隠居たるもの、手順を考え企てる。昨日、注文していたネットワークオーディオプレイヤーが届いた。ひと月半前の省察「価格.comとキャッシュレス5%還元のはざまで」において、山に持ち込むAV環境とそれにまつわる悩ましい企てについて記したが、この買い物はあくまでも山の家プロジェクトの一環で、実現のタイミングを虎視眈々とうかがっていたものに違いなく、決して庵にこもるあまり衝動的に「カート」に入れてしまったという類のものではない。このネットワークオーディオプレイヤーなるもの、山の家のAV機器のいわば目玉なのである。
TEACのネットワークオーディオプレイヤー
山の中でも必ずや音楽を聴く。とはいえ、いちいち深川から白馬までその度にCDを持ち運ぶのは面倒だ。ましてや、どういう風の吹き回しでどんな音楽が聴きたくなるかはわからない。だからといって、同じものをCDやレコードでもう1枚買ってそろえるほどにおめでたいお大尽ではないし、そもそも小さな隠居小屋に不必要に沢山のモノを置きたくない。それに、5ヶ月前の11月末に徒然なるまま「音楽はタダなのか?シフトをチェンジすることにした」で省察したように、音楽とどう結びつくかあらためて考えるところもあった。そこでソフトを必要としないネットワークオーディオプレイヤーという結論に達したのであり、単に我慢できなくなっただけのTechnicsレコードプレイヤーに続いて、事前にその可能性を熟知して現地で縦横に使いこなすべく、今ここで友人がいいと教えてくれたTEACの品物を選んでようやく導入するにいたった。喜び勇んでいそいそとセッティングし、早速にiPhone から飛ばしてみようじゃないか。山の中ではこんなのが聴きたくなるのではなかろうか、そんな風に考えてApple Musicの配信からCowboy Junkiesの「The Trinity Session」を探し出し再生してみた。ああ、この静謐な音、素晴らしい…。
そもそもネットワークオーディオプレイヤーとは
音楽配信サービスや自身のハードディスクおよびNAS(ネットワークアタッチトストレージ、なんだかよくわかんないけど…)などにある音楽ファイルを自在に再生する機器、それを「ネットワークオーディオプレーヤー」という。ハード的なメリットをあげつらえば、ハイレゾ音源を相応に鳴らせるとか色々あるにはあるのだろうが、まあこちとらお里は文学部、わかったような気になっても限界がある。簡単にいえば、パソコンやらiPhoneやらiPad から飛ばす圧縮したデータを、ちゃんとした音に戻してステレオで鳴らしてくれるという機械だ。なんか高野豆腐をもどすみたいなもんだな。今年に入って早々にクラウド環境を作り直したのもこれを見越してのことで、今や26001曲がどこにいたって引っ張り出せる。
オーディオ機器というのは実は生き物だ。あれこれ曲をかけて通電させたから、少しはおっかなびっくりでもなくなったようだ。お、こんなのを飛ばしてみようか。アイヌの血を引くOKIが、樺太アイヌの弦楽器トンコリで壮絶なグルーヴをかます。OKI DUB AINU BANDの「サハリン ロック」だ。おお!ぶっといじゃないか!
Let’s Impeach the President:大統領を弾劾しよう
たまたまCDプレイヤーにはNEIL YOUNGの「LIVING WITH WAR」が入っていたので聴き比べてみる。機器が違うのでボリュームはもちろん調整するが、これなら大丈夫、まるで遜色ない。それにしてもNEIL YOUNGという人は気合が入っている。このアルバムは、G・W・ブッシュが2003年3月に始めたイラク戦争の最中、2006年6月に発表されたものだ。アルバム全編でブッシュ大統領とイラク戦争を真っ向から批判した当時60歳の彼は、「私は、18才から22才ぐらいの若いシンガーがこういった曲を作り、立ち上がるのを待っていた。 本当に長いこと待っていた。しかしやがて、60年代に青春を過ごした世代が、まだまだこうしたことをやっていかねばならないのだと思い始めた。私たちはまだ現役なのだからね」と言った。たった2週間で作られたという。戦争の真っ最中で、多くはその正当性を疑っていない好戦的なアメリカで、「Let’s Impeach the President for Lying:大統領を嘘をついた咎(とが)で弾劾しよう」と歌い上げた彼は大ブーイングを浴びる。だがしかし、今となって私たちは知っている。「イラクは大量破壊兵器を持ちアメリカを攻撃する危険が高まっている」と言いがかりをつけて始められた戦争、大量破壊兵器はどこを探しても見つからなかった。道理のない不毛な戦闘でたくさんの人が死に、世界はメチャクチャになり、あげくにISまで生んでしまった。なのに誰も責任は取っていない。今度は「UFOを見つけた」とあの国の政府は発表している。どっちにしたって、私が信じるのは今も元気なNEIL YOUNGの方だ。
美しい音が森の木々に染み渡るだろう
新型コロナ禍にあっても山の家プロジェクトはこうして着々と進行している。しかし、ネットワークオーディオプレイヤーを導入してみると、「今後CDは本当に必要ないかもしれない」と思う。「モノ」として欲しければ血の通った音が鳴るレコードを手に入れ、それ以外は音楽配信やNAS(ネットワークアタッチトストレージ、なんだかよくわかんないけど…)の信号でまかなう。ネットワークオーディオプレイヤーはマニアだけのものではなさそうだ。
そういえば、河野太郎防衛大臣が米国の報告を受けて、「自衛隊でもUFOと遭遇した場合の手順を決めなければ」と会見していたっけ。今この時だよ?他にやることいっぱいあるでしょ。開いた口を塞がせていただきたい。ああ、もうすぐ隠居の身。美しい音にだけ身をまかせる。