隠居たるもの、心配しながら待っていた。「木綿のハンカチーフ」のヒロインよろしく、郵便箱に届くはずの便りを心待ちにしていた。日々に暮らす江東区、区報で2021年「6月15日から65歳未満の区民に順次発送」と大々的にアナウンスされていた。その新型コロナワクチン接種券が入っている封書を待っていたのだ。みなさんのお手元には届いたろうか。「接種しない」という決断をしておられる方もいらっしゃるのだろうが、私は順番が回ってきたなら早々に打ってもらいたいと願っていた。会って気兼ねなく酒を酌み交わしたい人がたくさんいるからだ。

主治医との綿密な打ち合わせのもとに

「私はいささか血圧が高いので、ひと月に一度、近所のかかりつけ医院に出向いて血圧を下げる薬をもらう。以前に登場願ったスキー好きの先生だ。・・・たまたまその日、他に待っている患者さんもいなかったからいつも以上に雑談に時間を割いた。先生の医院は6月以降にワクチンの個別接種を始める。私は聞く。『順番が回ってきたら、先生のとこに頼めばいいんでしょ?』」こうひと月前の省察に記している。薬をもらいに行った5月14日のことだ。先生は「ええ、それでいいです。だけどあなたに打たれるのはアストラゼネカじゃないでしょうか?」などと軽口で応じたものだ。それからピッタリひと月後のまた薬をもらいに行った6月14日、「そろそろ接種券が届くようですな」とあらためて打診すると、先生は「そうなんですけど、高齢者の接種後どう進めていくかまだきちんと決めていなくて…」と口を濁す。こちとら宙ぶらりんではっきりしないことが苦手なもんだから「とにもかくにも接種券が届いてからってことですかい?」と突っ込む。先生は「ええ…、まあ届いてから電話ください…」となんだか煮え切らない。その二日後、第一便だったのか、私の接種券は早々に郵便箱に放り込まれていた。

7月13日と8月4日にファイザー製ワクチンを接種する

つれあいの接種券はまだ届いていないが、「もし副反応があったときのことを考えると夫婦で同日に接種しない方がいいだろう」との結論に達し、善は急げと先生のクリニックに電話をかける。「あ、届きましたか…。ううん、7月12日までは高齢者のワクチン接種予約が入ってるんで…、7月13日でどうでしょう、そして2回目は、そうだな8月4日あたりが…」ほぼひと月後とはいえ、どうやら先生のクリニックにおける65歳未満接種第一号となるようで少々恥ずかしく「次に薬をもらいに行くタイミングにぴったりですな」などとおどけてみた。

それぞれの事情に合わせて

例えば、近くで暮らす30歳を越えたばかりの姪夫婦なぞは、それぞれに名の知れた企業に勤めているものだから、6月21日から始まる今週と28日に始まる来週に「職域接種」で一回目を打ってもらうそうだ。同じ集合住宅に暮らす65歳以上の方々と世間話をすると、一回目の接種は概ね終えているようで、これからぼちぼち二回目に入るという。熊本で暮らすつれあいのご両親も一昨日に二回目も終えたと聞いた。朝のワイドショーで「65歳未満の接種券は各自治体で速度がまちまち」とも報じていた。そんな中、つれあいの接種券もようやく6月21日に届く。

「足腰も丈夫なんだし、集団接種会場でお願いします」

「ご主人は曲がりなりにも『基礎疾患あり』ということだから当院での接種になんとかねじこみましたけど、あなたは基礎疾患があるわけでもなく足腰も丈夫そうですから、集団接種会場でお願いします。今月になって高齢者の接種をずっとやっていて、おかげで通常の診療や検診などがままならなくて…。当院でのワクチン接種は少しペースを落としたいんです。私は打ち手として日曜日にも集団接種会場に詰めてますし…」風邪をひいたときなど、つれあいも先生のクリニックにかかっている。「だから主治医なんだし聞くだけ聞いてみろ」と私がそそのかして問い合わせてみたのだった。先生、申し訳ない…。早くから「やいのやいの」とやり取りしていた手前、私の接種については引っ込みがつかなかったんだろう。だからといって今さら私がキャンセルしても、「打たれ手」をあらためて探す先生の労を増やすだけだから、浮気せずにこのまま打っていただくことにする。つれあいのワクチン接種予約は、江東区のスケジュールにしたがってあらためて7月7日に仕切り直しとなった。

「人類が新型コロナウィルスに打ち勝った証」はサッカーヨーロッパ選手権2020だった?

一年延期されていたサッカーヨーロッパ選手権2020が6月11日から開催されている。連日に繰り広げられる熱戦をWOWOWで観戦している。グループBの初戦、デンマーク対フィンランドは本当にショックだった。前半終了間際、デンマークの主将クリスチャン・エリクセンが突然に倒れ、12分間も心肺停止となったのだ。主審の適切な判断で即座に試合は中断され、ピッチ上で心臓マッサージなど必死の救命処置が施される。この「エリクセンの12分間」を私たちはスタジアムの観客とともに固唾を飲んで見つめていた。何年にもわたって(テレビ上とはいえ)ずっと見てきた選手だから他人とは思えない。幸いエリクセンは一命を取り留め、現在は病院で療養・回復しているという。

主将を欠き動揺したデンマークチームは、数時間後に再開されたその試合を落とす。次戦は現在世界最強といっても差し支えないベルギーに惜敗。すべてはグループリーグ最終戦にかけられた。満員のコペンハーゲンのスタジアム、エリクセンと観衆を背負ったチームはロシアを4−1で撃破し大逆転で見事に決勝トーナメント進出を果たす。熱狂が渦を巻くスタジアム、「ああ、サッカーってこれだよな」と久しぶりに目にする光景に感動する。そう、コペンハーゲンのスタジアムは満員だったのだ。なぜって?観客含めてそこにいる人はみんなワクチンを二回打っているからと聞く。それでも「大丈夫?」と心配にはなるが…。ヨーロッパだけの大会だから「人類」を持ち出すのは大袈裟だけれど、どちらにしたって東京オリンピックが華々しく「新型コロナウィルスに打ち勝った証」を示すことはなさそうだ。

私に抗体ができあがる頃、東京オリンピックはすでに終わっている

主治医のおかげでうまいこと私が二回目のワクチン接種を受けられるのは8月4日。抗体ができるまでに1週間から2週間かかるそうだから、57歳の私に抗体ができるのは最短でも8月11日、東京オリンピックがすでに終わって3日後のことだ。まだ一回目の予定もたっていないつれあいに抗体ができるのはいつのことやら。「職域接種」対象外の若年層にいたっては手つかずのままだろう。ああ、もうすぐ隠居の身。これのどこが安全で安心なのだろうか…。

参照:「昼日中に近所だけをプラプラしていると、耳に入ってくるのはワクチンのことばかり」https://inkyo-soon.com/covid19-vaccine/

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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