隠居たるもの、予期した寒さに身を凍らせる。先の水曜日、12月9日に散種荘にやって来た。バスに乗ってたどりついた夕方4時過ぎ、白馬駅周辺の気温はせいぜい2℃くらい。もちろん準備万端リュックサックに背負い込んでいるから、防寒着を引っ張り出して「この冷気がたまらないねえ」などと喜んでもいられる。その足で例によってスーパー A-COOPに向かい、食材を調達してから駅に戻り、乗り場で待機するタクシーの客となって行き先を告げる。2週間と少しあけていた山の我が家まで10分もかからない。

散種荘はすっかり冷え込んでいた

家に入って、まずは開けっぱなしにしていたすべての蛇口を閉める。それから外に出て、水抜きをしておいた水道管・給湯管のバルブを合わせて3つ閉める。冬の間は、使用することなく「同じ水」を各種の管に滞留させておくと、それらが凍って破裂してしまうから、それらすべてから「水抜き」をしておかなければならない。問題が起こらず無事に水・お湯が出ることを確認し、それから薪ストーブを焚いて家を温めにかかる。タニタの温度計によると室温は6.2℃。いくら断熱性能が高い今時の建築物といっても日々に氷点下に取り囲まれているのだ、使っていなかった家はすっかりと冷えていた。家の中では防寒着を脱いでリラックスウェアでいたい。まだ室温は充分には上がらないが、ストーブの火が安定するのを待って順番に風呂に入る。裸になると震えるほどに寒い。冷気に馴染んでしまった足は、湯船に差し込むと「痛さ」を感じた。結局、家全体が温まるのには丸1日がかかった。

レンタカーを借りてホームセンター「コメリ白馬店」に行く

夜に冷気が降りてくる。屋根や地面に落ちて霜となる冷気は、それまでの間は霧としてあたりに漂う。まとまった一団が行き過ぎたかと思うと、新たな一団がまたどこかからやって来て散種荘を取り囲む。12月11日金曜日、レンタカーを予約していた。本格的な冬が到来する前に、かさばるものをコメリで買い物しておこうと算段してのことだった。日本で店舗数No. 1を誇る新潟が本社のホームセンターチェーンの白馬店、深川の庵の近所にはないから都市型ではないのだろうし、地方各地の特色とその要望に応じた品揃えが豊富なのだろう。初めて白馬店を訪れたときの「トキメキ」を今も忘れない。

雪かき道具がずらりと並ぶ。用途に合わせて様々な形状があり、また使う人の力の多寡に合わせてそれらがいくつかのサイズに分かたれている。雪国に荘を構える以上、必要であることは間違いなく、あれこれ考えた末に、合わせて3種類をそろえるにいたる。また、別荘地管理事務所の方に「冬に家をしばらくあけるときは、トイレに不凍液を入れて帰ってください」と忠告されていた。怪訝な顔をする私たちを見て「青いやつです、スーパーとかで売ってますから」と彼はつけ加えた。トイレの水が凍って流せなくなる…?、つまりそうするとトイレが使えなくなる…?、それはなんとも恐ろしいことだ…。江東区で不凍液など目にしたことはないが、コメリではどっさりワゴンで売っていた。青いやつ「凍ランブルー」を、私たちは購入した。

農家の方々のために「鳥除け」コーナーがある

かかる品揃えに感動しつつ、店内をくまなく歩く。またしてもある一画で目が釘付けになる。「鳥除けコーナー」だった。田畑の上で大きな鷹のようにひるがえる「カイト鷹NEO」を目にしたことがある(実はトンビを模していると思っていた…)。ふくろうだって猛禽類だ。これらは実をついばみにくる小さな鳥への脅し、つまりカカシなのだな。それでは「カラスの逆さづり」とはなんだ?商品名は「烏追いカラス」だが…。

中学高校の同級生が、これが吊るされたゴミ置き場を見つけて、先日にその写真をFBに投稿していた。この写真とともに「コメリ白馬店で売っていたぞ」と「コメント」してみた。同級生は「逆さづりを見て『仲間が殺られている。あそこは危ない』と判断するカラスの知能に驚く」と返信してきた。すると、さらにかぶせてくるもう一人の同級生がそこに現れた。「カラスはあれが作り物だとすぐに見破る。だから本当は『本物』を吊すのが最も効果的なのだが、女性や子供にすごぶる評判が悪いため、この商品に落ち着く」とのこと。Kよ、そりゃあ評判は悪かろうさ…。とにかく、なにしろいろいろと勉強になるものだ。

細割りで短い広葉樹の薪

散種荘の薪ストーブは小ぶりなので長い薪が入らない。主に使っているのは25cmの長さにカットされた「岩手の薪」、これが太割りでたやすくは火がつかない(その代わり、火がついたら長く燃えて、もちろんエネルギー量も多い)。アオゾラカグシキ會社でリビング家具をオーダー・作成するにあたり、端材として出る木端をご好意でたくさん(パンパンの米袋でふたつ)いただいた。家具となるべく乾燥させたものの木端だからして、これがよく燃える。順番と組み合わせを工夫しながらこれらをストーブに放り込んでいるものの、いただいたアオゾラカグシキ會社の端材には限りがあるから無闇矢鱈には使えない。けれどもケチって躊躇していると冷え切った室内でなかなかに炎が上がらない。どうしたものかと頭を悩ませていたのだ。この懸案もコメリが解決してくれた。「広葉樹細割り25cmカット」という薪束(写真は35cmのもの)を598円で販売していた。細割りだからなにしろよく燃える。これで自在に炎を操れる。

あたかも疎開地のごとく

デンとしたソファでなく、ひとりがけのチェアは正解だった。冷える時は薪ストーブに近づけばいい。夕方5時の今の外気温は3℃、室温は20℃、薪ストーブの温度は200℃前後。今日12月12日の東京の新型コロナウィルス新規感染者は、過去最高の621人だと聞いた。ここはとにかく人がいないから、注意することもなく必然的にソーシャルディスタンスが保たれる。9日の夕方にこちらに着いてから72時間ほど、この間に半径5メートル以内で30秒以上1分以内の接触があったのは、買い物や食事に行ったとしても今のところ2人だけだ。寒いけどリスクは皆無に近い。え?え?ついに白馬村からも陽性者がひとり出たの?気の毒に…。ああ、もうすぐ隠居の身。変わりはしないさ、わきまえて行動を選択するだけだ。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です