隠居たるもの、憂鬱な暗雲にため息をつく。朝に起きて窓外を見やると細かい雨が降っている。東京もすっかり寒くなっていて、こうした天気だとちょっとした外出をするのもより億劫になり、どうにも身が縮こまり心持ちが晴れない。いささかなりとも爽快な気分になったのは、2週間前に「大学の後輩が新型コロナウィルスに感染しましてね…」(https://inkyo-soon.com/get-infected-with-covid19/)で紹介したあの後輩から、「お騒がせしました。療養期間を終えて職場に復帰しました」との連絡があったことくらいか。それも朝から流れる昨夕の「記者会見」のニュースでご破算になる。生気のない目で原稿を追い、聞かれていることに答えもしない加齢臭ただようあの姿、ああ辛気くさい…。
小泉今日子待望論
9月冒頭に「なんということでしょう、あの小さなお家が!」(https://inkyo-soon.com/small-house-in-a-big-forest-2/)で省察した散種荘建築経過日帰り単身視察の時のこと、FBに「小泉今日子待望論」と称してこんな投稿をしていた。
「白馬に向かうあずさ5号の車中、私はいつものようにiggy(私のiPhone)で音楽を聴いていた。新宿を出発するなり唐突にチョイスされたのは小泉今日子「女性上位万歳」。ずいぶんと久しぶりのその歌詞にひっくり返る。
男性社会二千年
煤煙うずまく日本国
歴史が示す無能の徒
男性総辞任の時が来た
(中略)
男性社会二千年
暴力政治の日本国
歴史が示す無謀の徒
女性団結の時が来た
女の心をうたう時
女魂女力で 女魂女力で
創ろう新時代
女性上位万歳 女性上位万歳
女性上位万歳 女性上位万歳
帰宅後、CD棚の隅に追いやっていた1993年発表のアルバム「TRAVEL ROCK」を引っ張り出す。さすが小泉さん、あの当時にこんなすごい曲を歌ってたんだ。醜悪な権力争いにうんざりする毎日、まさしく今でしょ!いっそのこと小泉さんが総理大臣になってくれたらいいのに…。あ、もちろん進次郎じゃないよ。」
安倍晋三前首相が退任を表明した後、自民党の総裁選びが菅義偉現首相に落ち着こうとしているそんな頃だった。曲そのものはオノ・ヨーコが作ったものだった。
在日フィンランド大使館ツイッターから
菅義偉内閣は9月16日に発足する。閣僚20人のうち女性は2人で、自民党の主要役員は全員男性で平均年齢が70歳を超えていた。そんな頃、上の写真を掲げて彼の国との違いを嘆く投稿をSNSでよく見かけたものだ。これは在日フィンランド大使館ツイッターから引用されたもので、フィンランドで連立政権を組む5つの党の党首集合写真だ。左から2人目がサンナ・マリン首相で現在35歳になったばかり。もちろんほかの4人も主要閣僚を兼務している。現政権に置き換えれば、左から下村博文自民党政調会長、菅義偉総理大臣、二階俊博自民党幹事長、加藤勝信官房長官、麻生太郎副総理、こんな感じだろうか、……。「比較するのは年齢や性別ではなくて政策だ」と強くおっしゃる方もいるだろう。しかしフィンランドは、新型コロナウィルス第3波が猛威を振るうヨーロッパで劇的に感染を抑え込み、他国の模範になっている。
朝起きるとワールドニュースを見る
平日の朝にはNHK BS1の「ワールドニュース」を見る。ジャーナリズムの矜恃に乏しい日本のテレビニュースでは世界で何が起きているかさっぱりわからない。それどころか国内で起きていることが正確に伝えられているのかどうかも怪しい。このプログラムは各国の主要ニュース番組をつなげたものだ。それぞれの国のジャーナリストの視点を通して「世界の今」が把握できる。中でも、フランスの女性キャスターの飾り気のない自然な佇まいがとても素敵でファンになった。先日の放送で彼女はフィンランドを紹介してこう言った。「私たちと同じく遺伝的アドバンテージがないにも関わらず、フィンランドは感染を抑制することに成功しています」、つまり未だ立証にいたっていないとしても、私たち東アジア系に「新型コロナに関して遺伝的アドバンテージがある」ことはヨーロッパではすでに織り込まれている。私たちはどちらかというとそもそも「かかりづらい」ようだ。その東アジア各国の中において、「衛生的な習慣」を誇りながら感染抑制最下位をひた走るこの国の「年齢や性別ではなくて政策」は果たして大丈夫なのだろうか?「Go To イートキャンペーン」が始まった10月になってすぐのこと、日本はこれだけの人口差がありながらも、すでに感染者数累計で中国を抑えて東アジアNo. 1に躍り出た。以後、順調にその差を広げ続けている。
「女性活躍」の登場とともに姿を消した言葉
第二次安倍政権の発足以来、「女性活躍」という言葉が踊る。それでは以前より女性が活躍するようになったかというと、どうにもそんな気もしない。政治の世界でいったら、せいぜい三原じゅん子厚生労働副大臣や「女性は平気で嘘をつきますから」でおなじみ杉田水脈衆議院議員、あげくの果てに河井案里被疑者、といったおじさんにおもねるのが上手な人たちばかりか(あくまで当社比)。一方で表に出てこなくなった言葉もある。「男女同権」とか「男女平等」だ。例のごとく、いつの間にかすり替えられていた。もうそろそろ世界経済フォーラムが、各国の男女平等の度合いをランキングする「ジェンダー・ギャップ指数」の最新版を発表するだろう。昨年、調査対象153カ国のうち日本は121位(2018年の110位から大幅ランクダウン)、フィンランドは3位だった(ちなみに中国は106位で韓国は108位)。果たして今年は何位になろうか。なんかキラキラしてて、傍目からすれば「活躍」してるように見える「お飾り」でいいわけじゃないんだ。「今の若者」の問題でもない。これは「社会のあり方」の問題だ。
仲間が起こした強姦事件すら不起訴にしてくれた番犬を、無理くり検事総長に据えようとおじさんたちが悪だくみを働いていた5月、小泉今日子は敢然と立ちはだかり、彼らを屈服させる一翼を担った。昨夕の「記者会見」と呼ぶ淀んだものを目にして私は思う。ああ、もうすぐ隠居の身。そこを吹いている風は爽やかか?