隠居たるもの、日々の食事を新鮮に喜ぶ。7月いっぱいで「定年退職」してからというもの、いや新型コロナ禍で在宅勤務になったこの4月からというもの、外食の頻度が減っている。まず勤めには出ないのだから、昼食を外でとることがほとんどない。6月に入ってからボチボチ「夜の街」(といっても大半は日々に暮らす深川)で夕食をとるようにもなるが、その頻度といったら以前とは比べようもない。自ずと週に2度の買い物のお供に精を出したりして、我が庵での食卓を楽しむように心持ちが変わる。深酒をすることもないから残る酒に苦しむ朝も少ない。それは散種荘にしたって同じことだ。
駅の近くにハピア A-COOP白馬店
駅から山に向かう軽い登り坂を歩いて5分くらい、「THE NORTH FACE GRAVITY HAKUBA 」の裏にハピア A-COOP白馬店がある。A-COOPの”A” はAgriculture(農業)の”A”で、ここはJAが運営するいわば農家の生活協同組合(COOP) のスーパーだ。もちろんスーパーだから一般に開放されている。今月の3日に届いたダイニングテーブルまわりの片付けも一段落するところ、いよいよ晩餐も散種荘でまかなおうと私たちはA-COOPに立ち寄った。だからといって自動車を持たないから、思いたって「買い物に出かける」というわけではない。じゃあどうするのかというと、白馬駅に着いたその足をそのままA-COOPに延ばすのである。滞在中に必要な食材やらの買い物を終えて駅に戻り、山を眺めながらタクシーを待つ。たいがいおしゃべりな運転手さんがやって来て、ゆるやかに登った4kmほど先にある散種荘を目指す。
食材が魅力的すぎる
なんてったって、「農家による農家のための農家の」スーパーなのである。品揃えが素晴らしすぎる。「信州産にこだわります」というコピーが眩しいシナノドルチェ、小谷村の浅見さんの鶏卵、採れたばかりに違いない野菜やキノコの数々、力を入れているのがありありとわかる「はくばの豚」、太平洋よりよっぽど近い日本海から届く新鮮な季節の魚…。なんともありがたいことだ。もちろん全国に流通しているスナック菓子や乾物もあるにはあるが、それらがこの歳になった私たちの目を引くことはさほどない。
ようやくにお初の散種荘で晩餐
荷解きやら、片付けやら、組立てやら、エネルギーなしに肉体労働はこなせないから、ダイニングが整わない中でも、東京から運び込んだ簡便な食事を朝に昼にと食していた。しかし夕食ともなると、時間もなく疲れ切っていて用意することもままならない。しかし、朝から暗くなるまでギックリバッタリ働いたのである、豪勢である必要はないが、人間だもの…、レトルトカレーではわびしすぎる。それでは翌日の英気が養われないというものだ。だから10月早々の「荷を出し、荷をとき、組み立てる#山の家プロジェクト」(https://inkyo-soon.com/carry-luggage/)の時には、近隣に種々お店があるわけでもないのに外に食べに出かけていた。そして、ようように片づいてきたこの度、友だちからいただいた「定年祝い」も開栓するべく、ハピア A-COOP白馬店で購入した食材で、散種荘お初の晩餐をテーブルに供したのである。
10月18日のコースをここに
まずは地域のクラフトビール会社 Hakuba Brewing Companyが醸造するIPAと、春菊とブナシメジとベーコンのサラダ。この春菊、えぐみというか苦味がほとんどない。朝に採ったばかりだからだろうか、青々しく爽やかな風味ばかりが滲み出る。ベーコンの塩気とオリーブオイルをかけただけなんだけども、とにかく滋味が豊か。続いて能登から届いたメバルの刺身。お初のお祝いとばかりに少し奮発しただけあって、弾力がありながら脂がのっていて美味しい。近所の友だちからいただいたイタリアの赤ワイン(参照:「バイカー用ツーリングマップル#山の家プロジェクト」https://inkyo-soon.com/touring-mapple-r/)に飲み物を変えて、メインはポークと大根のソテー、もちろん「はくばの豚」と地産の大根だ。くどくなくさっぱりしているんだけど身がみっちりしまっていて「肉を食べている」というカタルシスが湧いてくる。それほど手を加えなくとも、食材が新鮮なだけで興奮すら覚えるほどに美味しい。幸せなことだ。今回は2泊3日だったから、滞在期間と賞味期限を照らしてあれもこれもと買い込めなかった。この次は少々長逗留にする予定だから、ぜひとも浅見さんの鶏卵を、そしてぜひとも野菜各種を買い求めたい。
レジェンドが通う居酒屋
その翌日、「居酒屋がないと生きていけない…」とのたまうつれあいのために、前回にも足を運んだ徒歩10分ほどの居酒屋にまたしても足を向けた。2週間のうちに2度ともなると、申し訳ないがそれほどに「興奮」することもない。A-COOP調達の晩餐があまりにも素晴らしかったからだろう。そうこうしていると、「絶対に知っている人」が店に入ってくる。ここは1998年長野オリンピックの舞台となったあのジャンプ台のほど近く。そのオリンピックにも出場し、今も現役で飛び続けるジャンプ界のレジェンド、あの人だった。店の親父さんと親しそうに話している。ああ、もうすぐ隠居の身。あの興奮が蘇る。