隠居たるもの、久方ぶりにハンドル握る。道を覆う雪もすっかりとけた白馬である。レンタカーを借りて、いくらか遠くに繰り出してみた。どこに向かったのかというと、2021年3月23日の火曜日、栂池高原スキー場に足を伸ばしたのである。散種荘からすると10kmちょっと北に上がったところ、白馬村を出てすぐの小谷村(おたりむら)に栂池は位置する。シーズンの盛りも過ぎたため、主要スキー場を結び合うシャトルバスの運行も終わっている。しかし、まだまだしつこく滑りたい。自動車を持たずに白馬で暮らすチャレンジをする私たちである。ここは潔くレンタカーの助けを借りた。
まずは駐車スペースの雪かきをする
普段から自動車に乗るわけではない。駐車スペースの雪は放置したままだった。いっときは肩を越えるほどに積もった雪、今は膝にも届かない。前の晩から降った雨のおかげで、残っている雪もシャーベット状になっている。コンパクトカーの広さを確保する程度なら大袈裟な労力を必要としない。予報によれば、午後からさらに本格的な雨が降るという。ということは、薄く残した雑な雪かきさえしておけば、あとは雨がすっかり始末してくれるという寸法だ。「おじいさんはスノーボードのお手入れに」、「おばあさんは駐車スペースの雪かきに」、私たちはそれぞれの仕事に勤しんだ。それを済まして、ニコニコレンタカーに予約を入れる。
ニコニコレンタカー白馬店
ニコニコレンタカーは、ガソリンスタンドの副業にしてニコニコさんが展開しているレンタカーチェーン。返却時に必ずといっていいほどそこでガソリンを入れるからこその副業で、自ずと料金も良心的だ。このあたりに2店舗あったうち、残念なことに、我が散種荘に近い方がこの3月いっぱいでスタンド自体を廃業、レンタカー業務はすでにやっていなかった。仕方ないので歩いて40分の遠い方(駅からは圧倒的に近い)にインターネットでアクセスし、月曜日の夕方から火曜日の夕方までの予約を入れる。前日の夕方に、散歩して日帰り温泉「みみずくの湯」に行きがてら車を引き取り、当日の朝から栂池高原スキー場に出向き、帰りがけにいくらか用足しをして帰宅、洗濯など済まして夕方に返しに行く。その後、「みみずくの湯」にまたしてもつかり、そのまま隣の敷地の馴染みのレストラン「雪峰」で食事をする、そういうレジャーがらみの算段を立てた。出光のガソリンスタンドには、真っ白な日産マーチが用意されていた。店からすればこれはあくまで副業だから、たくさんの台数が用意されているわけではない。大きな車を必要としない私たちにとって、このまん丸いマーチが今後の「愛車」になるに違いない。
晴天の栂池高原スキー場
栂池高原スキー場に出向いたのには理由がある。今後も「春ボード」を楽しむに際し、視察を施しておこうと考えたからだ。山頂付近は1700メートルとこのスキー場は標高が高い。また、白馬の主要スキー場の中では最も富山県寄りで雪質が最後まで保つという。そして馴染みが薄いスキー場は、晴天の平日に慣れておくに限る。この日、天気予報には一点の曇りすらなかったし、実際にきれいに晴れた。上の方の雪はまだまだいける。歴史のあるスキー場だけあって、コース幅が広い。初級者を連れてくるにはここがいい。拠点を持って2年目となる来シーズンが楽しみになってくる。
久しぶりの「みみずくの湯」
シーズンの盛り、日帰り温泉を避けてきた。スキーを終えたお客さんたちで、こんなご時世なのに「混雑」を通り越して「ごった返す」からだ。もちろん裸で口は塞がない。「密」になっているのに、ペチャクチャおしゃべりを止めない人が少なからず必ずいる。なんとも恐ろしく、足を遠ざけていたのだ。そこを恐る恐る解禁してみた。
「レンタカー貸し借り」に伴う「移動」に彩りを加えたかったからだし、シーズンが過ぎた平日ともなれば混雑も緩和されているだろうと考えてのことだ。案の定、両日ともにおしゃべりを止めない人もいるにはいたが、ディスタンスが保てるほどには空いていた。おかげで腰の不安が消え去る。雪峰で食事をとりながら、レンタカーを借りるにあたってのアレコレをつれあいといろいろ話してみる。
ここはひとつ、スケートボードだよ
ニコニコレンタカー白馬店の方は「返しに来るのがちょっと面倒だというなら、取りに行きますよ。割増料金(1100円)をいただきますけど」とおっしゃる。あの店から我が散種荘まで、タクシーを利用したら多分1600円くらいの料金がかかるのだから、これは素晴らしいサービスだ。この日のように温泉に入ってから食事をするのもいいけれど、場合によっては取りに来てもらってもいい。馴染みになったら、ガソリン代だってツケにしてくれるに違いない。問題は取りに行く「徒歩40分」。そこを何とか簡略化する方法はないだろうか。ブレインストーミングはここから始まった。
その簡略化がなされれば、朝から動きたいからと前日から借りておく必要もなく日中のみのレンタルで事は足りる。では、真冬に借りることはまずないのだからして、我が散種荘から「自転車に乗って借りに行く」というのはどうか。ずうっと緩やかな下りだからあっという間だ。しかしここには問題が残る。店に置かしてもらった自転車を、必ず取りに行かなければならない。つまり、車を返却しに行くことが大前提となるのだ。そうして温泉に立ち寄ったにしても、その後に酒を飲むのを控えなければならない。それに、雨が降ったりしたらどうするのか…。ここでつれあいが閃いた。「そうだ、スケートボードだよ!」確かにそうだ。颯爽と山を下りた後、そのまま車に放り込んでしまえばいい。そこからはフリーハンドだ。雨が降ったとしても、山の中なんだしレインウェアを着込んで乗ればいい。素晴らしいじゃないか。ところで、誰がスケートボードで颯爽と借りに行くんだ?私たちはともにスケートボードに乗ったことがないはずだが…。
あと2ヶ月もしないうちに57歳になる。これからスケートボードの練習をする。あれだけスノーボードに乗れるんだからなんとかなるだろう。ああ、もうすぐ隠居の身。人生また楽しからずや、なのだ。
参照:ニコニコレンタカー白馬店 https://www.2525r.com/nagano/kitaazumigunhakuba/store-00512-001.html