隠居たるもの、箱を開いて「祭ばやしが聞こえる」。つれあいの故郷、熊本のお義母さんから電話があった。スイカを送ってくださるとのこと。ただ「大玉の方が甘くて美味しいというのだけど、あまりに大きいからどうしたものか」判断しかねているという。近所で暮らす姪に確認すると「息子も大好きで、このところほぼ毎日食べている」というし、他にお裾分けしたいところも一軒あるから「この際、大玉でお願いします」と返答した。陽の力が強いからだろう、メロンなど熊本のウリ系は甘くてとても美味しい。2021年6月23日水曜日の晩、楽しみにしていた熊本からの荷が届いた。

くまモンにパッケージされた「祭ばやし777」の大きさに驚愕する

馴染みのゆうパック地域担当のアンちゃんが「少し重いですよ」とこめかみに筋を立てている。想像以上に箱がデカい。とりあえず玄関口におろしてもらって、連れ合いが受け取りにサインする。そしてそのまま部屋の奥に持ち込もうとして悲鳴をあげた。「ひとりじゃ無理!」…。「ここはひとつ男手にまかせてみなさい」としゃしゃり出るが、少しどころでなくすこぶる重い。これはいけない、ひとつ間違えると腰が危ない。無用ながんばりは身体に毒と早々に降参し、それぞれが片側を持ち上げて奥に持ち込む。明かりの下で箱を開けてみると、見たこともないような、驚愕するほどに大きいスイカが「祭ばやし777」というシールを貼りつけて2玉入っていた。調べみたら、ひと玉8kg前後(もっと重い気がした)で、匠が栽培する糖度の高い最高品種なのだそうだ。当初に予定した三軒でこれを食べ切るのは難しい。お裾分けする先をひとつ増やすことにした。

祭ばやし777 https://shop.flcps.jp/?pid=59372717

子供ってえのはスイカが好きだよな

子供のころ、スイカが大好きだった。後期中齢者となった今ももちろん好きではあるのだが、子供の頃の比ではない。甘いところに、水気が多くシャリシャリしたあの食感が子供には好ましいのだろう。同じ集合住宅に2人の女児を育てる友人がいる。白馬 散種荘に入りびたるだろう夏、留守中こちらのことで彼に頼んでおきたいこともある。24日木曜日の日中に「熊本名産のスイカをお裾分けしたいんだけど、どう?」と打診すると「子供も我々夫婦もスイカ大好物なので喜んでいただきます!」と返信がある。その日の夕に半玉くらいを進呈した。その日の晩、かわいい2人の写真がLINEに送られてきた。2人は祭ばやし777に気迫あふれる獰猛な獣のようにかぶりついていた。

チー坊、祭ばやし777とかく闘えり

当初に考えていたお裾分け先にはすでに持っていってあるし、あとはチー坊の御一行を待つばかり。25日金曜日の夜、食事がてらチー坊と姪はやってきた。旦那であるサッカー部後輩は、24日に受けた新型コロナワクチン職域接種に副反応がいくらか出てしまい、うちでただゴロゴロしてスイカのお土産を待っているとのこと。チー坊のひいおじいちゃんとひいおばあちゃんが送ってくれた祭ばやし777を、「どうだ!」とばかりもったいぶって箱から取り出す。あまりの大きさに、姪が歓声をあげる。しかしチー坊は怯えて「こわい」と声を震わせあとずさる。スイカは好きなんだけど、スーパーに並ぶカットされて赤い果実を剥き出しにしているものしか見たことがない。玉のままだとそれがスイカだとはわからず、そこにもってきて、とにかく大きい。「未知の怪獣」を遠巻きにしている姿はそれはそれで愛おしかった。

結局はひょうきんものの彼は

誰に似たのか、この子は多分ひょうきんものである。そして少しお調子者である。私たちの言葉に聞き耳を立てながら、祭ばやし777との距離を少しずつ詰めて、スイカであることを理解する。「さあ割ろうか」という頃には持ち前のひょうきんものぶりを発揮してぱーぱーと調子に乗る。彼が手刀で割る真似をするころ、甘さが香りたつ。つれあいが真っ二つにしたスイカからマグロの切り落としをするように果実をスライスする。いちばん甘そうなところをチー坊の口に入れてやる。興奮はあっという間にピークに達する。彼はこの金魚のTシャツがお気に入りなのだという。なぜなら、それを着て保育園に行った日、とてもモテたからだそうだ。

メロン坊や語録

スイカは英語でウォーターメロン。この子はやはりメロン系にここまで反応する。いっときチチヤスヨーグルトの「チー坊」に浮気したが、夏が近づき「メロン」の誘惑にさらされ、熊本に連なる「メロン坊や」の本性をあらためてさらけ出す。「メロン坊や」あらため「チー坊」、また「メロン坊や」にあらためよう。それにしても1歳9ヶ月のメロン坊や、言葉が達者だ。子どもそれぞれに個性があって、様々な物事の習熟もそれぞれの個性に合わせた時間で重なり合っていくのだろうが、大叔父馬鹿を差し引いても、この子は言葉が達者なのである。朝6時半ごろ、ムクっと身体を起こして「起きました」とキッパリ両親に目覚めを宣言するのだそうだ。左右の指一本ずつでおもちゃのピアノをポピンパリンと叩きながら「あなただけよぉ♪あなただけよぉ♪」と曲作りにいそしんで母親を悶絶させるそうだ。しかし語感が好きなのか何度も挑戦するのだけど、「まつぼっくり」とは発語できなくて「まつごっこり」と嬉しそうに連発していたりする。

「祭ばやし777」のおかげでお祭り騒ぎ

「ほぼ毎日食べている」というから、ひと玉まるごと分けるつもりでいた。なのに金曜日は予期せず乳幼児と母親だけで来ることになってしまい、持って帰れるわけがないからとりあえず半玉だけ渡すことにした。翌土曜日、副反応も癒えた後輩も一緒に残る半玉を取りに来た。おかげで連日のお祭り騒ぎになった。メロン坊やは私にスマホを見せろと要求するから、近頃に撮った主に白馬の写真を見せてやる。第二期工事の写真を見ながら「こんくりーとみきしゃーしゃ(コンクリートミキサー車)」「ぱわーしゃべる(パワーショベル、いわゆるユンボ)」と特殊車両を言い当てていく。五竜高山植物園で撮影された私の写真に行きあたったので「これは?」と聞いてみる。彼は即座に「おおおじ」と答える。面と向かって呼ぶこともないくせに、まったく手練手管に長けた憎いやつである。

お祭り騒ぎは一段落した。夫婦で落ち着いて祭ばやし777に舌鼓をうつ。BGMは萩原健一主演で1977年に放送されたドラマ「祭ばやしが聞こえる」の主題歌にしたい。今は亡き柳ジョージのボーカルが沁みる名曲だ。そういえば、メロン坊や、帰るときに「バイバイ」だけでなく手を振りながらもうひと言つけ加えることを忘れない。ああ、もうすぐ隠居の身。「またあそんでね」と。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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