隠居たるもの、追い込みにかかって精を出す。もはや終盤なのである。フライングして「Technicsのレコードプレイヤー」を庵に迎えたおよそ1年前のその時から、「おそらく人生最後のなけなしの大散財」は始まった。これまでの省察で、周到に準備したその顛末について何回か触れてもきたが、「大きな森の小さなお家」の完成が目前となり、いよいよ最終コーナーを曲がって最後の直線に差し掛かっている。つれあいとリストアップした「調達が済んでいないもの」をせっせと手配する毎日だ。それでなくとも段ボール箱に埋まる我が庵に、昨日も今日も新顔が加わる。そこに引越し屋さんもあらためて段ボールを持ち込む。気がつけば「暑さ寒さも彼岸まで」、まさしくラストスパートなのである。

大物は鷹揚に最後を飾る

周到に計画していたからこそ、頭にはありながらも手を出せないものがあった。白物家電と寝具だ。届ける先がないうちに冷蔵庫を買うわけにもいくまい。広げるべき二段ベッドがないうちにマットレスを4枚も新調するわけにはいくまい。だから、山の家の佇まいに調和する品物をそれぞれ物色しながらも、これらは引渡しと荷物搬入の日取りが決まるまではと満を持していたのである。

まずは冷蔵庫である。10月に新型が投入されるらしく、キッチンにぴったり馴染むカラーのお目当ての型は品薄になりつつあった。新型を目の敵にしているわけではないけれど、ほんの少し機能が改良されただけなのに、発表直後だからと値引きの余地がまるでなく、馬鹿馬鹿しい値がつけられたそいつをみすみすおとなしく買い求めるようなお兄いさんとは、こちとら少しデキが違ってるんだ。なんていささか図に乗って、いくらかでも安いところを探して発注しようとしたのは9月初旬のこと、新型コロナ禍で生産が打ち切りにでもなったのか、お目当ての品番は近場の量販店のどこからもきれいさっぱり消えていた。左開きでないと使えないし、血の気が引く。やっとのこと大阪の上新電機が展開するJoshin webショップで見つけたのだが、白馬はお届け対象地域ではないという。致し方ない…、引っ越し直前を配送指定日として東京に運んでもらうことにした。白馬には引越しのサカイさんに持って行ってもらう。それ以外の白物家電はなんとか無事に用意でき、現地に直送されることになっている。ふう、なんとかなった…。さあ、次は寝具だ。

日本橋 ふとんの西川がすなる閉店Sale!

いくらか距離も近い錦糸町は「街」ではなくて「盛り場」、私が暮らす庵から最も近いビックシティは日本橋だ。長年にわたって勤めに出ていた街でもある。その日本橋のたもとに建つ野村証券本社から道をはさんで2軒隣、そこにふとんの老舗 西川はある。簡単なものを購入したときに会員になっていたのだろう、8月21日から9月25日まで閉店セールをするとの案内が届いた。「日本橋1丁目再開発計画」に伴って、建替えが完了するまで小さな店舗にいっとき移転するんだそうだ。やれやれ、また新しく大きなビルをこしらえるのか…。とはいえ、まとめて寝具が必要なこのタイミングに、高級店の在庫一掃セールに出くわすなんて、なんたる幸運であろうか。

意気揚々と足を運んだものの、やはり高級店は高級店、元値がすごぶる高いから、30%から50%割引されていても、そりゃあもう高い。それならばと潔く諦めて、いかばかりかと無印良品のオンラインショップを訪ねてみる。「この『超高密度ポケットコイルマットレス真ん中固め』、この値段ならいいんじゃない?」なんと商品入れ替えのタイミングでセールになっているではないか。まさしく「捨てる神あれば拾う神あり」である。だけど問題がまだひとつ残る。配送先は地方の別荘地で、番地を打ち込んでもカーナビやGoogle マップにピンポイントで出てこない。かなり離れたところで「案内を終了」してしまう。地図を渡してくれる立ち寄り先など、配送についてのレクチャーを実店舗でしなければ、私たちのマットレスは果てしなく迷子になる運命を辿るだろう。だから、近々に暇を見つけて錦糸町パルコに入った無印良品の大型店舗に足を運ぶことにした。そして後日、散歩がてらに訪れた。すると、アテにしていた品物はほんの数日間で、残らず完売していた…。

怪我の功名

結局、それとは違うセール品、より廉価になっていたマットレスを選んだ。二枚重ねで一式のウールマットレスだ。みてくれがもっさりしていて人気がなかったんだろう。二段ベッドなのでそこのところは考慮する必要がない。それどころか、宿泊客が多い時は分離できるし、二枚重ねというのはかえって融通無碍(むげ)だ。寝心地・固さに関しては、実はこれが完売していたマットレスよりずっといいのだ。やはり現物に触れないとわからないことは多い。これは掘り出し物だった。やはり、「なんたる幸運」だったのである。こうして、錦糸町と日本橋を行ったり来たりしながら、無印良品でマットレスと掛け布団を、西川で枕とシーツ類を購入、ようやくのこと納得して寝具もそろえられた。

最後の大物家具

家具の調達はほとんど終えている。それでも丸の内カードポイント5倍デイを目指して、「山の家プロジェクト」協力店(勝手にそう呼んでいる)、丸ビルのコンランショップにまたしても赴く。ダイワハウスがこしらえる散種荘は天井が高く脚立が必要なのだ。出来上がり寸前で視察して、各所の採寸を終えた。これでようやく収まりを考慮した選択ができる。そこに加えてもうひとつ、私には密かな野望があった。配置するスペースの余裕が確認できたから、念願の読書灯を所望したいのである。虚仮威し(こけおどし)と言われようともここは見栄を張りたい。だって、ゆっくりと本を読むための家でもあるんだ、カッコいい方がいいじゃないか。アーネ・ヤコブセンの「AJランプ」かベルナール・アルビン・グラの「DCW LAMPE GRAS」か、もじもじと迷いより無骨な「DCW LAMPE GRAS」を選んだ。店に新品の在庫がないから取寄せになるという。「お急ぎならば小さな傷がある展示品を割り引いて譲るけれども」という。言うまでもない、喜んで展示品を引き取らせていただくことにした。この1年弱、ありがたいことにこの店には本当に助けてもらった。この日5倍で貯めた丸の内ポイントは、スープカップやグラスに姿を変えた。

買い物に疲れた帰り道、小名木川に沈む夕陽はすっかり秋の様相。両親が眠る墓所を管理するお寺さんから、お彼岸を知らせる時候の挨拶ハガキが届いていた。そこにはこう記されている。「私共は秋によって強い反省と自覚とを促されるような感傷に打たれずには居られません」そうだなあ、と思う。どかっとソファに沈んでテレビをつける。そこに居並んでいたのは「反省と自覚」とは無縁のうすら笑うおじさん達、つまりは新内閣であった。ああ、もうすぐ隠居の身。気がつけば「暑さ寒さも彼岸まで」なのである。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

2件のコメント

  1. AJランプは可動域が狭いですよね。
    プロダクトとしては素敵ですが…

    髙橋秀年
    1. その分だけ軽いんだけども、いかんせん都会的でオシャレすぎるんだよね。マットな黒い鉄にした階段との相性もピッタリだし、山の家には間違いなくこちらの方がハマるでしょう。

      sanshu

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