隠居たるもの、今年はうなぎの機を逃す。うなぎを食すのは一年のうち概(おおむ)ね一度と決めた私たち夫婦である。暑い盛りの8月19日、つれあいの「誕生日記念ランチ」として、その恒例「一度」のチャンスはやって来る。だがしかし、年に一度なのだし適当なところで妥協もしたくない。本年2021年は諸般の事情がこんがらがって残念ながら断念することと相成った。断腸の思いである。とはいえだ、せっかくのこの日なのである。いくらか「スペシャル感」を醸し出してはみたい。だからといって戒厳下の東京で乾杯を伴う外食ディナーを楽しむなどご法度中のご法度、やはりランチがいい。つれあいがふと思いつく。以前にもご紹介した「神楽坂 翔山亭」、ご近所さんの高級焼肉デリバリー店だ。代わりといってはなんだが、今回はそこの「しぐれ焼肉弁当」を試してみることにした。それがどうして、なかなかにやるのである。

「しぐれ焼肉弁当」にたどり着く紆余曲折

二段重ねの「しぐれ焼肉弁当」、まずもって器が乙だ。薄くシンプルでありながら高級感を漂わせている。そこにもってきて食べ終わったあと容易に小さく片づくよう作りに工夫もこらされていて好感が持てる。期待が裏切られそうもなく安心する。そもそも今年だって、私は老舗うなぎ店につれあいをエスコートする算段を立てていたのだ。当初の予定ではこの日19日の午後にまた白馬 散種荘に移動することにしていたから、昨年や一昨年と同様、創業200年「鰻 駒形 前川」新丸の内ビル店で舌鼓をうち、その後に長野行きのあさま615号に飛び乗るつもりでいた。間接的とはいえ今般の大雨のあおり(前回の白馬足止めなど)を受けて、私たち各々の「浮世の義理」日程も構築し直す必要に迫られる。そこに加えて20日から白馬に遊びに来る予定だった友人家族が、新型コロナウィルスの猛威を考慮して(当然のこと)計画を中止する。そんなこんなで私たちは白馬行きを少しずらすことにした。こうしてしばらく東京に落ち着くことになったのだけれども、新型コロナウィルスの新規陽性判明者が連日5,000人を超える中、つれあいが中心街にわざわざ身を移して外食することに(これまた当然のこと)躊躇を抱く。「それじゃあ中心でもない浅草のそれまたはずれ、創業200年『鰻 駒形 前川』の本店にでも行くか?」と一瞬だけ色めくが、電車に乗る時点で結局は同じとそれも止すことにした。

「しぐれ焼肉弁当」を選ぶにいたる紆余曲折

つれあいが買い物に出て「神楽坂 翔山亭 清澄白河店」の前を通った。頭の上で電球がピカッと点る。神楽坂が本店の黒毛和牛専門高級焼肉デリバリー店、弁当もそれはそれは立派そうだ。しかし、後期中齢者すなわち初老にさしかかった私たちにとって、刺しが多く入った高級和牛肉をたっぷりいただくことはもはやキツい。ビフテキ弁当なんてもってのほかだ。そんなこんなを考慮して、一食 1,700円の「しぐれ焼肉弁当」をチョイス。 切り落とし部のしぐれ煮と焼肉を合わせ技一本にしたものだ。電話で予約し時間をおいて店で買い求めると、8月中は弁当10%オフということで一食 1,530円だった。あけて一段目がしぐれ煮と焼肉をごはんにのせた弁当、その下の二段目がサラダと漬物になっている。素晴らしい。甘辛く味付けされた上質な肉でご飯がすすむ。多分メニューの中で「しぐれ焼肉弁当」が私たちにはいちばん具合がいいだろう。サラダがあるので罪悪感にも苛まれない。良心的な価格設定だけれど「スペシャル感」だって申し分ない。これは素晴らしい発見だった。

「しぐれ焼肉弁当」を食べながら考えた

私たちはこのところ以前に比較して牛肉を口にしなくなった。好みが変わって牛肉を好まなくなったのかというと、先ほども触れたように脂の消化に手こずるようにはなったものの、実はそんなことはなく「やっぱり牛肉は麻薬的に美味しいねえ」などと言っている。このところ気候変動に関する本を何冊か読んでみた。人間の飽食が深刻な問題だそうだ。中でも私たちが口にするため世界中で膨大に飼育されている牛たちが、地球環境に甚大な負荷をかけている。膨大な数の牛を飼育するためには凄まじい量の飼料が必要とされる。その飼料とはもちろん植物で、凄まじい量の植物を育てるためにはこれまた凄まじい量の水が必要とされる。必要とされる水を牛に与えるために世界中で日々地下水が汲み上げられる。蓄えておかなければならないものまで性急に汲み上げられ地球は渇く。そして砂漠化が静かに進む。すると植物を育てる土地が失われる。ここ日本の集中豪雨だけが気候変動の現われではない。オーストラリアなどでは砂漠化が急速だ。そのうち牛肉が簡単に口にできない時代がやってくるやもしれぬ。うなぎほどではないにしろ、すでに我が家では牛肉は月に幾度かの「特別な食材」と認定された。記念日には特別な食材でスペシャル感を醸す。ああ、もうすぐ隠居の身。ときにつれあいがいくつになったのか、この歳になると定かでない。

参照: 神楽坂 翔山亭のデリバリーメニュー https://shozantei.com/takeout/ 「肉のメッカ清澄白河に新たにできた「神楽坂 翔山亭」を食す」https://inkyo-soon.com/kagurazaka-shozantei/ 「うなぎを食べて考えた」https://inkyo-soon.com/about-eel/ 「やっぱりうなぎを食べながら考えた」https://inkyo-soon.com/while-eating-eel/

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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