隠居たるもの、巡る寿の由来を知る。先日、義姉の還暦祝いの段取りを手伝った。実の娘ふたりはそれぞれに、長女の方は第一子である男の子を出産したばかり、次女は1歳４ヶ月になる娘の育児に大わらわ、と手が回らない。だけれども、日頃の感謝を込めて母の還暦祝いは特別なものにしたい。ということで、つれあいと私のところにお鉢を回してきたのである。お祝いの食事会の一週間前のことだ。私たちはもろもろ確認して、赤子と乳幼児も含めた参加者全員のTシャツを、義姉にだけ内緒にしてあつらえることにした。
そもそも“還暦” とは何か
還暦といえば60歳のお祝いである。その由来は、おなじみの十二支（じゅうにし）と、「甲・乙・丙・丁・戌・己・庚・辛・壬・癸」の十干（じっかん）を組み合わせた、干支（かんし／えと）からくる。十二支と十干の組み合わせは60種類におよび、人間が生まれてから60年経つと、この60種類の干支が一巡する。このことから「生まれたときと同じ暦に還（かえ）る」という意味で「還暦」と呼ぶ。では、なぜ赤いちゃんちゃんこなのか。その理由は、赤い色に「魔除け」の力があるとされていたことと、ちゃんちゃんこが赤ちゃんに着せる羽織だったことからくる。病気や悪いものから守るために、かつては赤ちゃんに赤いちゃんちゃんこを着せていた。「還暦（生まれたときと同じ暦に還ること）」＝つまり「赤ちゃんに還ること」、このとても素敵な飛躍から、これからの健康をあらためて祈念し、赤いちゃんちゃんこを贈る風習となったのである。
＊「だんらん日和」さんで勉強させてもらいました。https://www.danlan.jp/_ct/17194904
「BORN REBORN ONE LOOP」はそんじょそこらのロゴじゃない
今日、ちゃんちゃんこは「流通」していない。赤ん坊の羽織と認識されてもいない。それに、もらっても複雑な気持ちになるだけなんじゃないだろうか？だからそれにこだわることもなく、身につけるもので、「魔除け」の念が込められていればいいのだ。Tシャツなんか寝巻きにもできるし、最適ではないか。お義姉さんの分だけ赤地に白いロゴ、残りのみんなのものは白地に赤いロゴで発注した。ここで、私がひねり出したコピーについてもお耳を拝借したい。
BORN REBORN ONE LOOP
BORN は、9月10日に新たに生を受けた、お義姉さんの長女の息子（私たちからしたら姪の息子、姪孫・てっそん）の誕生を寿（ことほ）ぎ、REBORN は、21日に「赤ちゃんに還った」お義姉さんの再誕生を祝い、そしてONE LOOPは 、お義姉さんがひとまわり終えて「ひとつの輪」を完成させたことを称えている。最下段で「NEW」と冠されているのは、表向きの名前は変わらないけれど、お義姉さんは「再誕生」した「新生児」で、なおかつ2019年9月のこの日の主役であることをキッパリ明記するためだ。
主役だけの赤いシャツ
自宅で和やかに催す食事会に際し、ひとりずつ着替えて素知らぬ顔で食卓に集まった。最初に現れた孫娘を目にして、「イイのもらったねえ」などと幼児対応していたお義姉さんが、いつの間にかみんなが同じTシャツを着ているのに気づいて「？？？」となる。長女が同じデザインの赤いTシャツを手渡し「お誕生日おめでとう、還暦ですね」。お義姉さんは、とってもとっても嬉しそうだった。良かった、本当に素敵な夜になった。
だから、「あと少しで還暦だよ…」などと嘆くのは間違っている。REBORN に向けて着々と準備を進めるのだ。ああ、もうすぐ隠居の身。とてつもなくカッコいい、私たちだけの赤いコレクターズアイテムをこしらえようじゃないか。
