隠居たるもの、順を追って聴いている。2022年2月5日土曜日、1週間ぶりに散種荘に帰ってきた。豪雪に見舞われている今冬の白馬、先日も秋田に生まれここで40年暮らしているタクシーの運転手さんが「この冬はもう十分に降った、もういいよ」としきりにぼやいていらした。しかし日頃の行いのなにが影響しているのか、私たちがこちらに来るときに限って雪はやみ、そして滞在中は晴天が続いた。といっても左様な幸運がいつまでも続くはずがなく、今回は天気予報で盛んに大雪への注意が喚起される最中の到着となった。
雪に降りこめられ、オミクロンに寸断される
雪が降っているかどうかに関わらず、白馬に到着して最初にすることは変わらない。数日分の食材の買い物である。雪にまみれながらも、これまたいつもと変わらずA・コープ白馬店に足を向ける。「ん?」土曜日だったこともあろうが、いつもと客層が違う。さっきまでスキー場で滑っていたという格好の方々が、カップラーメンやできあいの惣菜を手にして勝手がわからない店内をぞろぞろ右往左往している。なるほど…。近頃のペンションや民宿は夕食を出さない。そこにもってきて長野県にも「まんえん防止重点措置」が適用され外食もままならなくなっちゃったもんだから、せめてもと「長野県限定販売」カップラーメン「ホームラン軒」なんぞを致し方なく手にしているのだろう。気の毒ではある。ひるがえって私は用意周到だ。
到着初日は、冷え切った散種荘を取り急ぎ温めなければならない。そのために東京から日本橋 神茂のおでんを持ち込んでいる。お供となる日本酒は信州が誇る「真澄 純米吟醸 辛口生一本」、これもすでに長野駅MIDORIで買い求めてある。翌2月6日まで乾いた雪が降り続くという。「無理せず明日は自宅待機」という方針を立てたからには、美味しく酒を飲む手筈を整える、これは至極当然のことではなかろうか。
雪に降りこめられて「A Day in the Life」を聴く
節分もまたいだことだし、雪は降っても気温がとんでもなく下がることがこの間はなかったようで、2階トイレの水が無事に流れた。あまりの寒さに先だって調達した新兵器、セラミックヒーターが滞在初日の「心臓麻痺を起こしそうな脱衣所」を氷点から救い出す。薪ストーブも2度目の冬ともなると成長するのか、自ら容易に200℃以上に達して家を暖めてくれる。安心してほろ酔いし眠りについた。そして「ドン!」という音を立て続けに耳にして目を覚ます。高木の枝に降り積もった雪が落下する響きだ。続いて7時ともなると除雪車が唸りを上げる。予報通り、雪は降り続いている。予定通り、自宅待機する。となると、やるべきことは種々ある。こうした時、どんな音楽をかけるかいちいち考えるのが億劫だ。手持ちのビートルズのレコードを「リボルバー」から順を追って聴くことにした。
背丈ほどの雪に囲まれて
積雪は背丈ほどになっている。外に出てみると、新たに一晩で積もったのは20センチといったところか。「自宅待機」とはいっても、不測の事態を念頭に置かなければならないから、まずは「通路確保」のため雪かきに精を出す。それにしても雪が軽い。ここまでのパウダースノーにはそうそうお目にかかれない。そのため作業がまったくもって苦にならない。早々に終えて家を周囲から見て回り、屋根雪の状態をチェックする。これまたずいぶんのっけたもんだ。壁際に積もった雪と屋根雪がとうとう接続してしまったお宅も散見される。「姪孫の雪の滑り台」はまたしても雪にすっぽりと埋まってしまったが、労を惜しまなかった前回の甲斐あって、どこを発掘すれば良いかがいたって明瞭、これは大丈夫だ。姪孫よ、楽しみにしておきたまえ。
風の噂で聴くところによると
その後スノーボードの手入れをかっちりと終えた。明日2月7日は「晴れ」予報、またとない雪を存分に楽しみたい。そういえば、北京オリンピックとやらが始まったんだって?そもそもここにはテレビがない。どちらにしたって、あっしには関わりのねえことでござんす。今の国際オリンピック委員会 IOCがからんでる時点でどうにも興醒めする。せっかくエアコンと加湿器がゴーゴーとうるさい東京を離れたんだもの、押しつけがましくあてがわれる「興奮」からは自由でいたい。ああ、もうすぐ隠居の身。そんなことより私がビートルズで一番好きな曲は「A Day in the Life」なのである。