ。機能を伴う立体的な居住空間がしっかりできあがると、何もなかったときよりかえって広く感じるようになる。それにすっかりと山小屋だ。私たち夫婦はそれぞれの下段に寝床を占めてみたが、これがどうして、穴蔵効果とでもいうのだろうか、すっぽりと守られているように感じてよく眠れる。裸足で冷たかろうと用意したペルシャのギャッベカーペットもぴったりと映える。(インターネットでCarpetVista https://www.carpetvista.jp/rong-tan/giyatube というとても良心的なスウェーデンのサイトを見つけてそこから購入した)「手に取れる餅」に変わった「絵に描いた餅」は、どうやらこれまた目論見を超えていた。

帰りがけにひとっ風呂

名残惜しくも東京に帰る日、ウォーキングがてら白馬駅まで歩いた。途中にみみずくの湯があるから、昼日中ひとっ風呂浴びに寄る。みみずくの湯は1人650円。私たちはまっさらの「湯めぐりチケット」(白馬で販売されている、100円券25枚つづりで定価2000円、500円おトクな日帰り温泉施設限定金券)から100円券を13枚かぞえて差し出した。メガネをずり落とした受付のおじさんは、「あれ?1枚多いよ」と1枚だけ切り離してこちらに返す。そればかりか、わざわざセロテープで手元に残った12枚に貼りつけてくれる。おじさん、とぼけているけど確信犯だね?こちらにはぴったり13枚とセロテープ、「またおいで」というわけだ。風呂上りに白馬クラフトビールを飲んでいたら、テーブルの先に赤トンボがとまる。ああ、もうすぐ隠居の身。近いうちにまた来ます。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です