隠居たるもの、ときには叱言を並べてたしなめる。JR京葉線に乗車中、モバイルSuicaとして使っているiPhoneの電源が落ちた。11月21日の夜、懇意にしている山本奏(かなで)さんが出演するお芝居を観た新浦安からの帰り道のこと。劇中で、奏さんはピアノに合わせてThe Eaglesの「Desperado」を歌った。「ねぇならず者、どうして目を覚まさないの?」しっとり歌い始められるこの曲が、なんともしみる冷えた晩だった。

Desperado,Why don’t you come to senses?

新浦安からひと駅の舞浜で、ディズニーランド帰りの観光客がごっそり乗ってきて、「くわばらくわばら」とBluetoothのイヤホンを装着し、The Eaglesのセカンドアルバム「Desperado」をiTunesから探し出す。レコードではA面の最後だったアルバムタイトル曲「Desperado」にようやくさしかかった時、充電が尽きて電源が落ちてしまう。残念だけど仕方ない、乗換える八丁堀にももう着くし…。しかし、ここでハッと冷汗が出る。そうだ、私はモバイルSuicaなのである…。

よくあるご質問

とにかく「現金で清算」してくれとのこと。もちろん、乗車したのだから現金であろうと清算するのはやぶさかではない。ただ上の回答 2.にあるように、入場時のデータを消去しないと充電後にだって使えないことを知っていたから聞いてみた。JRは最寄りでなく日常的に利用しないから、そのデータを消去できるのはJRの駅だけなのか、それとも東京メトロでも可能なのか、ここは重要なところである。ペーペーとも思えない中年の駅員さんの返答はそっけなく「知りません」…。仕切りの向こうにiPhoneの充電コードを目にして、なんだか困り果てて「3分でいいから充電させてくれないだろうか、とりあえずここは出れて気がかりなことも解消するから」と頼んでも煮えきらない拒否が続くばかり…。結局、現金で運賃を支払い、清算書というレシートのようなものを手渡されて改札の外に出ざるを得なかった。

後日に検索した上のホームページ回答にはこう記されている。「充電が必要な状態になっても、端末の予備電力機能により一定時間Suicaを利用できます。」ということは、あの時あの駅員さんに頼らずにそのまま自動改札機にiPhoneをかざしていれば、何の問題もなく私は改札を出ることができたのだ。自身の不明を恥じはするが、駅員さんから「とりあえず通ってみてください」とも案内されなかった。

断然、東京メトロ

「こちらでJRの入場データを消去できるの?」翌金曜日、最寄りの東京メトロ半蔵門線の駅で問いかけた。若い駅員さんがそっけなく返答する。「できますよ」、そしてこう続けた。「なんか紙もらいませんでした?」そういうことか!「これだろ?」とばかりに昨晩の精算書をひらひらさせる。すると「これじゃないんですよね。明細書というのがあって、会社が違うときはそれがないと…。書いてくれませんでした?」「書いてもらってない…」彼はそれから3秒ほど考えこんで、やっぱりそっけなくこう言った。

「うん、いいですよ。私の方でなんとかしておきます。iPhone かしてください。乗れないっすもんね。データ消去しときます。」

私は過去から一貫して、営団地下鉄と名乗っていた頃から、断然に東京メトロ派である。情の通った素晴らしい対応だ。

ちょっと、そいつはどうだよ

このひと月の間、首をかしげたくなるJR東日本の応対が続いている。ちょっと前にぼやいた「東海道線グリーン券払戻し事件」。東海道線の車内、東京駅改札、馬喰町駅、錦糸町の緑の窓口と4カ所回り、それぞれで嫌味がましく異なる案内を受け、誤って購入したグリーン券1000円の払戻しを受けることができたのはようやく1週間後のこと。そもそもはこちらのミステークではあるから、ことさらに「被害」を喧伝(けんでん)するつもりはないが、やっぱり「ちょっと、そいつはどうだよ」と釈然としない心情に立ち戻る。旅先のJRの駅でこのような心持ちになったこともないから、JR東日本とりわけ首都圏に従事する駅員さんたちが、追い立てられて「疎外された労働」を強いられているのだろうと推測する。

あの晩以来、我が庵では名盤「Desperado」が繰り返し再生されている。「ねぇならず者、どうして目を覚まさないの?」ああ、もうすぐ隠居の身。そう、私は情の通った世界で暮らしていたいのだ。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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