隠居たるもの、悲願の先で悦に入る。2021年7月1日、有限会社池田建設の池田社長が「とってもいい選択でした」とほぼ完了した工事を振り返った。(久しぶりに今段もNHK「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」のナレーション、田口トモロヲ風に)1ヶ月と1週間の工期を経て、白馬 散種荘の第二期工事は終了する。「日々の暮し勝手を蔑ろにしない」との決意のもと、悲願の引渡しを受けてから9ヶ月と少し、大雪に見舞われた冬を教訓に、散種荘は著しい進化を見せた。しかし、ここにおいて無駄なものは何もない。研ぎ澄ますことにかけて施主夫婦と施工業者は妥協をしなかった。彼らの表情に充実した笑みが浮かぶ。

なにかが足りない

昨年9月、完成なった散種荘を前にして、私たちは言葉にできない達成感を味わっていた。すべてが終わり、「これで大概のことは成就した」どこかでそう信じ込んでいた。10月に入り東京から荷物を持ち運ぶ。遊び道具を納めるスペースが足りない…。家が小さいことをあらためて痛感した。秋も深まり、冬に備えて雪かき道具などの備品を揃えるとスペースはさらに圧迫された。さらに「この家は少し雪に無防備だ」と現地管理事務所の担当者がしきりに心配する。弱点と思われるところを具体的に聞いてみると、どれも「ごもっとも」に違いない。都会の人間は雪のことがわかっていない…。そして昨冬の12月後半から1月にかけて、何年かぶりに尋常ならざる雪が降った。不安は的中した。

私たちは外回廊を作ることにした

プロパンガスなどのライフラインは小さく張り出した屋根の下に設置されていた。管理事務所担当者がもっとも不安視したのはここだった。充分に守られていない…。屋根の張り出しを大きくしなかったのには理由があった。屋根の端すなわち建築物の端である。自主規制が多い別荘地のこと、中でも建築物と隣地境界との隔たりは、絶対に相応の距離を保たれなければならない、何度も念を押されていた。その結果、家の容積を確保するべく屋根の軒が短くなった。ハウスメーカー含めた私たちは想像力を持ち合わせていなかった。「なんとかなるだろう」とすら思っていなかった。「まったく雪のことがわかっていない」と下されていたであろう評価に、今さらながら私たちは反論する言葉を持ち合わせていない。そして昨冬、屋根からの落雪に怯えつつライフラインを雪から救い出すこと、それが私たちの日課となった。最初の冬で思い知らせてくれたことに、夫婦は感謝した。雪解けが進み、第二期工事に乗り出すことを決意する。「物置とそこから屋根続きでライフラインを雪から守る外回廊を建物外周にこしらえたい」初対面でそう告げた時、池田建設社長の顔色が変わった。

「とってもいい選択でした」

管理事務所担当者に紹介され、4月にその担当者も交えて私たちは3者で顔を合わせた。私がそう告げた時、社長は少し沈黙したのち「うん、それがいいなあ」と大きくうなづいた。「お茶を濁す」小手先の工事依頼しか想定していなかったから度肝を抜かれたのだろう、私はそう推察する。だが今にいたるまで、それを確かめたことはない。私たちと池田建設社長の二人三脚が始まった。「壁がなく雪囲いだから建築物とは認識しない」「隣地に外回廊の屋根から直接に雪が落ちないよう設計を配慮する」、それで管理事務所も納得した。屋根のある外回廊自体が備品の配置先として機能を果たし、道路面に作る3畳強あろうかという物置が自転車など遊び道具を存分に収納する。できてみると、配色も「いい選択」だった。外観をひとまわり大きくした散種荘、「小さな家」どころか私たちにとってもはや「豪邸」となった。

ヒノキの雪囲い板はDIYで

できあがった物置を実地検分し、あらためて棚板やバーの設置を追加依頼した。屋根つき外回廊に守られて必要なくなったエアコン室外機の落雪カバーを外して処分することも追加で頼んだ。明日、追加作業のために大工がやって来る。残っていた屋根の板金工事はついさっき終わった。外回廊は雪の降る冬になると支柱に板を渡して壁となる。そのヒノキの雪囲い板1枚1枚がウッドデッキのテラスに積まれている。「寸法通りに裁断して納入するが、経費削減のため夏の間に塗装はどうぞ自分たちで」池田社長は当初からそう言った。今日、手配してもらう塗料の色もオークと決めた。緩やかなりとも、まだ進化は続くだろう。以前にもこう記している。NHK「プロジェクトX〜挑戦者たち〜」のエンディング、中島みゆき「ヘッドライト・テールライト」の歌詞にはこうある。ああ、もうすぐ隠居の身。旅はまだ終わらない。

参照:散種荘第二期工事の経緯

蠢動:「#山の家プロジェクト」の第二幕が上がる https://inkyo-soon.com/act-2-mthproj/ カタクリの花に囲まれて、散種荘の第二期工事が始まる https://inkyo-soon.com/second-phase-construction/ さらば、アカマツ山!2021年5月25日大安吉日が散種荘の第二期工事着工日 https://inkyo-soon.com/farewell-my-lovely/ 窓の向こうから生コンを流し込む音が聞こえる https://inkyo-soon.com/pouring-concrete/

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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