隠居たるもの、のべつ幕なく謙虚でいたい。ひょんなきっかけで、弱冠18歳で2019年米グラミー賞主要4部門を制覇した“ティーンのカリスマ” ビリー・アイリッシュを聴いてみた。わかったような気になってきちんと聴こうともしていなかった自身の不明を恥じる。とっても素晴らしい。新型コロナウィルスのおかげで閉じこもりがちになるのは致し方ないものの、いわゆる感性までも“自粛要請”に従う必要はあるまい。むしろ気温の高まりとともに軽装で過ごせる季節である。年齢を重ねるとともに“自粛”しがちな感性を、足取り軽く解き放ってみたらどうだろうか。

ビリー・アイリッシュはお兄ちゃんと2人で宅録する

2019年に凄まじく売れたこのデビューアルバムをまずは聴いてみた。以前にも一度だけ配信で聴き流したことがあるのだけれども、新調したネットワークオーディオプレイヤー(「TEACのネットワークオーディオプレイヤー」:https://inkyo-soon.com/network-audio-player/)を通してあらためて聴いてみる。以前に聴いた時と比べて音が厚くなったこともあるにはあるが、こちらの“傾聴”角度の問題だろう、「いいじゃないの!」と即座に耳が立った。このアルバムは、17歳の少女と兄が2人でホームレコーディング、つまりほぼ全ての音を宅録でDIYで作り上げたというのだ。びっくり仰天である。Apple Musicで「あらゆるジャンルをヒップホップを前提とした世代のビート感覚でフュージョンしていく」と紹介されている本作はまさしくエポックメイキングだ。歌っているのは「SNSや友人の輪の中で深まって行く孤独や自己嫌悪」という10代のリアルな心情なのだそうだ。14歳で作った2016年デビュー曲「Ocean Eyes」だって、やはりお兄ちゃんと2人で宅録で仕上げたという。兄妹ともに恐るべき才能である。良かった、ようやく気がつけた。

ケンドリック・ラマーの時もそうだった

2018年のフジロック、まずはケンドリック・ラマーがメインとして発表されていた。「ヒップホップはどうも…」などと“どこ吹く風”を装っていたにもかかわらず、追加でボブ・ディランの出演が発表されるやいてもたってもいられず参加を即断。それならついでに、グラミー賞どころかピューリッツァー賞までとった噂の若者も観てやろうじゃないかと、土日の2日間にわたって山に入る。このステージがディランの101回目の日本公演になるそうで(私にとっては6回目)、今さらそんなこともなかろうと思いながらも、ついつい「伝説」を期待する。しかし、実際に「伝説」になったのはケンドリック・ラマーだった。たったひとりで4万人と対峙する彼の姿は鳥肌が立つほどにカッコ良かった。

アメリカで最も危ない街 カリフォルニアのコンプトン出身でお父さんはギャング、勉強のできる彼は「狂った街のいい子(Good Kid, m.A.A.d City )」だったそうで、生い立ちを省みながら変わらない環境に向けた怒りと悲しみを曲にこめる。例えば、Black Lives Matter(黒人の命も大切だ)の中で合唱される彼の代表曲「Alright」。「ポリがストリートで俺たちを殺そうとしている」等、過酷な現実をリアルに語る。だけど、リフレインは「We gon’ be alright(俺たちは大丈夫)」。なぜ大丈夫なのか?愚かにも抑圧することしかできない差別感情に囚われた「不自由」な警官より、人間の「尊厳」に気づいている自分たちの方がはるかに「自由」だからだろう。マイナスなものに絡めとられずにどこか超然とした彼は涼しげだった。半世紀をまたいだプロテストソングのヒーロー2人、彼らを並べ立てたフジロックのブッキングに唸ったものだ。

その年の晩秋、10歳上の高校の先輩たちと酒を飲んだ。どういうわけかフジロックが話題に上り「君、行ったの?ディランどうだった?」とやはり聞かれる。酔っていたので、「それよりもですねぇ、」と当時64歳の先輩たちに容赦なくケンドリックを語る。すると二人の先輩は「その人は凄い!アメリカにそんな若者がいるのか!」と深く感動してくれた。考えてみたら、先輩お二方はともに僧侶だった。そして彼の地では、またしても「Black Lives Matter」の絶叫がこだましている。

#blacklivesmatter

ビリー・アイリッシュを聴いてみようとするにはひょんなきっかけがあった。こんな記事を目にして、「どんな子?」と気になったからだ。

https://rockinon.com/blog/nakamura/194202

以前より黒人に対する人種差別問題について発言する際に使われてきた“#BlackLivesMatter” (黒人の命は重要)、それに対抗すべく“#AllLivesMatter” (全ての命が重要)というタグが白人ユーザーたちの間でこのところ多用されているのだそうだ。彼女はそのことに激怒する。そしてこう語る。

「もしすべての命が大事だと言うなら、なぜ黒人は黒人であるというだけで殺されるの? なぜ移民は迫害されるの? なぜ白人には他の人種の人には与えられない機会が与えられるの? なぜ白人は外出禁止へのプロテスト(抗議)を、半自動小銃を抱えてすることが許されるの? なぜ黒人は無実の人が殺害されてそれをプロテストするとTHUGS(黒人差別用語)と呼ばれるはめになるの? なぜだか分かる????それが白人のファッキング特権だから。(中略)#blacklivesmatterというスローガンは、他の命は大事じゃないと言っているわけじゃない。それは黒人のファッキング命を明らかに大事にしていない社会の事実について注意を向けるためのものだということ!!!!!! なぜなら黒人の命はファッキング大事だから!!!!!!」写真に添えたアドレスをクリックして是非に彼女のInstagramメッセージ全文を読んでいただきたく思う。

「暴動」と報道する日本のマスコミには明らかな意図がある。便乗して暴れる隅っこの一部ばかりを強調して、それを全体像にすり替えて、本質的なことを見誤ってはならないだろう。あれは「暴動」ではない、「自由と人権」を叫ぶ抗議行動である。被害者フロイドさんの弟が集会で叫ぶ様子がニュースで繰り返し放映されていた。彼が叫んでいたのは「抗議するな」ではない。「馬鹿なことはしないで、まっとうなやり方で抗議してくれ」である。香港で起きていることとまったく同じことだ。とにもかくにも、おじさんは18歳の少女ビリー・アイリッシュの剣幕に感動した。ついて行くよ。ああ、もう直ぐ隠居の身。「とめてくれるなおっかさん」なのである。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です