隠居たるもの、「さすが、わかってらっしゃる」と若いもんを唸らせたい。今般、ドレスコードはカジュアル化する一方だ。まだ隠居にたどり着いていない我が身が通う会社も、昨年の春からスーツ着用義務がなくなり、健康的なイメージ喚起のため、スニーカーが奨励されるに至った。みなが戸惑う中、顔のいかつさをカバーするため、私は率先してカジュアル化に取り組んでいる。もちろんTPOをわきまえた上で。
不滅の定番 スタンスミス
これを機会に、ジャケットスタイルに似合うスニーカーを購入しようと思い立ち、adidasショップに足を運んだ。候補のひとつ、というか狙うはスタンスミス。私がまだ子供だった1971年に発表された不滅の定番、小洒落た人の多くが履いているスニーカーだ。「ふふ、とうとうスタンスミスデビュー?」角の取れた中年を演出したいとの色気もあり、少しウキウキしていた。それがだ。
似合わない。
まったくもって似合わない。
自分でも履いた瞬間に「これは違う…」と恥ずかしくなったほどだ。褒めそやすスタッフを尻目に、同行したつれあいが口をへの字に曲げている。万人を相応にオシャレに見せるスニーカー スタンスミスが奇跡的に似合わない。なぜだ?スタンスミスのイメージと私のキャラクターが反発しあう…。
結局、「デビュー」の野望は潰え、サッカーシューズが元のSAMBA、スタンスミスに似ていそうでまったく違う、真っ白い革のSAMBAを買うことにした。元々サッカーをやっていたこともあって違和感はない。つれあいがいわく「あなたは、先が尖ったスニーカーか、ハイテクじゃないと似合わない。スタンスミスは私が買っておく。」私には、アブドラ・ザ・ブッチャーの凶器シューズが最も似合うというのか?新作スニーカーを履きこなすエネルギーを維持するのも大変だぞ。
己を知れ
先が少し尖ったSAMBAはとても気に入っている。まだまだ角は取れないというわけだ。“ソリッド”、それが私のパブリックイメージということだな。勝手にそう思い込むとなぜか気分もいい。そういうことにしておいて欲しい。それはそれでカッコいいじゃないか。決して若作りにならず、最新のハイテクスニーカーを履きこなすご隠居というのも素敵だ。
ああ、もうすぐ隠居の身。いつか似合う日も来るさ。しかし今現在、私はスタンスミスが奇跡的に似合わない男である。