隠居たるもの、愛しきものに別れを告げる。森の一部だった白馬 散種荘の敷地に伐採・抜根の手が入ったのは昨年2020年5月のこと。それを端緒に工事は始まり、9月の末をもって一旦の完成をみた。秋から冬を過ごして「至らぬ部分」を思い知り、地元工務店に依頼しこれから第二期工事に臨む。この間1年ずっと、敷地内で倒された赤松の丸太をただ積み重ねた、私たちがそれを「アカマツ山」と呼ぶワイルドな「オブジェ」は、我が敷地の南端東側にドンと鎮座ましましている。この度2021年5月25日大安吉日、せっかちな社長にペースを合わせ、第二期工事が早々に始まることとなった。初日の作業はユンボで「アカマツ山」を撤去することだった。

そもそも何故にアカマツ山があるのかというと

「景観を維持するためにできるだけ緑は残して欲しいんです。しかし赤松だけは別で、この機会に敷地内の赤松は必ず伐採してください。成長が早すぎて背が高くなりすぎるんです。雷が落ちたり、折れて電線を断ち切ったり、けっこう厄介ごとの元になるので」現地管理事務所からそのように指導された。私たちもできるだけ緑は残したい。ひとつだけつけ加えて現地の造園業者にそのまま伝えた。つけ加えたのは「伐採した赤松は敷地内に残しておいてほしい」ということだった。せっかく薪ストーブにするのだし、「森の生活」を体感したいし、「自分の土地に植わっていた木は、そりゃあ薪にして自分とこで焚くべきだろう」と軽く考えてのことだった。

2020年6月9日撮影

いとも簡単に夢は破れた

伐採・抜根が終わり、これから建築工事を始めるという6月に視察に行くと、敷地は綺麗さっぱりしたもので、緑はこれっぽっちも残っていない。「どういうこと?」と造園業者に確認すると、「赤松を伐採したら残るのは雑木ばっかりで、残したって邪魔になるだけだからいっそのこと切っちゃった」とのこと。そして丸坊主の敷地の南端東側に、想定を超える「アカマツ山」が聳えていた。造園業者はいう、「だけど、これ大丈夫?」ここで初めて気づく。「これだけの丸太を経験もない者がどうやって薪にするというのか」後に「赤松は脂が多くてあっという間に燃えてしまうから薪には向かない」とも聞いた。ああ、ど素人の浅はかさよ…。こうして「アカマツ山」は、妙案が浮かぶこともなく、丸坊主で寂しい私たちの庭の、野趣あふれる唯一の景観オブジェとなった。

2020年10月31日撮影

しかしそうとばかりも言っていられない

雪が積もったら積もったで、「アカマツ山」は山たる威容を見せつける。こんもりと盛り上がり、リスなど小動物たちの拠り所になる。手に負えないほどの大雪が一段落して、日によっては陽射しが雪を溶かし始めた2021年2月14日、私は「アカマツ山」への冬季初登頂に成功した。つかのまそこで甘美な心持ちを味わいながらも、一方で苦いものを思い起こす。雪が溶け、暖かくなり、虫たちの季節がやってくる。そして夏になる。万が一スズメバチが「アカマツ山」に巣を作ってしまったりすると一大事。それに切られた木はいつかは腐る。このままではいけない…。

2021年2月14日撮影

池田社長に頼み込む

花の季節になって第二期工事の準備を始め、雪を熟知し散種荘ご近所さんの仕事も多く手がける地元工務店 有限会社池田建設に依頼することにした。池田社長におずおずと切り出してみる。「この赤松、どうにかなりませんかねえ…」「そうだねえ、どうにかしないといけないねえ。工事が終わって新しい造作ができちゃうともうここから出せなくなっちゃうしなあ…。ま、方法を考えるよ」そして後日の打ち合わせ、やっぱり社長は頼りになる人であった。「そのまま引き取ってくれるところを見つけた。これより腐っちゃうと捨てるしかなくなってお金がかかるんだけど、ギリギリ今なら破砕して木材チップとして使えるってことで。だから運賃だけ見積もりに加えさせてもらいました。最初に重機を入れてこれを処理しちゃおう。そん時に人力じゃ動かしようのない大きな石も地境の少し低くなってるところに片づけちゃうよ」北アルプスに位置する白馬は二千万年以上にわたる激しい地殻変動の果てにできた土地で、掘り返せばゴロゴロと石が出る。

5月22日が最終打ち合わせとなった。「今回は25日までいらっしゃるんだよね。その日、日がいいんだ。重機を運んでくるから、立ち会ってもらってその日が着工日ということにしたいんだけど、いいかな?」やはりこの社長とはウマが合う。ユンボはあっという間に「アカマツ山」を片づけ、運搬を待つべくあらためて表通りに「新アカマツ山」を積み重ねた。着工が始まった以上、第二期工事はもう池田社長に任せよう。そしていろいろ片づいたところで、私たちはようやくのこと庭作りに取り掛かることになるだろう。

(株)池田元一商店推奨のBIGBOY

以前、材木商の3代目である中学高校同級の友人、散種荘のDIY木材を多数提供してくれた株式会社池田本一商店社長に「山で暮らすとなると木を切る道具が必要であろうが何かいいものはないか?」と相談したところ、BIGBOYというノコギリを強く推奨された。それにしても中学男子である。材木商の跡取りだからと彼は「キコリ」というあだ名をつけられたのだ。あれから43年、さすがに餅は餅屋、BIGBOYは扱いやすい。「アカマツ山」が撤去される前日の5月24日、つれあいが「夏に向けて焚き火用のたきぎを作ってくれろ」というから頑張ってみた。親友アポロ・クリードを死に追いやったソ連の殺人兵器ドラゴに復讐すべく、山籠りして特訓したシルベスター・スタローン演じる「ロッキー4/炎の友情」のロッキー・バルボアを気取っているわけではないが、「アカマツ山」が鎮座ましましているとどこかそんな心持ちになったものだ。名残惜しいが、さらばだ、アカマツ山!ああ、もうすぐ隠居の身。「木」が関わる時、私が頼りにするのは常に池田社長だ。

参照:有限会社池田建設:http://ikeda-hakuba.jp/ 株式会社池田元一商店:https://www.ikedamotoichi.jp/

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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