隠居たるもの、皮算用を具現化させる。春のあたりから、山の家の備品をおいおいひとつずつ揃えていくつもりであった。完成は9月なのに、春からというのはこれまたどうしたことか。動機はいたってシンプル、そうした方が安くあがるからだ。今から思えばいまだ呑気だった3ヶ月と少し前の3月14日、「価格.comとキャッシュレス5%還元のはざまで」(https://inkyo-soon.com/kakaku-cashless/)という省察において、「これから6月までに準備することこそが、いわば最も『抜け目ない』方法に他ならない」と独りよがりな意見を開陳した。ところがである、新型コロナウィルスは、そんないじましい腹づもりも当然のこと見逃してはくれなかった。

4月20日12時55分の日本橋

いまだ隠居にたどりついていない我が身、日本橋が長年にわたる勤務地だ。上の写真は「日本橋から神田方向に三越本店を眺める」の図である。緊急事態が宣せられて、在宅での勤務を命じられるも、どうにもオフィスでこなすべき仕事が出来(しゅったい)し、2週間と3日ぶりに日本橋を訪れた4月20日12時55分の弱い雨降る光景である。3週間ぶりに乗った地下鉄の空き具合にも驚いたものだが、ビジネスマンから観光客、そして買い物客にいたるまでが常に雑多に行き交うこの街が、昼下がりという時間帯にも関わらず、まるで始発が走り始めたばかりの早朝のような有様で、心底からギョッとしたものだ。私の皮算用は修正を迫られる。ひとつずつこれからおいおい揃えようにも、店が軒並み戸をたててしまったからである。

「もう大変なんすから」by 初代 林家三平

悲壮な決意で臨む人生最後のなけなしの大散財である。各月に振り分けてうまく組み合わせながら、賢く最大の値引きを勝ち取ろうと目論んでいたのだ。春から6月までと計画したのには相応の理由があった。以下の3点である。①AV機器は一年のうち5月に最も安くなる。②「キャッシュレス5%還元」は6月が期限で、ひと月ごとの適用上限額がある。③利用する店や商業ビルでボーナスポイントが加算される定期的なキャンペーンがこの間にある。それがだ…。①のセオリーは新型コロナ禍で吹っ飛ぶ。各メーカーには6月のボーナス商戦に合わせて新製品を発表する余裕などなく、それどころか既存の製品の生産すらままならない。だから予期したほどには安くならなかった。②新型コロナ禍の当初には、経済対策として延長しようという話をあの財務大臣あたりがしていたが、民の声に押されて一律10万円給付にようやく踏み切ったため立ち消えとなる。そもそも、キャッシュレスで決済する一部の人にしか恩恵が及ばない不公正極まりないお里が知れる施策であったから妥当と思う。③については4月と5月に店が閉まっちゃうんだからどうにもならない…。

東京駅を眺めながら、望んでいた照明器具を吟味する

①は仕方ない。私の力が及ぶ範疇ではない。②については、一部可能なものを振り分けてインターネットで購入し決済し、4・5月と最低限うまく立ち回ったつもりだ。(「TEACのネットワークオーディオプレイヤー」https://inkyo-soon.com/network-audio-player/ なんかがその例)③緊急事態宣言が解除され、ようやくこの6月から店が開き始めた。加えて、頼りにしているインテリアショップ(「キャッシュレス5%還元」の対象業者でもある)の担当さんが「うちが入っている丸ビル、いつもは5月の『ポイント5倍Days』を6月にずらして26日からやります」なんて早々に教えてくれた。彼女はまったくもって良く取り計らってくれる。お目当てのダイニングテーブルだって、教えてもらって「え⁈」って驚くほどに安かった3月のメーカーキャンペーンで購入させてくれた。最大限にかさばる現物は、船便のタイミングをずらしたりしてウロウロさせながら、満を持して9月に白馬に直送される。そして、5月の「ポイント5倍Days」で購入するつもりで最後に残していた照明器具が、今回なんとかギリギリ滑り込みで間にあった。残念なことに、彼女は「この6月で契約切れになるから」店からいなくなるという。本当にありがとう、君は「山の家プロジェクト」のなくてはならない一員だったよ。それにしてもだ、これでいいのか?竹中平蔵さんよ…。

こうして幸運を噛みしめる

オーディオ機器も届いて、これから2ヶ月半ほど一層に狭くなった庵で過ごさなければならない。しかし、すったもんだしながらもどうにか皮算用に近づけることができたようでホッとする。ついこの間、ふと思ったことがある。もし予定が来年だったとしたら、果たして「山の家プロジェクト」はどうなっていただろうか?「2020年の夏」にと計画し、それに合わせて資金計画も含めてせっせと準備をしてきたからあとは転がせば良くなっているだけだ。もし計画が「2021年の夏」だったとしたら、仕事もままならないまま庵に閉じこもる2020年に、果たしてそうした準備を重ねることができたのだろうか。難しかったに違いない。なんとも素直に噛みしめたい、私はラッキーなのだ。白馬から山の家の基礎ができあがったと連絡があった。どうしようかと考えていたが、やはり車は持たないことにした。必要なら松本まで「特急あずさ」で行って、そこでレンタカーを借りればいい。ああ、もうすぐ隠居の身。これは悲壮な決意で臨むおそらく人生最後のなけなしの大散財なのである。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

おそらく人生最後のなけなしの大散財件のコメント

  1. 空間作りってとても大切と思います。
    インテリアを生業としていた身としては嬉しい限りです
    今日もお客様と恵比寿にある前職のショールームで、インテリア談義
    なんだかんだ言って私はやっぱりインテリアが好きなんだなぁ

    髙橋秀年

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