隠居たるもの、馴れぬ景色に刺激を受ける。「いのちを守るSTAY HOME週間」まっただ中の暖かく晴れた一昨日5月4日、我が庵の前を流れる小名木川に沿って、ただただ東に足を向けてみた。普段の主だったテリトリーは南から西だから、東にずんずんと歩を進めることはまずない。いささかでもワクワクできないかと散歩コースを新たにひねり出す日々である、「なんだ、わかりやすいところに“未知”は転がっていたじゃないか」と膝をうち、意気揚々と半袖Tシャツ1枚で出かけたのである。

進開橋の下、突然に牧伸二は降りてきた

小名木川は江東区北部を東西一直線に横断する全長約5kmの運河である。ともに運河の横十間川、大横川と交差しつつ、荒川の支流である旧中川と隅田川を結んでいる。江戸の世の物流の要で、江戸城に直結するよう徳川家康の命で建造された。隅田川にほど近い西に位置する我が庵から、この日は一気に東を目指す。もしかしてこの方角の遊歩道を歩くのは初めてのことだったのだろうか。植栽もしつらえもとっても乙で、その風情に新鮮に驚いた。藤棚に季節を味わい、貨物電車の鉄橋に郷愁を覚え、横十間川と交わる交差点にかかるクローバー橋の上で和む。それから進開橋、砂島橋、丸八橋をくぐり塩の道橋にいたって南側の対岸に渡る。仙台堀川公園で用を足し、小名木川に戻って西に帰る。水面も近く柳が風になびく夏にはさぞや気持ちいいだろう、そんなことを考えながら再び進開橋をくぐるところで、突然のこと私に天国にいるであろう牧伸二が降りてきた。

「大正テレビ寄席」を必ず見ていた日曜日

子供のころ、日曜日のお昼に必ず見ていた人気番組があった。牧伸二が司会の「大正テレビ寄席」(1963年6月12日から1978年6月25日までテレビ朝日(当時はNETテレビ)で放映)だ。「いつも忙しい母ちゃんに楽をさせよう」と親父が音頭をとり、どこかしらの店屋物を食べながらのんびり眺めてたことを想い出す。ステテコに腹巻き、その上にハチマキ姿のマキシン(牧伸二の愛称、もしかしたらこの格好が故志村けんの「変なおじさん」のモデル?)がチャリティーバーゲンをしたり(売上は「あゆみの箱」に寄付)、ゲストの東京コミックショーが「ヘェイ、レッドスネーク、カモォ〜ン!!」なんて笛をピロピロ吹いていたのを鮮明に覚えている。そして番組は、牧伸二の十八番 毎週新たに作られ披露される「やんなっちゃった節」で社会風刺もチクリと締められる。その牧伸二が、正確にはウクレレ抱えて「やんなっちゃった節」を唄う牧伸二が、電撃的に私に降りてきたのである。なぜか?エコーがかかる進開橋の下で、白髪もきれいなおじさんが、ウクレレをポロンポロンとひとりでやりながら、のんびりハワイアンを歌っていたからである。

私はあの節で唐突に「ステイホームと知事がいう」と歌い出した

みなさん、節を思い出してくちずさんでみたらどうだろう。(※思い出せない方の参考のために、「牧伸二『1993年のテレビ出演』」というYouTubeを最後に埋め込んでおきます。ただ、これは1993年「笑点」出演時のもののようで、大正テレビ寄席で見せていた“切れ味”がないのが残念。)以下に記すのは、唐突に牧伸二が私に降りてきてできた、2020年初夏のちょっと雑に韻を踏んでいる「やんなっちゃった節」である。

あんあんあ やんなっちゃった
あんあんあ おどろいた

ステイホームと知事がいう
緊急事態も延長だ
要請だけはされるけど
検査をされないオレ何性?

あんあんあ やんなっちゃった
あんあんあ おどろいた

信じて自粛し稼ぎなし
一気呵成(いっきかせい)のはずなのに
書類ばっかり書かされる
お願い早く金を“貸せい”

あんあんあ やんなっちゃった
あんあんあ おどろいた

マスクもいまだ届かない
出口がどこかもわからない
あなたの「声」が届かない
オレの “明日” もわからない

あんあんあ やんなっちゃった
あんあんあ おどろいた

「牧伸二チャレンジ」をあなたも

牧伸二が降りてきたあの日の首相記者会見はもう見なかった。これまでの数回から類推するに、何ひとつ重要なことを語ることもないだろうと思ったからだ。報道に接するに「遠からず」といったところのようだ。こうなったら誰もが牧伸二になってみたらどうだろうか。「牧伸二チャレンジ」のバトンをあなたに託します。ああ、もうすぐ隠居の身。そうさな、出口なき世に光を灯そう。

付録:5月22日に新作ができてしまいました。付録として追加掲載いたします。

あんあんあ やんなっちゃった
あんあんあ おどろいた

検事総長だれにする?
そうだ、あいつにやらせよう
ずるしたあげくにどさくさまぎれ
いったい責任だれがとる?

あんあんあ やんなっちゃった
あんあんあ おどろいた

何百万ものつぶやきが
抗議しますと#(ハッシュタグ)
くちばし通さぬあまたの“声”は
届かぬマスクじゃふさげない

あんあんあ やんなっちゃった
あんあんあ おどろいた

すったもんだで見送りで
麻雀狂いもあばかれた
こうとなったらシッポを切って
いつもと変わらずシラを切る

あんあんあ やんなっちゃった
あんあんあ おどろいた

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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