隠居たるもの、巡る季節を振り返る。2021年10月2日、気持ちのいい晴天、私たちは白馬で初めて催されたオクトーバーフェストに身を置いている。「オクトーバーフェスト」とは、ドイツはミュンヘンで開催されている世界最大規模の「ビール祭り」のことだ。1810年以来、新しいビールの醸造シーズン幕開けを祝って9月半ばから10月上旬に催されることとなり、そのまま国民的祝祭へと発展し今に続く。それにあやかり、北アルプスの清らかな水でクラフトビールを醸造する Hakuba Brewing Company(ハクバ ブリューイング カンパニー)が主催し、新型コロナが下火になったのを見計らって、にぎにぎしく初の「白馬版オクトーバーフェスト」開催にこぎつけた。そしてどこか晴れがましい気分の私たちも駆けつけたというわけだ。私たちが散種荘に荷物を運び込んだのは、ちょうど1年前の10月2日のことだった。

「悲願の引渡し」から1年たち

ダイワハウスから散種荘を引き渡されたのが昨年2020年9月29日、翌30日には東京にトンボ帰りして引越しにかかりきりになり、荷物とともにあらためて白馬に戻って来たのが10月2日、なんともまあ、あれよあれよとあれから1年たったのだ。秋、冬、春、夏と季節は一巡し、そして2度目の秋を迎えている。すべての季節を経験しない限り「完成」とは言えないだろうとの予測は正しく、「自然の猛威」に晒されそれに対処する第二期工事を余儀なくされたり、それを経てからようやく庭のあらかたを構想することができたり、兎にも角にも季節ごとに浴びる「洗礼」を右往左往しながら楽しんできた。今日、曲がりなりにも庭といえるものの上に立ち、植えたモミジの葉っぱがいくらか赤くなっているのを見るにつけ、飛び交う蝶々や赤トンボを目で追いハラハラと葉を落とす風の音を聴きながら、少なからず感慨に耽ったりするのである。

「秋のうちはやめといたほうがいい、カメムシがつくから」

この間、ゆかりのある人もいくらかできた。たとえば、私たちが呼ぶところの白馬三田(さんでん)社長である。(もう半年くらいになろうか)久しぶりにそのうちのひとり、薪をお願いしていた白馬ファーム(株)武田社長に電話をかけた。9月を過ぎて10月に入ると、ここではうっかりしたはずみにウールのニットが欲しくなる。11月ともなると夜中の気温がそろそろ氷点下に下がる。周到に薪の準備をしておこうと考えたのだ。電話に出た社長は(無理もないことだが)私たちのことを思い出すのにいささか時間がかかる。そして、こちらが話す要件からして「カチッ」と図像が一致するやいなや、彼は一気に捲したてる。「え?夏そんなに来てたの?連絡くれれば野菜を分けたのに。暇ならキャベツの収穫の手伝いにおいでよ。え?青虫が苦手?うちのキャベツにはいないよ!まあ、それはそれとして、薪は秋のうちに棚に並べないほうがいいな。オタクの薪棚は家にぴったりくっついてるでしょ。冬ごもりの場所を探している虫たちの恰好の住処になる。カメムシなんかが喜んで入りこむから、雪が降り出してから準備したほうがいい。そうそう、新しい商売を考えているんだよ。それはね乗馬なんだ‥‥(後略)」総合的俯瞰的にわかりやすく要約すると「今は田んぼや畑の収穫で忙しいからもう少し後になってからにして」ということだろう。あいかわらずエネルギッシュで微笑ましい。社長の薪に頼らず、冬までなんとか凌ぐ手立てを考えることにした。

Octoberfest の会場はsnow peak LAND STATION HAKUBA

白馬オクトーバーフェストの会場は、私たちもことあるごとに足を運ぶ地域のランドマーク snow peak LAND STATION HAKUBA、その週末マルシェの一画だ。「悲願の引渡し」を受けた昨年9月29日、その日も私たちはここのレストラン「雪峰」で祝杯をあげた。どうにかこうにか1周年を迎えた今日も、ここで初開催されるオクトーバーフェストでビールの祝杯をあげる。美味しくビールをいただくコツは、なんといっても「入浴」にとどめを刺す。午前中に散種荘から下りて、すいているであろう最も陽が高い時分に、snow peakに隣接する日帰り温泉「みみずくの湯」でひとっ風呂あびる。あからさまに無防備になるからここしばらくは温泉を避けていたのだが、目論見通りガラガラで、どうしてやっぱりこりゃぁたまらない。夫婦そろってワクチン2回接種も終えたことだし、おそるおそる湯巡りも再開しようと思う。こうして準備も万端、5軒ほど並んだクラフトビール作り手テントのうち、私たちは3軒をハシゴした。子供たちが裸足で走り回る晴れ渡った秋空の下、白馬三山を背景にあおるビールの味は、それはそれは格別だ。普段から使う私の語彙には含まれないのだが、なんというか「ハッピー」な心持ちなのであった。

「旅はまだ終わらない」

先日、タクシーの運転手さんに教えてもらって「なるほど」と得心したことがある。ウィンターシーズン、ときおり外国人スキー客を見かけることがあった。「この人たちはどこから?」といささか疑問に思っていたのだが、その人たちのほとんどが米軍関係者だったというのだ。休暇といっても国に帰ることもできない、そこで「新型コロナ感染者がほとんど出ていない白馬ならOK」と密かにお達しが出たのだそうだ。今日、昼を過ぎて人が多くなるにつれ、白馬在住の白人が続々と自転車に乗って山からビールを飲みに下りてきた。ここでの暮らしを1年重ねてみたが、この間すっぽり新型コロナ禍に包み込まれていたため、インバウンドさん、つまり外国からの観光客で溢れかえる国際色豊かな白馬はいまだ経験できていない。それもまた楽しかろう。ぴったり1年前、「悲願の引渡し」という省察を終えるに際し、NHK「プロジェクトX」のエンディングテーマ 中島みゆき「ヘッドライト・テールライト」の歌詞を引用した。懲りずに再びそうしたい。ああ、もうすぐ隠居の身。旅はまだ終わらない。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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