隠居たるもの、一期一会の美味を忘れない。今年の前半、熊本で暮らす義父の米寿のお祝いにかこつけて、九州を旅したことを想い出す。博多 天神でTea with Dress(http://instagram.com/tea_with_dress)というショップを営む友人を訪ね、まずは福岡空港に降り立った。
博多うどんにはコシがない
タモリの好物だという「うどん 平」に連れていってもらった。ゴボ天肉うどんを注文。ホントにコシがない。食してみると、ゴボ天と牛肉からいいダシが出ていてうどんにからみ、これはこれでこうでなければならないような気がしてくる。とても美味しい。機会があればまた来るか?来る。食後に、博多祇園山笠で有名な川端商店街を散策した。もちろん山笠の季節ではないからひっそりとしているのだが、地方都市の商店街って「ざわつき」がどこか遠くから聴こえてくるようで、何もないのについ振り向いてしまう。
「好きなんだよね、イカ」
商店街で、開店前の飲食店のシャッターにイカが描かれていた。だから何気なく呟いた。ガイド役の友人はすかさず「それなら、呼子(よぶこ)に行きましょう」と言う。佐賀の玄界灘に臨む岬の町だそうだ。その夜、福岡に住む大学時代の同期・先輩とともにもつ鍋をつつきながら、試しに「イカが好きで」とまた呟いてみる。「それなら呼子に行け」と彼らも口をそろえる。しかも「河太郎だ」と。
玄界灘にそって西へ
友人をともなって、佐賀の唐津経由で熊本に行くことにしていたから、唐津のちょっと先だという呼子にも足を延ばしてみた。イカ釣り漁船がずらっと並び、専門店が軒を連ねる。河太郎は元祖だという。活き造り定食を3人前注文。とにかくイカ!イカ!イカ!新鮮!まだ動いてる!透き通ってる!もちろんプリプリ!甘い!イカ焼売、天ぷらまで出てくる。波が荒く対馬海流にもまれる玄界灘は海の幸の宝庫。しかし、どうやったって運送のタイムラグが発生するから、温度変化に弱いイカをこの鮮度で食べられるのはここだけなのだそうだ。このイカを食べずして「イカが好き」などとのたまわってはいけない。呼子は私を呼んでいたのだ。
筑紫平野を南下するころに
「イカはもうしばらくいいかな…」などと膨れたお腹を抱え、レンタカーは海辺を離れた。ナビの目的地をつれあいの実家 熊本に設定する。九州自動車道 広川SAで、途中に立ち寄った有田ポーセリンパークの職員さんから私のスマホに連絡が入る、「財布を落としていますよ」と。親切に対応してくださり、財布は無事に戻ってくることになった。有田焼の素晴らしさには感動しつつも、山中の寂れた施設に「ううん…」となってたくせに、車中は手のひらを返して絶賛の嵐。私のうっかり具合を巡って険悪になった夫婦間も、一緒だった友人が後部座席でおどけてくれて丸く収まる…。
旅の記憶はいつまでも鮮明だ。梅雨もそろそろ明けるだろう。ああ、もうすぐ隠居の身。そしてまた旅の季節を迎える。