隠居たるもの、騒がしい場でこそ我を忘れない。昨日、「吉田類と仲間達 VOL.12」なる寄合に足を運んだ。吉田類さんをご存知だろうか。「酒場詩人」、高知が生んだ偉大なる酔っぱらい。言わずと知れた、2003年の9月から今も続く、BS-TBS「吉田類の酒場放浪記」のパーソナリティで「酔っぱらい界」の大御所である。このイベントをすでに11回もやっているという。押っ取り刀で笹塚ボウルに駆けつけた。
「我々酒呑みにできること、それは、楽しく笑って酒を呑むこと」
2011年東日本大地震からの復興を支援するために始めたチャリティイベントだそうだ。入場料4000円、場内での飲食は協賛企業(キンミヤ焼酎の宮崎本店、菊水酒造、割るならハイサワーの博水社、ホッピービバレッジ、鹿児島ハイボール、宇都宮からぎょうざの龍門等々、敬称略)からの振る舞い。メインのアトラクションは、トークショーと音楽ライブ。入場料からTシャツの物販なども含めた、すべての収益が東北と熊本の被災地に送られる。つまり、ご本尊 吉田類を仰いでボウリング場で大宴会を催し、忘却にあらがって災害を語り継ぎ、ささやかだとしても被災地への気持ちを伝達する手作りのイベントなのだ。SNSの拡散を主とした広報にも関わらず、昨日は400人も集まった。
「面倒くさいから飲み残すな」
「4時開場 5時開始だけど早めに行かないとまずい」という話が聞こえてきたから、3時20分くらいに笹塚に降り立った。見るからにツワモノという酒呑みの方々が、待ち合わせて作戦会議をしている。どうやって場所取りをして、どうやって酒とつまみを確保するか、どこか殺気立っている。気後れしながら駅から1分もかからない会場に到着すると、すでに長蛇の列…。この人たちのこの高揚感は一体なんなんだ?
ビルの3階にあるボウリング場に開場から20分ほどしてようやく入れた。DJがガンガンに回している。様々な酒が振舞われる。なんとか場所と酒を確保した頃、ご本尊が信者と乾杯を重ねながらステージにゆっくりと歩み寄る。5時開始と同時に、総合司会の渡辺佑(たすく)さんから注意事項。「これはあくまでも手作りのイベント。スタッフだって少ない。だから酒を飲み残すな!面倒くさいから」。ウオ〜!と怒号で応じる酒呑みたち…。メートルが上がっている…。この人たち、大丈夫か…?
吉田類はすでに呂律が回らない
ご本尊 吉田類の乾杯でイベントは幕を開け、そのままトークショーに突入するのだが、ご本尊の呂律がすでに怪しい。だけども脇を固める役者が揃ってる。参議院議員 有田芳生さんが「千葉には40を超える酒蔵がある。我々酒呑みがその千葉から目をそらすわけにはいかない」と、台風15号の被害に苦しむ千葉へも寄付を回そうと提起する。いとうせいこうさんが、「現在のお金がかかり過ぎる再生可能エネルギー生産を、そんなことなく簡単に始められるシステムを思いついた。近く発表するから期待してほしい」とボソッと頼もしいことを言う。始まったばかりで、酔っ払いたちもまだ「聞く耳」を持っている。その後、ハイボールを取りに行って有田さんと一緒になり、いくらか楽しくお話しもできた。しかしながら、イベントはここから先、みなの酔いの進みに合わせて、混沌へと突き進んでいくのである。
酔っ払いたちのボルテージ
「タモリ倶楽部」で特集が組まれたことを記念して作った、割るならハイサワー 博水社の「美尻カレンダー」を争奪する田中秀子社長とのジャンケン大会、ご本尊の色紙をめぐって繰り広げられる、これまた吉田類さんとのジャンケン大会など、酔っ払いのボルテージは上がりっ放し。考えてみれば、ここにはお酒を飲んでいない人がいないのだ。それどころか、焼酎・ハイボール・ホッピーをガンガンあおっている。“音楽を聴きながらお酒が飲める”お洒落な雰囲気なんかどこにもない。Saigenjiさんのライブが始まる頃には随分と出来上がっていて、どう猛な酔っ払いの中にミュージシャンが放り込まれるという図であった。しかし、ここから見たこともないグルーヴが生まれる。クセになる、すごい光景だった。
T字路’s の「襟裳岬」にむせび泣く
このイベントは、酔っ払いのための「酔っ払いフェスティバル」である。メインのライブアクト T字路’s、酒焼けしたような妙子嬢のハスキーボイスは、そんな酔っ払いたちの心をわしづかみにした。彼女が唄う「襟裳岬」に誰もが涙した。なぜだかは分からない。だけど、私もつれあいも、そこにいた誰もがたまらずに涙した。酔いつぶれて突っ伏していたアンちゃん一人を除いてだが…。
帰る前にトイレを済ませていた時、私のすぐ後ろに、笹塚駅で待ち合わせていた「ツワモノ」の一人が並んだ。麦わら帽子をかぶったケンドーコバヤシのような彼は、最前列ど真ん中で大変に盛り上がっていた。その彼が、私に語りかけたのだろうか、ポツリとこう言った。
「お酒を飲んじゃってるからトイレが近くて…。でも、少しでも被災地に届くといいですよね、本当に。」
ああ、もうすぐ隠居の身。我々は善人でいたいのである。