隠居たるもの、混沌として合わせ聞く。2021年6月5日、朝の8時過ぎから散種荘は騒がしい。1日通して雨が降った昨日のお昼前に(株)池田建設の池田社長がやって来て「明日は一日中ずっと大きな音がたちますが、申し訳ありません、そこんとこよろしくお願いします」と断っておられた。合点承知の助、そもそも第二期工事が本格化するこのタイミングに立ち合うつもりで今ここにいるわけだから、なにも社長、社交辞令といえども気になさる必要はない。しかし、社長が予告した8時半になって、表で「ドン!」とひときわ大きな音がしたものだからとてもびっくりする。ドアを開けてみると、コンクリートミキサー車やらが唸りを上げていた。

働くおじさんがコンクリートを型枠に流し込む

一昨日に東京から来てみると、工事予定の建物外周が掘り起こされ型枠が作りつけられていた。感動して「おお」と声を漏らしたのは言うまでもない。社長は「工事が始まってからは天気に恵まれ、予定通りに進んでいる。施主さんの日頃の行いがものをいったのだろう」といくらかお世辞を口にする。昨日の雨も工程に影響はなく、明けて晴天の今日、ミキサー車からコンクリートをもらい受けたポンプ車が、奥まったところから順にコンクリートを流し込む。働くおじさんたちがカンカンと型枠を調整し、ドロドロのコンクリートを満遍なくならしていく。それを見るにつけ、私たちはこの家への愛着を新たにする。

ハルゼミが「我が世の春」とばかりに鳴き交わす

ハルゼミ、5月から鳴く小型のセミがいる。松林の中だけに生息するそうで、松林のそばで暮らしたことがないからこれまで知らずにいた。ここ散種荘の周りは赤松だらけで彼らにとってはまさしくパラダイス。「我が世の春」を謳歌すべく盛んに鳴き交わしている。他のセミに比べて鳴き声はゆっくりしていて、私の耳には「ゲーキョ・ゲーキョ・ジジジジ・・・」とカエルが仲間を呼んでいるように聞こえる。じっと見つめられたままだと職人さんたちもやりづらかろう。私たちは立ち合いを切り上げ、先週に「アカマツ山」や大きな石が片づけられた南の敷地から、ハルゼミがけたたましく鳴いている林に分け入って、この土地の気候風土に合った樹木についていろいろ探ってみる。伐採・抜根工事を担った造園業者が雑に残していった大きな切り株ふたつ、池田社長はこの工事のついでにそれも撤去してくれるという。これから庭を作る。つれあいによるとテーマは「木漏れ日」なのだそうだ。

そういえば一輪挿しを持ってきたのだった

コンクリートポンプ車のアームが折れ曲がって天高く上がり、先端は2階の屋根に届いている。それを目で追っていたら、山桜にちゃっかりつるを絡みつかせていた藤が綺麗に花を咲かせていることに気がついた。このあたりでは今が季節というわけだ。これみよがしの「藤棚」からはほど遠い、見上げないとわからないそのこっそり感が好ましい。「どうだ」とばかりに押しつけられるものより、実はこういう楚々としたところにこそ「希望と勇気」というのは垣間見えたりするんじゃなかろうか。そんなことを考えていたら、東京から一輪挿しを持ってきていたことを思い出した。

深川の庵の隅に置いておくより、木々に囲まれた散種荘にぽつねんとしていた方が馴染むのではないかとはたと気づいたのだった。挿すものだって季節ごとそこらに生えているではないか。目論見はどうやら間違っていなかったようだ。適当に摘んできた、調べても名前がわからないマメ科と思われる一輪は、たまたま今日だけ騒々しい山の暮らしに、こっそりと清涼な彩りを加えてくれた。

「Confusion will be my epitaph(混乱が私の墓碑銘になる)」

ドルーン・ドルーン、ズーン・ズーン、カン・カン、ズザッ・ズザッ、ゲーキョ・ゲーキョ・ジジジジ・・・。コンクリートミキサー車が「ドルーン・ドルーン」とドラムをグルグル回転させ、コンクリートポンプ車が「ズーン・ズーン」とコンクリートを流し込み、職人さんが型枠を「カン・カン」と調整しながら「ズザッ・ズザッ」とならしていく。周りからハルゼミが「ゲーキョ・ゲーキョ・ジジジジ・・・」とそれを囃し立てる。流れている音楽の通り、なんともConfusion。すべてを耳にしながらこれを書いている私は、BGMとしてキングクリムゾン「ライブ・イン・トロント」をかけている。この混沌に対峙できるのはキングクリムゾンをおいて他にないからだ。

disk unionオンラインで未開封「中古品」1,100円で見つけたこの2枚組CD、カナダのトロントで2015年にライブ録音された作品だ。前列に3台のドラムセットと3人のドラマーを並べ、緻密で圧倒的な音を鳴らす。とにかくすごい。リーダー、ロバート・フリップは当時69歳、相変わらずおもねるということを知らず、同じことを違う方法で探究し続ける。2時間を超える2枚組を聴き終わるころ、ドルーン・ドルーンとズーン・ズーンという音がしなくなった。コンクリートの流し込みは終わったようだ。大きなトラック2台が去り、散種荘の封鎖が解かれた。また外に出て、職人さんの仕事を拝見させてもらうとしようか。ああ、もうすぐ隠居の身。まだ陽が高くハルゼミは力のかぎり鳴いている。

参照:「カタクリの花に囲まれて、散種荘の第二期工事が始まる」https://inkyo-soon.com/second-phase-construction/ 「さらば、アカマツ山!2021年5月25日大安吉日が散種荘の第二期工事着工日」https://inkyo-soon.com/farewell-my-lovely/

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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