隠居たるもの、足止めされて途方にくれる。2021年8月15日、私は散種荘のダイニングテーブルで、iPadから流れるNHK Eテレ「日曜美術館」を見ていた。朝9時にこの番組を見ることが我が家の日曜日の習慣だ。しかしここ散種荘にはテレビがない。つくづく便利な世の中になったもので、契約者がPCやタブレットを通して放送を視聴できるNHK +(プラス)というインターネット配信サービスに登録しているから、私たちは休日の朝の習慣を欠かすことがない。この日の特集は「無言館の扉 語り続ける戦没画学生」。「そうだったか、今日は76年目の8月15日であったか」などと思い当たる。しかし、いささか「上の空」であった。本来なら、東京の庵の40型テレビで見ているはずだった。私たちは予定していた14日に東京に帰りそびれていたのだ。

「全く別の地平から見てきた言葉」

それにしても「日曜美術館」を見るのは4週間ぶりのことだった。東京オリンピックのため3週にわたって放送がなかったからだ。この間、私たちの習慣は寸断された。今回のオリンピックを「ボイコット」する意思表示をした私たちは、ニュースも含めてオリンピックの一切をテレビ視聴していない(もちろんラジオ中継も聴いていない)。それについてはこちらの勝手だから何かしらとやかく言いつのるつもりも無いが、総合チャンネルでなくEテレ番組である「日曜美術館」の3週すべてを私たちから奪うのは行き過ぎではなかろうか。「多様性」を顧慮しないNHKに「だったら受信料を返しやがれ」と憤りのごとき不信感を抱く。私たちが毎週欠かさず視聴する番組で期間中きっちり放送されたのは、Eテレ水曜深夜の「旅するためのイタリア語」だけだった。金曜深夜のお楽しみ、テレ朝「タモリ倶楽部」ですら一回お休みとなった。「全く別の地平から見てきた言葉をそのまま言ってもなかなか通じづらいというのは私の実感」シレッとそうおっしゃるのは「多様性と調和」を基本コンセプトとする東京オリンピック担当大臣 丸川珠代。結局、そういうことだ。私たちとは「全く別の地平」にいらっしゃるに違いない。

中央線特急あずさ46号は運休が続く

私は常に「えきねっと」というJR東日本のインターネット予約サービスを利用する。これまたつくづく便利な世の中になったもので、14日に乗車するはずだった特急あずさ46号の運休を電子メールで知らせてくれた。15日の日曜日に東京にいなければ不義理になる約束もなかったから、私たちは帰京を1日遅らせることにし予約を取り直した。その15日の朝である。変更したこの日も「運休になった」との知らせに気づく。甲府からこちらはすべて運休だという。NHK +で放送されているニュースを見ると、安曇野あたりで川が溢れたり岡谷で土石流が発生するなど、前日より状況が深刻になっている。調べると、長野に向かう特急バスも途中のトンネルが通行止め(ひと月ちょっと前に出入り口に地滑りがあって、工事のためここしばらく片側通行になっていた)になったため終日運休するとのこと。本当につくづく便利な世の中になったもので、駅やバスターミナルに出向かなくとも、こうしたことがすべてインターネットで調べ上げられる。しかし17日には東京で「浮世の義理」がある、ううむ16日中には戻れるだろうか…、そうして「日曜美術館」を上の空で見ながら途方にくれていたのである。

「川の様子を見に行くのはやめてください」

幸いなこと雨雲の主役は白馬にはかからなかったようだ。降り続きはしたが激しくなることはなく、上がる時間帯もあれば太陽がときおり顔を見せることもあった。帰京を1日延ばした14日午後のこと、小降りになった隙を見計らって、私たちは長靴をはいて外に出た。「川の様子を見に行くのはやめてください」と呼びかけるNHKアナウンサーには申し訳ないが、裏手を流れる平川(日本海に注ぐ姫川に国道148号の先で合流)の様子を恐る恐る見に行った。散種荘が建つ土地が、土砂崩れの危険性も含めてハザードマップにかすってもいないことは購入時に確認している。その「安全・安心」を自分の目で確かめたかった。ここら辺は標高が高くて傾斜もあり、そこにもってきて水はけもいいようで、「雨水」はたまることなくあっという間に下へ下へとすごい勢いで流れ落ちていた。

「何十年かに一度の激しい雨」がひと月おきにやって来る

白馬では15日の昼前からすでに雨は上がっていた。なのに2度目に予約を取り直した16日月曜日のあずさ46号も運休となる。大雨が一段落しても、安全を確保できるかどうか点検が間に合わないのだろう。「こうなったら大糸線の鈍行で日本海側の糸魚川に抜け、そこから北陸新幹線で東京に」などと、迂回路まで視野に入れ再びインターネットで調べ上げる。本当につくづく便利な世の中になったもので、「通行止めになっていた長野方面のトンネルが、バスと緊急車両に限って通行を許可する。だからバスは動く」という情報を得る。「えきねっと」で新幹線を予約して、白馬八方バスターミナルからダイヤ通り11時5分の長野駅行きに乗車。一般車両が走らないからバスはスイスイ進み、滞りなく12時15分に終点に着く。不測の事態を考慮して余裕をもった便を予約したとはいえ、それが「14時28分発あさま620号」というのはいささか悲観的すぎた。しつこいけれどつくづく便利な世の中になったもので、スマホから「えきねっと」にアクセスし予約を変更できないか試みる。すると1時間早いあさま618号に変更できた。その上このスマホを自動改札にかざせば乗車もできるから発券の手間もない。駅ビルの食堂で「鶏の唐揚げ定食」なぞを食してようやくのことひと心地、そして15時12分に東京駅に到着した。気温は低くとも歩くとジトッと蒸した。ちょっとハラハラしたけれど、だからといって私たちはなんら被害をこうむったわけではない。不安を抱えて日々を送っておられる方々にあらためてお見舞い申し上げる。

NHKが「何十年かに一度の激しい雨」と連呼する度に違和感を抱く。何十年かに一度どころか先月にも似たような大雨を経験したばかりだ。そのときにも「7月上旬の豪雨災害は5年連続。進次郎セクシー環境相、出番じゃありませんか?」と省察した。例えば担当大臣として「東京オリンピックが開催されることによって排出されるCO2とその削減方法」とか、いささかでも頭をよぎったことはあるのだろうか?東京オリンピック組織委員会は平然と13万食にもおよぶ弁当を廃棄したと聞く。それが「お・も・て・な・し」というわけでもあるまい。ああ、もうすぐ隠居の身。あなたたちこそ「全く別の地平から見てきた言葉」に耳を傾けるべきであろう。

参照:「7月上旬の豪雨災害は5年連続。進次郎セクシー環境相、出番じゃありませんか?」https://inkyo-soon.com/heavy-rain-in-july/

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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