隠居たるもの、細工に追われる年の暮れ。2025年12月4日、用事があって数人とLINEグループでやりとりしていると、午前中にソウルから戻ってきた大学の先輩が思わず「東京は暖かい!」とおっしゃった。「今日はいよいよ寒い」と朝からニュースで刷り込まれていたから「?」としばしフリーズしたが、そう、大陸からのからっ風が吹き荒ぶ彼の地からすれば、東京の寒さはアマチュアのそれである。かつて私も12月のソウルで寒波に出会し零下20℃の夜を経験したことがある。耳や鼻、とにかく露出している皮膚が痛かった。とはいえまだ身体が慣れないうちに急に到来した冬の日である、できることなら部屋でヌクヌクしていたい。「マンション管理新聞」にも目を通さなければいけないし、ちょうど溜まっているデスクワークをひとつひとつこなすことにする。そこでふと気がつく。「待てよ、21年に及んで目を通し続けてきたマンション管理新聞だが、もしかしてこれが最後か?」次の土曜日の定期総会をもって、おおせつかってきた理事の役目を私は完全に終える。

マンション管理新聞に感慨を覚える
マンション管理新聞とは、月に3回発行されるいわば業界紙である。マンション管理に関わる法律の変遷や補助金の傾向、はたまた修繕にまつわる新技術や管理組合を舞台にした汚職・着服・詐欺事件、そんなことが記されている。管理組合で定期購読契約をしており、それを理事たちで順繰り回覧している。最新は1320号だという。長きにわたり継続して理事会に携わってきたのだが、はたしてそのうちのどれくらいに目を通したのだろうか。試しに計算してみる。3回X12カ月X21年間=756号。年末年始や夏季に合併号となることもあるから実際にはそれより少ないはずだ。しかし半分を優に超えていることは間違いない。いやはや、生き字引といって過言でない🤭。記事によってはときに熟読するが、たいがいは流し読み、とはいえ腐れ縁のようでもあり、これが最後かと気づくとあらためて感慨を覚えた次第である。

自動車のチョイスに右往左往する
長らく暮らしてきた深川のマンションをすでに契約を済ませている買主に最終的に引き渡すのは来春のこと。そこから生活の中心は白馬となる。それに向けて準備を進めているところであるが、まだ半年あるからと悠長に構えていると、人手不足、国をまたぐ部材調達の不確実性、規制強化、このあたりがこんがらがってとんでもないことになる。よってひとつひとつ周到に進めているわけだけれども、まずは自動車だ。半分は東京に重心を置き頻繁に鉄道で移動していたから「車なし」でなんとか押し通せたが、地方にずずいと重心を移すとなると行動半径を広く柔軟に確保するためにもマイカーは必須。だからといってゴルフをやるでなし「趣味:ドライブ」というわけでもなし、走行距離がかさんで酷使することもなかろう。考えるに免許を返納する日だって突拍子もなく先のことではない。そんなこんなを考えれば、ここで購入する車は場合によっては生涯最後の車、山本譲二の「みちのくひとり旅」風にいえば「俺にはお前が最後の車」となる公算が大だ。

しかし勤労に基づく定期収入が購入原資ではないから「高かろうがとにかく欲しいやつをチョイスしてがんばってローンを払うんだ!」という選び方をするわけにはいかない。気候変動を「史上最大の詐欺」とまくしたてたどこぞの大統領ほどの恥知らずでもない。いかんせん豪雪な寒冷地、冬に安全に走れるか、とにかくポイントはここにある。けっこう真剣に電気自動車を検討するも、零下の日常ではバッテリー性能は著しく低下するし充電速度もわかりやすく遅くなる、ただでさえ重い車体は凍結した路面で危険をはらむ、こうした致命的な不安を払拭しきれず泣く泣く断念。散歩するついでにご近所さんの車種を「カウント調査」してみると、さもありなん、四輪駆動がウリのSUBARUもしくはやっぱり四輪駆動の軽トラックでざっくり半分を占めている。そこに加えて袖擦り合うも他生の縁、先の冬にSUBARUは我が散種荘を背景にプロモーション動画を撮影した。その際に菓子折りをいただいたことでもあるし、調べてみたらあの時のあの車種はハイブリッドだというし、アイサイトという先進運転支援システムも評判がいいし、ここはひとつこれでどうだと思い至った次第である。

俺にはお前が最後の車
来春、雪解けしてから散種荘の庭に離れを建て始める。それが出来上がるであろう5月末あたりから白馬中心生活は本格的にスタートする。そこにぴったり納車を合わせるべく、ディーラーとやり取りするタイミングを思案していた。そこにどこぞの首相がその必要もないのに「虎」の尾を威勢よく踏んづけた。その「虎」はレアアースを牛耳る世界的な元締めだから、場合によっては新車の製造に抜き差しならない支障が生じる。それこそ「半年先だから」と悠長なことは言っていられない。レンタカーを借りて今年最後の紅葉狩りドライブがてら、そんなこんなを確認しに松本のディーラーに足を運んだ。もちろん先方からして早々に注文を取りたいのは山々、それを差し引きながら話を聞いたとしても、年内に発注しておくのが得策と判断された。カタログを見ながら解説を受け、つれあいとともにカラーやオプションもあらかた決めた。プロモーションビデオの背景に使ったからといって特別な割引やサービスを提供することは難しいそうだが(笑)、次に足を運び試乗するときまでには見積もりも丸まっているに違いない。「それではこれであつらえておいてもらおうか」そうなろうかと思う。8年ぶりのマイカーは松本ナンバーだ。

佳境を迎える離れの仕様あらかた
もう一方、離れの仕様打ち合わせも佳境を迎えている。当然のこと小さな離れといえどもきちんと段取りを踏まないといけない。同年代の地元工務店社長によると、5年前に当時のガースー首相が根拠も乏しいのにやはり威勢よく「2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロにする『カーボンニュートラル』を宣言」した余波で、先の春から建築申請が大変に煩雑になっているのだそうだ。従来の日本家屋が断熱性能に問題を抱えていたことは否めない。それが放置されたままだと化石燃料を無駄に燃やしてしまうから、基準が明確にされ膨大な構造報告が義務づけられたのだという(今日の住宅性能を鑑みると温室効果ガス排出の主犯はここではないのだが)。しかしそれだけの資料をチェックする側も人手不足で態勢が整っておらず、そのため申請してから認可を受けるまでに以前からしたら考えられないほどの時間がかかる、だから雪解けと同時に工事を始めたいなら年内に建築申請を出しておかないと安心できない、社長はそう言う。現に隣接地なんぞは春に雑木林の一部を開き工事範囲に杭を打ったものの、建築申請に手間取っているうち職人たちが他の現場に移ってしまったのか、その先いっこうに工事が進まずいつしか草ぼうぼうになっている。なのでこちらも次の打ち合わせで窓の配置を含めあらかた仕様が決まり、あとは壁面に作りつける本棚の構成を残すのみという予定でいる。

断捨離に勤しむ日々
マンションの納戸の奥から大きなバックを引っ張り出す。かつてスノーボード旅行に使っていたものだ。白馬に落ち着く私たちにはもう必要がない。しかし子育て真っ最中の姪二人のどちらかには重宝するかもしれぬ。彼女たちに呼びかけるに際し縮尺を示すため身をもって並んでみた。つれあいがケタケタ笑いながら撮影しLINEに流してみると、すぐさまほぼ同時に二人から「欲しい」と返信があった。タッチの差で先行した妹に進呈することにし、姉の方には他のバックを見繕った。「今はもうタートルネックセーターは着ないんだよなぁ。でもこれいいもんだしなぁ」と売りに出すかどうか迷う私に、つれあいは「年を取ったら『首筋が寒い』って言うようになるかもしれないからとっとけば」とごもっともな助け舟を出す。私たちは断捨離に日々余念がない。期限が決まった方がより確実に動くから引越し業者にも打診を始めた。ソウルを襲った大寒波はひと足遅れて日本にも到達し、白馬にも大雪をもたらしたという。各スキー場から「オープン!」という弾んだニュースが届く。来週あたり私たちもシーズンインするだろう。ああ、もうすぐ隠居の身。細工は流流 仕上げを御覧じろ。