隠居たるもの、暮らす道具に手を抜かない。山の家の「顔」といえば薪ストーブだ。選ぶ品物によっては納入までに4ヶ月ほどかかるそうだし、勧められるままに「じゃあそれで」という性分でもないし、「山の家プロジェクト」を進めるにあたりもう留保しているわけにもいかないし、そろそろ「これにしようじゃあないか」と決断し注文しなければならない。この休みに、墨田区立花にショールームを構えるファイヤーワールド 永和さんを再訪した。

東武亀戸線 東あずま駅のすぐ近く

東武亀戸線というとってもローカルな路線がある。墨田区と江東区、曳舟(ひきふね)・小村井(おむらい)・東あずま・亀戸水神・亀戸の5駅を2両編成でつなぐ。カーブの途中にあって、停車する電車がいくらか傾く東あずま駅すぐそばに、ファイアーワールド 永和さん(https://www.fireworld.co.jp/)はある。インターネットで検索し、以前に一度だけ訪れていた。打合せ中の「山の家」施工業者とも直接にやりとりしてもらっている。東京近郊にそこそこの需要があって、墨田区にこうした会社があるなんてまったくもって不案内であったが、私たちにとってはありがたいことこの上ない。スカイツリーが立つ押上まで東京メトロ半蔵門線を使い、東京ソラマチで昼食をとり、ウォーキングもかねてそこから先の2キロと少しを歩くことにした。土地勘だってある。

かつて、ここは業平橋という駅だった

押上駅から、東京スカイツリーと東京ソラマチをはさんだ向こうに東武線「とうきょうスカイツリー駅」はある。かつての「業平橋(なりひらばし)駅」だ。東武鉄道の車庫だったここにスカイツリーが建ち、駅名も変わり、あたりは一変した。商業施設ソラマチのレストラン階6階から撮った写真、この線路の先、2駅目から3駅目にかけての地域で私は育った。もちろん、ひとつ先の曳舟にあんな高い建物なんてなかった。盛岡冷麺を食して下に降り、北十間川(きたじっけんがわ)沿いに立花に向かう。懐かしさのあまり少し遠回りして気づいた。一変したのはスカイツリーや駅周辺だけで、ここいら辺は何も変わっていない…。なんだか泣きそうだった。

ニュー東京で演歌を口ずさむ

多くを語る必要はあるまい。めまいがする。土着の東京がここにある。

大は小を兼ねたりしない

薪ストーブには、輻射式やら対流式やら輻射式+対流式やらがある。伝統的デザインそのままのものもあれば、モダンなラインもある。料理ができるものだってある。必ずや煙突の設置工事を伴うから、おいそれと選ぶことはできない。重要なのは、適正なスペックを見極めることだ。薪ストーブは暖房器具としてとっても力が強く、近年の住宅の密閉度の高さがそこにさらなる拍車をかける。うっかりデザインを優先させてオーバースペックな代物を導入すると、暖かいを通り越して暑くなり、冬の間ずうっとタンクトップで暮らす羽目になる。「山の家の雰囲気」を存分に楽しむために、ざっくりしたニットをまとうことが必須であろうから、そんな事態は絶対に避けなければならない。親切にいろいろと相談に乗ってもらった。ノルウェーかデンマークのブランドのモダンラインを選ぶことになるだろう。なんだがほくそ笑んでしまう。

東武亀戸線に乗って帰宅する

ドラマ「ふぞろいの林檎たち」(パート1、1983年TBSで放映)の最終回で、主人公の一人 中井貴一のお兄さん 小林薫が、姑のイビリに耐えかねて家出した嫁 根岸季衣を探し回り、人気のない駅のホームでやっとのこと見つけるシーンがある。小林薫が立っていたのは、曳舟駅 東武亀戸線のホームだった。線路をはさんで根岸季衣が綺麗な青空を背景に佇んでいたのは、東武線の本線ともいえる東武伊勢崎線、今でいう東武スカイツリーラインのホームだった。青空だったあの背景に、東京スカイツリーが聳え立つなど想像だにできなかった。そもそも新しいタワーが必要になることすら思いついてもいなかった。そんなことをつれあいに説明しながら、私たちは亀戸線に乗って帰る。大は小を兼ねたりしない。ああ、もうすぐ隠居の身。Think Globally, Act Locally.

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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