隠居たるもの、シティボーイにあっさり戻る。2022年8月9日午後7時06分、私は満席だったあずさ46号を降りて新宿駅中央線特急ホームに立っていた。相変わらず人が多い。小学生のころ、夏休みに1日だけ登校日というものがあった。今回の帰京はそのようなものだ。19日間に及んだ白馬滞在中、すれ違った方々の合計数は延べにしてどれくらいになろうか。ふとそんなことを考える。総武線に乗り換えようと階段を上るまでのほんの数分で、「19日間の延べ人数」はあっさり凌駕されたに違いない。とはいえもともとが東京育ち、何事もなかったように人波をかき分けていた。
「登校日」にすべきことごと
東京のこの酷暑である、まずは植物たちの様子をうかがう。同じ集合住宅に暮らす仲のいい友人に鍵を預け、指定した日に水やりをしてくれるよう頼んではいるものの、なにぶん先方にとって慣れないことをお願いしているもんだから、まかりまちがって枯れてしまうようなことがあるとバツが悪かろうし申し訳ない。庵に帰ってすぐ部屋に風を通す。幸い、植物たちに問題はなかった。そして郵便物をチェックする。中には返信を要するものもある。アパレルの仕事をするつれあいのサポート(総務・経理系)が私の現在の「職業」だ。この数日にそれらを集中して片づけ、顧問税理士とも打ち合わせをする。その他にヤスの娘に髪を切ってもらわなくちゃならないし、コンドーくんにバキバキ初老にさしかかった身体をメンテナンスしてもらう必要もある。とんでもなく暑い中、なかなかにやるべきことはあるのだ。
「小泉今日子待望論」再び
白馬にテレビは置いていないが、私にもいくつか録画してまで見る番組がある。テレ朝の「タモリ倶楽部」と「ワールドプロレスリング」、唯一信頼しているニュース番組 TBSの「報道特集」、NHK総合の「ブラタモリ」、 NHK Eテレの「日曜美術館」「旅するためのイタリア語」「バリバラ」、NHK BS1の「チャリダー 快汗!サイクルクリニック」、BS日テレの「イタリアの小さな村」このあたりだ。3週間近く東京を離れていたもんで、「登校日帰京」の夕食時は録りためたこれらを見続けることになる。その合間に、普段はチャンネルを合わせないNHKのニュースを見ることもあった。岸田文雄総理による内閣改造と自民党役員人事があったからだ。そしてクラクラ眩暈がした。菅義偉政権が誕生したすぐあと2020年12月にも「小泉今日子待望論」という省察を著しているのだが、感じるものがその時と寸分違わずまるっきり変わらない。とりわけても自民党役員はあいもかわらずひどく、薄汚いジジイばっかりずらりと並ぶ。まったくもって気が滅入る。(個人的な感想です。)
1983年のあの広場
学生時代、私たちは旧統一教会の勧誘を旨とする学生サークル 原理研究会を学内から一掃しようとことあるごとに闘った。まだあの先輩が学校にいて、しかもトレンチコートを着ていたから、1983年秋のことだったろうか。原理研究会がどっさりと勝共連合学生部(「反共」を超え「勝共」というだけあって、ならずもの感満載の右翼学生がたくさんいた)を呼び込んで、突然に大隈重信銅像前の広場で「レーガン大統領訪日歓迎集会」を開こうとした。銅像や大隈講堂を背景にそそくさと写真を撮影するなどして、ありもしない「実績」をでっち上げようとしたんだろう。それを聞きつけた誰彼が危機感もあらわにキャンパスのあちこちに声を掛け、四方八方から血相を変えた学生たちがあっという間に駆けつける。まだ1年生だった私も端っこに連なる。そして普段は微妙な間柄の者たちも含めてみなが一丸となり、そのほとんどが学外者であるカルトな乱暴者たちを追い払った。旧統一教会の卑劣な目論見をすんでのところで阻止したのである。
岸田文雄先輩が母校を卒業してから1年半後のことではあるが、私たちが学生だった時分とはこういう時代だった。だから同年代の政治家の先生方が「世界平和ホニャララ連合が旧統一教会とは認識していなかった」と平気な顔してしらばっくれていることがホトホト信じ難い。しかも新たに任じられた寺田稔総務大臣なんざ関わりを指摘され「国際勝共連合が旧統一教会とは知らなかった」とのたまう。嘘をつけ!最末端の瑣末な系列団体ならいざ知らず、ほぼイコールで結びつくいわば本丸だぞ?「六代目山口組があの山口組だとは知らなかった」と言ってるのといっしょだぞ?仮にだ、百歩譲ってこれら「認識していなかった・知らなかった」という政治家たちの言い分が本当だとしても、それならそれでそんな迂闊な人がそもそも国政なんぞを運営してはいけないだろう、まして大臣って、あなた…。
無能の極み女婿。
再入閣した加藤勝信厚生労働大臣も旧統一協会との関わりを指摘されているが、私が心底ビックリしているのはそのことではない。この人、新型コロナ禍が始まったばかりの安倍政権時に厚生労働大臣を務めていた人だぞ?つまり世界に例を見ない恐ろしいほどに愚かな「PCR検査抑制」という方針決定をした大臣だぞ(官僚の言いなりだったにせよ)?悲しいかな「検査の拡充が医療崩壊を招く」というとてつもない屁理屈から始めてしまったがゆえ、今日の第7波に至るまで、この国は効果的なコロナ対策を何ひとつ一度たりとも進めたことがない。実施したのは「布製マスク2枚配布」だけだ。そんな「無能の極み女婿。(「ゲスの極み乙女。」というバンド名からちょっとふざけて思いつきました。この人、かつての自民党の有力者 加藤六月の娘婿ですから)」を第7波の真っ只中に当該大臣に再登用って…。やっぱり仲間内のあれやこれやばかりが重要で、課題をどうにか解決するつもりなどないのだろうか、それともみんなそろいもそろって無能で課題自体なんなのかすら理解できないのだろうか…。どちらにしたってどうかしている。
#もうNHKに金払いたくない
このところSNSで「#もうNHKに金払いたくない」というハッシュタグが大量に出回っているそうだ。参院選を終えたばかりの臨時国会を中継しないことや、「旧統一教会と自民党の関係」といったいま最も知りたいことをまるで報道しないこと、そんな姿勢に対する抗議だという。東京に帰ってきてNHKのニュースを見て得心するが、なにも昨日今日に始まったことではない。これまでと変わらず、権力者の顔色を卑屈にうかがって自主規制しているのだろう。退陣に至るまで「ジョンソン首相の嘘」を追及し続けたBBCと違い、ロシアの国営放送を批判する資格などそもそも現在の彼らにはない。
無能な上に不正を不正とも思わず腐敗を自浄する能力すら持たない者たちが権力に安住し、それを構造的に許容する社会がこれからも続くのかと考えると、足下がガラガラ崩れつつあるような恐怖を覚え、暗澹たる心持ちになる。暑いのも辛いし、用事も済んだし、とりあえずここはテレビのない白馬に戻ろう。ああ、もうすぐ隠居の身。散種荘でルリボシカミキリが待っている。