隠居たるもの、大詰めに差しかかって慌ただしい。現地からレポートが寄せられる。建物は上棟され、工事は大工仕事に移ったという。そう、山の家プロジェクトの話だ。だから、「施主支給となっている『1階のフローリング材』と『1階トイレのペーパーホルダー』をそろそろ現場に投入して欲しい」と松本に住む現場監督から催促された。差し迫らないと人間てえのは呑気なもんで、まだまだ先のことのようにのんびりしていたのだが、完成予定期日まですでに2ヶ月を切っている。「これはいけない」と慌てて手配しながらも、ついつい「ようやくここまで来たか」とほくそ笑む。

愛する「みみずくの湯」近くにこれがオープンするというからどうなるか少し心配…https://www.snowpeak.co.jp/landstation/hakuba/

髪を頭の後ろでキュッと束ねた大工の兄ちゃん

「来週に上棟します。見に来ていただけますか?」と現場監督から連絡があったのは7月11日のことだった。長距離の移動を伴うことであったし、そもそも餅を撒いたりするつもりもなかったし、東京の新型コロナウィルス新規感染者数が立て続けに200名を超えて3日目のことだったし、この目でしかと確かめたいのはヤマヤマのところを、泣く泣く「今回は行かないことにする」と断念した。資材を搬入してほしいと連絡があったのは、その上棟を終えた直後のことだった。

「1階のフローリング材」は、その筋専門の仕事をする近所の友人から譲ってもらうことになっていた。他にない「特別」な材だという。友人に「現場監督が入れてくれろと言っているのだが」と伝えると、ありがたいことに「気晴らしもしたかったんで」と22日に自ら単身で長距離を運搬してくれた。すると夕方の4時ごろ、「現場を見つけられません…」と、カーナビもあてにならない鬱蒼とした現地から困り果てた電話がかかる。「右だ左だ」といったところで、すでに途方に暮れている。大慌てでGoogle マップのピンポイントをメッセージで送ってなんとかことなきを得る。いやはや、今まで以上に機器を使えないといけないと考えた。現場を目にした彼によると、大工さんは二人組だそうで、伸ばした髪を頭の後ろでキュッと束ねた「いかにも」と惚れ惚れするとっぽい兄ちゃんが応対してくれたという。若い寺島進みたいな人を勝手に想像してしまう。いやあ、つらをつきあわせてみたいものだ。それで私はその時間に何をしていたのかというと、「1階トイレのペーパーホルダー」を東上野に探しに行った帰り道だった。

1階トイレの金物は、山の家らしくスッキリ無骨に黒ってえのがよくないかい?

施工業者の息のかかったところでは、つれあいのそんな意向を反映した金物を扱っていなかった。鋳物のようで艶のない、無骨で剥き出しの黒い鉄。だから「1階トイレのペーパーホルダーとタオル掛け」はこちらで探すということにしていたのだ。これを調達すれば、すべての部材が出揃う。インターネットで目星をつけ期待していた店が東上野にあった。まあセンスがいいということになるのではあろうけど、意にそぐわずこれといったものもそこにはなかった。ならば「あそこにならいろいろ数があるに違いない」と足を運んだ豊洲の巨大ホームセンター「スーパービバホーム」、ここも箸にも棒にもさっぱりかからない。都バスに乗るのを避けてウォーキングがてらの往復10Km、疲れて足を休めたそれふうに小洒落たカフェでのこと、私たちは屋外テラスを選んだのだけど、換気のため戸が開け放たれた店内では、20代から30代そこそこと思しきこれまた小綺麗な若者たち10人ほどが、午前からのフットサルを終えてなのか、真昼間だというのにそこそこにビールを飲んでいて、あたりを圧するほどものすごい大きな声で笑い合っている。飲んでいるのだからしてもちろんマスクは誰一人としてつけていない。東京の新型コロナウィルス新規感染者数が今までで最多の366名だったその翌日にである。為政者がほったらかしにしちゃったんだもの、こんなもんだよな…。見当をつけずにこれ以上ふらつくわけにもいくまい。結局はインターネットで探して通販で手を打つことにした。

左端のやつをふたつ頼んだんだ。https://torenosu.theshop.jp/items/19146419

食器もあれこれひっくり返しはじめた

つれあいは「大詰め」にさらに拍車をかける。「どれを山の家に持っていくか」と食器をあれこれ物色し始めたのだ。「庵に合うか、山の家に合うか」と尋ねられ、その都度に頭をひねる。今のまま庵に置いた方がしっくりくるようにも思えるし、木に囲まれた山の家でこそより映えるような気もする。何度か問答を繰り返し、対処法が見つかった。悩むものはとりあえず山に持っていく。庵で足りなくなるその分を新たに吟味して補充する。愛着とともにかねてから我が庵にあった食器は、山の家という新しい環境を得て、その味わいをあらためてみずみずしく顕わすに違いない。そして、庵にやってくる新しい食器は、古くからの食卓をまたぞろ華やいだものに一新してくれるだろう。

この一週間、実は大詰めに差しかかっていて慌ただしいのだ

トイレの金物は今日の午前中に発注した。それらが届いたら、現場に投入するため今度こそ現地に持参せねばなるまい。オーディオ談義に花を咲かせる友人から譲り受けた「オーディオ専用コンセント」ふたつだってある。日帰りになるのは致し方ない。それより工事の進展を垣間見るのが楽しみだ。空いている「あずさ8号」はかえってリスクが少ないように思うのだが、今日28日の新規感染者が東京で266名、大阪で過去最多の155名、どうにも予断を許さない。まあ、8月に入ってからのことだ。なぜかといえば、次の金曜日7月31日をもって、いまだ隠居にたどり着いていない我が身、とうとう長年にわたる勤め先を辞するからだ。あと3日である。同時にいろいろと大詰めなのだ。神は細部に宿る。ああ、もうすぐ隠居の身。いまだ修行の途上である。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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