隠居たるもの、汗をかき始めて脳裏に浮かぶ。最高気温が25℃を超えるようになり、日によっては巷を歩くだけで汗ばむ季節になった。そうなると、たまたま用事が立て込んじゃって日中通してあたふた動き、夕暮れ時に肌にシャツが張りついていることを鬱陶しく感じ、あたかもその時に初めて気づいたかのごとく「ああ、ずいぶんと陽が長くなっていたんだなあ」などと感慨を新たにすることがあったりする。無性にビールが飲みたくなるのはそんな時だ。これから暑くなる。するとそこにスタミナへの「渇望」が上乗せされ、「上ミノあたりをチチッと焼こうじゃねえか」ということになる。
ぼくらはみんな生きている
しかし「上ミノをチチッと焼く」ことは当分しないだろう。肝心のビールが提供されることがないからだ。上に掲載した写真は昨年2020年8月7日に撮影されたもの。渇ききっていたのか、ビールを見つめ寄り目になっていてお恥ずかしい限りだ。同日、この顛末をFacebookにアップしていたから引用してみる。
「夕方から夫婦ともどもちょっと忙しかったんだ。外で食事を済ませたいところだけど、今日だって東京の新規感染者は462人だという、そりゃあ内心はざわつく。晩飯をどうしたものか…。「あそこはどうだろう」と目星をつけて前を通りかかってみた都営新宿線菊川駅近くの大阪焼肉炭照。ざまあみやがれってんだ。密になるどころか、さっぱりしすぎて気持ちいいだろ?全開だからそりゃあ涼しかない。だけどその分、ホルモンがうまいってもんだ。姉さんよ、涼しいところで勿体ぶって「夜の会食は自粛」とかフリップ掲げて、それだけで仕事したフリしてんじゃあねえぞ。「経済再生大臣」と名乗ってるてめえ、「経済再生しない大臣」と囁かれ始めたぞ。責任を丸投げしたままいったい何をやっているんだか…。こちとらみんな生きているんだ。ホルモン食いながら生きていくんだ。炭照、また来るぜ!」
ここでいう「姉さん」とは小池百合子都知事のことだし、大臣はもちろん西村康稔のことだ。今日2021年6月2日、東京で新たに計上された新型コロナウィルス陽性者は487人だった。10ヶ月ほど経っているのに少し増えている。当時を思い起こすに、鳴り物入りの「東京アラート」を出したのは一度きりで、都知事は「夜の街」と称して新宿歌舞伎町を悪者にするのに一生懸命だった。今現在、上ミノが美味しい大阪焼肉炭照はどうしているかっていうと、緊急事態宣言が延長されてとうとう平日はすべて休業になり、土日にだけ細々と開けている。東京都からの協力金は滞っていると聞くし、家賃だって安くはないだろうに、雇用は維持できているのか、それどころか店は存続できるのか、心配になる。近所に東京都からの要請を無視して堂々と酒を出している店があり繁盛しているのだが、先日、それを外からじっと眺めている色男がいた。「どこかで見たことあるんだけど、あのイケメン誰だっけ?」思い出した。大阪焼肉炭照のアンちゃんだった。
よりによってパブリック・ビューイングとかぬかしやがって
上に掲載したchange.orgの署名活動に賛同したとき、私の脳裏に浮かんだのは「あの色男の切ない目」だった。「そんな馬鹿な話があるか!よりによってパブリック・ビューイングとかぬかしやがって…」するとどうだい東京都知事、詫びることもなく「警察官と消防士のワクチン接種会場にします」ってしれっと無茶に取ってつけたよ、この人は。私がオリンピックに反対する理由はここにある。どんなに念仏として唱えようが「新型コロナウィルスに人類が打ち勝っ」ていない状況下に100%の「安心で安全」は訪れないし(結果的に問題が大きくならなかったとしても、それはあくまで「幸運」に過ぎない)、それ以上に、切なく切羽詰まった目をして暮らしが行き詰まっている人をほっといてまで「そんなことをしてる場合ではない」。オリンピックを強行しようとしている人たちは「様々な意見があることは承知している」と口にしながら様々な意見にはまるっきり耳を傾けず、それどころかNHKを従え「ニュース7」をプロバガンダ放送としつつオリンピックの準備をどんどんと加速する。「感染が落ち着けば、世の中はオリンピックでどんどん盛り上がる」し「とにかく開きさえすれば、少し前のことはすっかり忘れちゃってお祭りムードに変わる」と納税者をあくまでも愚弄する。IOCともども「私たち」のことなど眼中にない。
だから東京オリンピックはボイコットする
少し前、東京オリンピック開催に反対する人たちが、池江璃花子に「反対の声を上げてくれ」と直接に働きかけてちょっとした騒動になった。今般の状況下、不安を抱えながら肩身の狭い思いをしているアスリートにそんなことをするものではない。お門違いで許されず、非難されて然るべきだ。しかし、ここで気になったのが、そうした「反対派」をもっとも声高に非難していたのが、広告塔として池江璃花子を「しゃぶる」ように消費していた東京オリンピック「強行」サイドの面々だったことだ。やれやれ、「どの口が言う」って感じで説得力がない。
アスリートには申し訳ないが、どちらにしろ私は東京オリンピックをボイコットさせていただく。東京都民なのに一貫して彼らから「いないもの」と扱われているのだから、今さら「加わる」義務もないだろう。それではボイコットとは?テレビを見ない、うっかり興味を持たない、乗せられて盛り上がらない、普段と変わらず暮らす、こんなところだろうか。どちらにしたって、もはや楽しむ心持ちにはならないだろう。オリンピックより、大阪焼肉炭照で「上ミノをチチッと焼く」日が一日でも早く訪れることを望む。ああ、もうすぐ隠居の身。なぜなら「ぼくらはみんな生きている」からだ。