隠居たるもの、皮算用をめぐらせる。朝から降っていた雨が、冷気に耐えきれずに雪に変わった。今日は一日ゆっくり庵でぬくぬくと過ごす予定でいる。といっても、ソファでゴロゴロしているかというと生来の貧乏性がそうさせてはくれず、のんきに編み物をするつれあいを尻目に、こうして机に向かってこの省察を記していたり、まだムキになる必要もない調べ物に際限なく没頭していたりする。この調べ物、実は山の家プロジェクトの一環なのである。

AV機器が最も安くなるのは5月

山の家は、なんとか今年の9月に本当にできあがる運びとなりつつある。そうなると、いくら小さな小屋だとはいえ、友人とともにそこで寛ぐことを主眼にしている以上、相応の什器備品が必要だ。すでにフライングしてTechnicsのレコードプレイヤーを昨年の9月に購入してしまったように、妄想は膨らみ、皮算用(ことが起こる前に計画を立て実現をあてにして期待すること)に歯止めがかからない。そこには、拍車がかかる理由が2つある。まずひとつ、これは電気量販店のお兄さんに教えていただいたのだが、一般的にAV機器(オーディオやホームシアター関連機器などなど)は1年のうちで5月が最も安いのだそうだ。各社が新製品を6月のボーナス商戦にあてるため、もうすぐ型落ちになってしまう製品を売り切ってしまおうと一気に値を落とすのだそうだ。

ビックカメラのスピーカーおたく

先月のことだったろうか、いまだ隠居にたどり着いていない我が身、仕事の合間の休憩がてら、有楽町のビックカメラに立ち寄った。山の家にはテレビを置かない。しかし映画は観たいからネット動画配信サービスをプロジェクターで照射するつもりでいる。だけれども大仰(おおぎょう)なサラウンドセットまで構築するのはどうかと思い、細長い装置が擬似的なサラウンドをかもし出すサウンドバーでお茶を濁そうと相談に訪れた。売り場にいた店員さんに声をかける。すると「そんなもんでいいんスね」と見下したような接客をしやがる。少しシャクに感じながらも一通り説明を受けたあと、あれはどういう拍子だったのか「B&W(イギリスのスピーカーメーカー)の使っていないスピーカーが一組あってね、それを山に持っていくんだ」と口にしたら、彼の態度が一変した。「そんな立派なスピーカーがあるのに、サウンドバーなんてインチキ(関係者のみなさん、素敵なシステムに満足されている方々、ごめんなさい。私が言っているわけではありません。)を選ぼうなんてひどいじゃないですか!」とばかりに非難され、同時に、前面のメインスピーカーの上に置くんだけども音を天井に反射させてそれを聴く人の後方に届ける、つまり5.1chのリアスピーカーの役目を果たすDALI(デンマークのスピーカーメーカー)の製品を熱心に勧められ、「これなら大仰にはならないでしょ」と説得される。確かに彼のいう通りだし、試しに「組み合わせる機器はどこのどれがいいんだ?」と尋ねると、私もチェックしていた納得いく製品をいちいち挙げるし、情にもほだされたし、最後は「それでは君に頼むよ」ということになった。

価格.comに首っぴき

結局、彼が教えてくれたDALIのスピーカーの他に、B&WのセンタースピーカーとDALIのサブウーファーを新調し、B&WとDALIで布陣を固める。その他に、DENONのプリメインアンプ、TEACのネットワークプレイヤー(いちいちCDを持参するのが面倒なので代わりに導入)、MarantzのAVアンプ、EPSONのワイヤレスのプロジェクターを購入しようと考えている。もちろん、Technicsのプレイヤーも持っていく。ビックカメラの彼は「その他に5万円くらいかけてコード類を」としつこいが、それはちょっとどうかと思う。さあ、ここからが問題だ。揃えなければならないのはAV機器だけではなく、家具だってほぼ一からなのだ。これは、悲壮な決意で臨む、おそらく人生最後のなけなしの大散財なのである。だからこそ、予算内に収めた上で、1円でも多く手元に残さなければならない。だから、暇があるとつい価格.comを検索し、変化がないかを落ち着きなく確かめてしまう。変わっていない…。それはそうだ、まだ3月だもの…。でも、疑心暗鬼にさいなまれる。5月に安くなるというのは本当なのだろうか?そんなことを繰り返していたついこの間のある日のこと、その前に確認した時に比べて総額で5万円も値が落ちている!本当だったんだ…。価格.comに血眼になる今日この頃である。

冷蔵庫や洗濯機などの白物家電は、AV機器と違って12月のボーナス商戦に向けて新製品を発売するから、現行製品が最も廉価になるのは10月あたりだそうだ。

キャッシュレス5%還元は6月まで

皮算用に拍車がかかる理由のもうひとつは「キャッシュレス5%還元」だ。この新型コロナウィルス禍で延長の話題も出てきてはいるものの、予定では6月まで。消費税の税率を上げ税金を多く徴収しておきながら、条件づけして一部の者にのみ還元するどうかと思う施策ではあるが、悲壮な決意で臨むおそらく人生最後のなけなしの大散財である、額面も大きくなるだけに背に腹はかえられぬ。家具をオーダーする予定のアオゾラカグシキ會社だってがんばって対象店舗になった。しかし、ここにも留意しなければならないことがある。「ひとつのカード会社につき還元するのはひと月に15000円まで」という上限があるのだ。知らずにいっぺんに購入したら「恩恵」をフルに手にすることができない。“5月”やら、購入する予定のそれぞれのお店のポイントキャンペーンやら、5%還元を効果的に受けるための購入配分やら、そんなこんなを用意周到に考えながら、妄想が少しずつ形を帯びる。そして、今ここで使わないものが庵にひとつずつ積まれていく…。

アイスランドの至宝 シガー・ロスのアルバム「Takk」が今日の昼前に届いた。Technicsのレコードプレイヤーを回して聴く。美しい…。ああ、もうすぐ隠居の身。遥かなる山の呼び声が、少し近くで聴こえる。

*参照:「Technicsのレコードプレイヤー」https://inkyo-soon.com/technics/ 「アオゾラカグシキ會社で家具をつくる」https://inkyo-soon.com/aozorakagu/

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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