隠居たるもの、陽射しの合間の隙を見る。山に囲まれ標高も高い白馬であるが、今般の気候変動のご多聞にもれず、夏の昼日中に30℃を超えることもザラになった。近隣に古くから暮らす方々は「○年前、初めてエアコンを取りつけた」と口をそろえる。「○」の部分が「2」だったり「3」だったりする。いかんせん標高が高いだけに陽射しが獰猛だ。湿気が少ないから、日陰に身を潜め風さえ吹けばそれはそれで快適なので私たちはエアコンを使わないけれども、日中に外で行動するときは細心の注意を払わねばならない。人間とはなんともひ弱なものよ。そこいくと虫の奴らは元気いっぱい、「我が世の夏」をこれでもかと謳歌しているのであった。

ハチ・アブ バズーカジェット

2021年7月21日一昨日の夕刻に白馬に着いた。久しぶりの「我が家」とばかり勇躍ドアを開く。するとどこからやってきたのか、蟻たちがせっせと仕事を探しているではないか。とりわけ土間とキッチンに多い。豪を煮やして数匹は掃除機で吸ってしまったが、できることなら無益な殺生をしたくない。「残念ながらここに君たちの仕事はない。他をあたってくれたまえ」とこちらもせっせと外に掃き出す。思いが通じたか、以来、彼らの姿を家の中で見ることはなくなった。その代わりなのか、外で作業していてくるぶしのあたりがムズムズすることがあると、大概は彼らが這い上がろうとしていたりする。

山の朝は爽やかだ。昨日7月22日、ウッドデッキに出てゆったりと身体を伸ばす。「ああ」と上空を見上げて仰天する。屋根のひさしに蜂の巣が作られているではないか。こうした時に都会育ちのもやしっ子は役に立たない。慌てふためき管理事務所に「どうしたらいい?」と連絡する。うちの担当さんが2時間ほどで来てくれた。「スズメバチだと慎重に対応しないといけないですからね。大丈夫です。あれ、アシナガバチ。滅多に人間を攻撃しません。ああいうとこが好きなんですよ。頑丈な回廊を作ったから、あっちにも巣を作るかもしれません。一発バズーカをかましておきますか?」という。「バズーカ・・・?」聞くと、アブやハチ用の4メートル先に噴射できる強力な殺虫剤があるのだそうだ。

担当さんは2階に上がり、ウルトラ警備隊員のように窓から身を乗り出し、バズーカを噴射した。本当だ、2メートルほど先にある巣に、煙のような殺虫剤成分が直接あたる。ほどなくしてアシナガバチがボトボト巣から落ちてくる。ああ、人間とは罪なものよ。気がつくと蟻たちが寄ってきてアシナガバチを担ごうとしている。「南無阿弥陀仏」と私は念仏を唱えた。「これで大丈夫だと思いますが、女王蜂が生きていれば、しばらくしてまた巣が大きくなり始めます。スーパーならどこでも売ってますから、バズーカ、一本あった方がいいかもしれないすね」と言い残し、担当さんは颯爽と帰っていった。その日の夕方、私たちはいつものA・コープでフマキラーの「ハチ・アブ バズーカジェット」を買い求めた。

いつものスーパーで身の危険を感じた

7月22日の夕刻、陽射しが弱くなるのを待って、ウォーキングがてら駅近くに下山し馴染みのA・コープ ハピア白馬店に足を運ぶ。日中に気温が上がり過ぎたのだろう、なにぶん山の中のこと、どこか遠くで雷が鳴っている。雲が溜まった局所で夕立が降っているに違いない。おかげで風が心地いい。それにしても車の往来が多い。ここでようやく気がついた。今日から4連休か…。このところ曜日とか休日とかお構いなしにバイトなどの予定を立てていたから実感がなかった。どうやら午後から続々と白馬に人が押し寄せてきたようで、いつもは空いているスーパーが若者たちでごった返していた。効果が保証されないウレタンマスクなのに、それさえアゴにかけたままつけない者もいる。そして、みんな楽しそうに密になってはしゃいでいる。今どき流行りの「キャンプ」にやって来たのだろう。キャンプ場で彼らはマスクを外し、酒を飲んで盛り上がるのだろうか。県境を跨いでいる私たちが言えた義理ではないが、久しぶりに身の危険を感じ、彼らを遠巻きにして慄いていた。帰りのタクシーで運転手は「白馬にこんなに人が来るの本当に久しぶりですよ」と言っていたが、散種荘の周囲にある貸しコテージやホテルも子供たちの嬌声に満たされている。この日、東京の新型コロナ新規感染者は1979人だった。4連休の残りは籠城することにした。

ヒノキの雪がこいにW・Pステイン(木材保護塗料)を塗る

今日7月23日、私は池田建設社長が用意してくれたヒノキの雪がこいにW・Pステイン(木材保護塗料)を塗っていた。色をつけるのと同時に、木材の腐食を食い止める。社長から「経費削減のためにDIYでやってみたら」と投げかけられた宿題だ。すぐ乾くから作業は夏が適している。それに早く作業を終えて、木材を所定の場所に移して早くウッドデッキを広々とさせたいし、だから籠城をいいことに着手することにした。上の写真では清新なヒノキが、作業の果てに下のようになる。

「夏休みのおじさん」とつれあいが笑っている。夏休みではないが、「夏のおじさん」であることに違いはない。家の中から漏れ聴こえる音楽を楽しみながらやっている。今日かけたBGMは、Led Zeppelinのセカンドから4枚目だった。暑いのに私がご丁寧にシャツまで羽織っているのは、襟で首を紫外線から守らなければならないからだ。15分も作業したら日陰に入るようにしていたんだけど、午前中に2時間とちょっとやって限界に達する。冬はまだまだ先だから急ぐこともない。今日は5枚仕上がった。取り付けると下の写真のようになる。

ヒグラシが鳴いているうちに

陽が落ちてきて、すっかり涼しくなってきた。ヒグラシが鳴きはじめている。さて、カナカナと彼らの声が聴こえるうちに風呂に入ろうか。なによりも風呂に入れることがありがたい。東京にいると、疲れが取れるどころ汗が止まらなくなって疲れが増幅しちゃうから風呂になんか入れない。それから少し狭いウッドデッキで夕涼みしながらビールを飲むとしよう。BGMは友達にもらったジョージ・ベンソンのライブアルバムがいい。ああ、もうすぐ隠居の身。わずらわされることのない、いい一日だ。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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