隠居たるもの、巷の噂に気を配る。映画「パラサイト 半地下の家族」が評判である。昨年のカンヌ映画祭でパルム・ドールを獲得したばかりか、アカデミー賞でも6部門にノミネートされている話題作だ。INKYOシネマズでこと足りたのか(といっても一杯やりながら一年で115本観ている)、是非ともと思える作品がなかったのか、昨年は劇場で1本も映画を観なかった。興奮した賛辞ばかりが聞こえてくるので、重い腰を上げてみることにした。昨今はインターネットで予約が済んでしまうから簡便だ。日本橋TOHOシネマズ、1月18日土曜日の15時30分上映回に空きがあった。

センター試験の日は天気が悪い

「雪になるかもしれない」というからヒヤヒヤした。センター試験の日はいつも天気が悪い。交通網に支障が出ない程度でよかった。大雪に見舞われ気の毒に思った記憶があるから「いつも」と思ってしまうのかもしれないが、風邪やインフルエンザのリスクも増すこの時期をわざわざ選んでこれほどに重大な試験をすることもなかろうに。本当に本気で「入試改革」を考えているなら11月末とかに変えたらどうだ?天候から起因する問題も少なくなるだろうし、そうすれば受験生もいくらかゆったりお正月を迎えられるはずだ。「まあ彼らが取り仕切る『改革』なぞにそういった細やかな配慮は望むべくもあるまい」そんなこんなをつれあいと言い合いながら、傘をさして日本橋に向かった。夫婦50割引、どちらかが50以上だと2人で2400円である。ポップコーンは食べきれないし、トイレが心配だから飲み物も持ち込まない。2人とも立派に50歳を越えている。

息するのを忘れるほどに衝撃

「ネタバレ」は本意ではないから、ストーリーについては言及しないが、とにかく強烈だった。「どんな類の映画なの?」と質問されても答えに窮する。ソン ガンホのペーソス溢れるたたずまいからコメディのように始まって、チェンジ・オブ・ペースとなる分岐点を経て度肝を抜くスリラーのようになって(だからといってホラーではない、その系統が苦手でも大丈夫です)、怒涛の展開から社会派ドラマのようなエンディングにいたる。俳優陣の技量も申し分ない。衝撃的で、目が離せなくて、面白くて、考えさせられる。こんなにも凄い映画を作るポン ジュノ監督だからだろう、いわゆる「保守」政権だった頃の韓国政府は、彼を政権に不都合な文化人としてブラックリストに載せていた。そのことをポン監督は「消すことができない傷」と語っている。考えさせられる。

そして隅田川を渡る

上映後、「パラサイト」のポスターを眺めてああだこうだとやってる人たちを何組も見た。「観終わったあと、語り合いたくなる」とフェイスブックで教えてくれた友人もいた。その通り。観てもらいたいから観ていない人を前にして話せない。だけど、注ぎ込まれた熱量をどこかに発散せずにはいられない。そんな気持ちになる映画だ。幸い、雨は気にならないほどに小降りになっていたので、私たちはウォーキングがてら新大橋通りを歩いて帰ることにし、誰に気兼ねすることなく大きな声で感想をぶつけ合った。6月の省察で、私たちが、沢田研二のヒット曲「酒場でDABADA」をもじって、週末にいそいそと飲み屋に足を運ぶことを「週末でDABADA」と呼んでいると紹介した。この日をそれにあてようという魂胆だった。ギンビス本社を過ぎて新大橋、冷たい雨に洗われた名橋は、鮮やかにその姿をけぶらせていた。

そいでもって「週末でDABADA」

目的地は橋を渡って新大橋通り江東区側すぐのムクラフ( https://ja-jp.facebook.com/mukuraf1208/)。料理の美味しいクラフトビール屋さんである。海苔のフリット「ゼッポリーニ」やらビフカツサンドやら鴨のローストやらを食した。悪い癖でなかなか一軒で帰れない。ムクラフを辞して、酒を供する釣具屋hage(https://kotomise.jp/shops/hage/)に立ち寄ってもう一杯。申し訳ない。釣りをしないから釣道具を購入したことは一度もないのに、常連なのである。

先週の火曜日、大学の先輩後輩たちと新年会を催した。そこでも「パラサイト」は話題に上った。すでに観ていた何人かの先輩は「これから観る人に可哀想だから話せないけど、ああ話したい…。早く観ろよ!」などと優越感に浸っていた。そのうちの1人の先輩が我慢しきれず、こうおっしゃった。「あーっ、やっぱり話したい!これだけならいいだろう、ひとつだけヒントを言わせろ!モールス信号!」「…?」

なんのことか確かめるためにも観ていただきたい。ああ、もうすぐ隠居の身。そして折を見て語り合おう。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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