隠居たるもの、家事労働は言わずもがな当然の務め。もちろん、身の回りの世話をしてくれる人を雇うほどの財力は私にはないし、仮にあったとしても人手不足のこの折に、確かな労働力を自分のために無駄に占有できるほど図々しい性格でもない。また、家事全般を一手に引き受けてくれるほど、つれあいがお人好しでもない。そして、「亭主関白」と愚かにいきがるような歳でももはやない。生活を営むために必要不可欠な活動を「労働」と呼ぶのならば、せねばならないことは楽しみながらやろうではないか。
三つ子の魂百まで
「家事をしない人」と思われることが多い。私がほぼ半世紀前に通っていた東京都墨田区の小学校は、その当時やたら子供に掃除をさせる学校だった。以来、掃除をテキトーに済ますことができない。特に、大掃除なぞは大きな掃除のことだから、毎年12月後半は大変なことになる。家具を動かす、ホコリをかき出す、何もかもみがく、テーブルにオイルを、床にワックスを塗る。年が明ける頃にはすがすがしい掃除痛が身体のはしばしに顔を出す。つまり、私は「家事をしない人」ではないのだ。
洗濯担当大臣
巷では失言担当大臣がまたしても確かな仕事を披露しているわけだが、我が家では昨年から私が洗濯担当大臣に就任した。隠居への修行の一環である。週に4回から5回、洗濯機を回し、洗濯物を干し、畳む。なかなか奥が深いもので、金属で作られた干し道具のピンチ数を考慮せず、やたらめったら衣服を洗濯機に放り込んだりすると、40分後に途方にくれることになる。ようやく慣れた今日この頃、干すための道具やハンガーを一新、無印良品のアルミや白いポリプロピレンに統一した。あにはからんや、洗濯場から否応ない生活感が大幅に減退し、心が踊る空間となった。
家事労働にはロンドンパンク
今日は土曜日。じっくり休日に家事をする時は、大音量でパンクをかける。それも大体はTHE CLASHのライブ盤とDAMNEDのファーストアルバム。とりわけてもDAMNED ファーストアルバムの一曲目「Neat Neat Neat」のイントロ、性急に唸るベースを聴くと「さあ始めよう」と腰が軽くなる。気合いの入った音楽を聴いて作業も捗る。70年代後半の初期ロンドンパンクがいい。ハード過ぎないつんのめり感が、家事労働に彩りを添える。しかし、THE SEX PISTOLSはダメなんだ。「ノーフューチャーとくらぁ」って感じでどうでもよくなっちゃうから。
私は今のところ料理・炊事は担当していない。これからは取り組んでみようかしらね。ああ、もうすぐ隠居の身。未知の領域はまだまだ残されている。