隠居たるもの、季節の境に労働に勤しむ。土日祝日が休みの方々が、今日2021年11月22日月曜日にうまいこと休みを取ったとすると、明日の勤労感謝の日を合わせて4連休となる。カレンダーをろくすっぽ「読まなくなった」私たちだ。20日土曜日の11時ごろ、白馬に移動しようと東京駅に出向き、あまりの「人流」に震え上がる。北陸新幹線改札近くの駅弁屋「祭」は、それこそ祭りのようにごった返しており、おののくばかりで足を踏み入れられない。ここで初めて「あ、変則的4連休になるのか…。なるほど緊急事態宣言明け最初のそこそこの連休というわけだ…。」などと気づく。子どもづれが多いのは、ようやくにして帰省する方々も多いからだろう。ほぼ満席だった新幹線で、私たちの前の座席に着いたメロン坊やと似た歳格好の男の子、ずっと窓の外を眺めていた。

心のまわしを締めてくれ!

みなさんマスクをされているし、そもそも申し訳なくも自分たちもその一画を占めているわけで、肩を怒らす筋合いのことでは毛頭ないんだけども、用心して私たちは列車の中で弁当を広げるのはよしにした。長野駅で下車し、一転してガラガラのバスで白馬に移動する。長野県木曽郡上松町出身、今場所好調の御嶽海にキリッと「心のまわしを締めてくれ!」と呼びかけられ、まさしく「ふんどしを締め直した」次第だ。とはいえ、ここまでの喧騒をよそに、白馬はひっそり閑としているのだ。紅葉シーズンを終えた今、ウィンターシーズンに向けひと月半ほどの準備期間に入ったからだ。飲食店やホテル、たくさんの店が休業する、一年で最も静かな季節だ。そんな折の今回の白馬滞在の主目的といえば、それは冬支度を完璧に終わらせることであった。

ほうきで草地を掃くには握力がいる

私たちが東京にいる間、すでに一回どさっと雪が降っている。散種荘あたりの標高では積もるということもなかったようだが、庭を彩っていた樹々の葉はあらかた落ちていた。つれあいがせっせと落ち葉を集める。萌える新緑から夏の盛りの深緑に、そして鮮やかな赤や黄へと色を変え、この子たちは私たちの目を楽しませてくれた。庭はすっかり見晴らしも良くなって、低くなった陽の光がやんわりと届く。レレレのおじさんのように労働に勤しんだつれあいは、両手の握力を使い果たしたとぼやく。それではこの日の私はなにをやっていたのかというと、第二期工事で完成した外回廊に、夏の間に自分たちで塗装した雪囲いを、つれあいの手を借りつつフルスペックで装着していた。

雪が降る前にケルヒャーで高圧洗浄をかける

10月にコメリの在庫一掃セールで、超圧縮空気で水を吹きつける洗浄機器ケルヒャーを破格で購入してあった。2005年、何十年にもわたって貧困が放置されてきたパリ郊外の低所得者スラムで、鬱憤を爆発させた若者が自動車を燃やす暴動を繰り返し、それがパリ中心部にも飛び火し騒然としたことがあった。それに対し当時内務大臣のニコラ・サルコジが「社会のクズはケルヒャーする」と発言し物議をかもした。日本ではそのころドイツの高圧洗浄機ケルヒャーは一般的でなかったから「社会のクズを一掃する」などと訳され、この侮辱的で陰険なフランス語のニュアンスがいまひとつ伝わらなかった。しかし、鳥の糞のようなこびりついた汚れをこそぎ落とすために買い求め使ってみると、(けっこう乱暴な機械だからこそ)それがいかに傲慢な言葉であったか今さらながらよくわかる。彼はのちに権力欲を満たし大統領になるわけだが、2期目の選挙にはあっさり敗れ去り、結局は現在ふたつの汚職で実刑判決(控訴するつもりのようだが)を受けている。どこにでもある似たような話だ。訴えて裁判して実刑を下すだけ法治国家としてまだマシだが…。

仮にも今年は「冬支度」をしている。引渡しを受け2ヶ月しか経っていなかった昨年は、能天気にただ「冬を迎えた」だけで、その結果、雪の脅威に右往左往するばかりだった。高圧洗浄をかけるのはこれから「塞ぐ」ところだ。例えば、上の写真の窓のところがどうなるかというと、屋根からの落雪に備えてここにも雪囲いをつけて下の写真のようになる。奥は薪ストーブの空気取り入れ口が埋もれないようにするための新兵器だ。

「ああっ!大惨事がっ!」

家の中に入ったつれあいが叫ぶ。「どうした?」と戸外から聞いても、声を震わせて「ああっ!大惨事がっ!」と繰り返すばかりで埒があかない。中に入ってみると、土間が水浸しになっているではないか。玄関ホールの土間トイレからケルヒャーに水を引いていたところ、洗面台の蛇口に噛ませたアタッチメントがゆるくて、そこから水が勢いよく吹き出していたようだ。散種荘はことさらに大掃除をしないことにしていたものの、こうとなったら致し方ない。「期せずして大掃除のごとき掃除となってしまったが、こじんまりとしたこの歳になると、こうした大々的な失敗をすることも滅多になくなるから、どこか新鮮な心持ちがするではないか」などと(無理して)破顔一笑、外回廊からデッキブラシを持ち出して土間から水を掃き出し、せっかくだからと力を込めて磨き上げる。

一段落して昼食をとる頃に雨が降り出した。午後に薪を持ってきてくださる手筈になっていた白馬ファーム(株)武田社長から電話が入る。雨が降り出したので明日でもいいだろうか?今晩の暖はとれるか?とのこと。少しずつ準備を進めてきた私たちは大丈夫、「明日でよござんす」と答えておいた。この薪を受け取って、私たちの冬支度はひとまず終わる。昨日、今日とよく働いた。明日の勤労感謝の日、暗くなるころには雪が降り出すという。ああ、もうすぐ隠居の身。自らの勤労に感謝してゆっくり休むとしよう。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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