隠居たるもの、危うきには近寄らず。しかし昨日と一昨日、どうにも避けられない野暮用があって、久方ぶりに街に足を運んだ。昨日は日本橋、一昨日は錦糸町だった。日々に仕事に出かけなければならない方々がいらっしゃるところ、さも「気が進まない」感を醸し出すことにいささかの罪悪感は感じるのだが、「街」にはコモンセンスを疑わざるをえない人々がどうしてもいらっしゃる。例えば一昨日、錦糸町の駅ビル「テルミナ」でのことだ。

「スガは緊急事態宣言を出すかな?出さなきゃしょうがないだろうな」

野暮用の具合からいって、久しぶりに昼を外でとることにした。駅ビルのレストラン階に行けば、なんか食べたいものが見つかるだろうと5階に登り、ランチセットのある中華料理店に入る。外からは静かそうに見えた店内に、80歳はとうに過ぎているのではないかと思しきご高齢のおじさん、テーブルを挟んでその向かいにもう少しで80代という風情のおそらくは夫婦の男女、合わせて240歳を超えているだろう3人組の声が響き渡っていた。会食中だもの、マスクはしていない。そしてその両隣しかテーブルは空いていない。失敗した…。仕方ない、一番大きな声を発し飛沫を飛ばしている最年長のおじさんから最も離れた、ここなら大丈夫という席に腰を落ち着け、とろみ五目麺セットを注文する。最年長のおじさんの声がまたよく通る。3人組は坦々麺をすすり終えてもマスクはつけず、話に夢中で一向に席を立つ気配がない。「スガは緊急事態宣言を出すかな?」他のお客さんは概ね1人もしくは2人で、ひっそりと静かに食事をしている。

「次の首相は小池にやらしたらいい。他に人もいないじゃないか」

と「自分にはわかってる」ようにおっしゃる。おそらく、中小企業を経営するお金持ちなのだろう。コースに出た近日のゴルフの話と、笑っちゃうくらい絶望的に底の浅い時事ネタを、恐ろしく上から目線で話題にしている。目先のお金儲けとゴルフと会食に忙しく、「勉強」する暇などないのだろう。自民党の二階俊博幹事長もさもありなんと推測する。最年長のおじさんと背中合わせのテーブルでひとり食事していたスーツ姿の男性が、箸を置きマスクをつけて立ち上がる。振り返りざまに3人の老人をキッと睨みつける。歳格好からいって子供もいる責任世代、テレワークにもならず日々出勤し、この時間にカバンを持って外に出ているところを見ると営業マンで、リスクを気にかけながら昼をとっていたに違いない。自分がどんなに気をつけたって、こんな人たちから放たれる流れ弾を防ぐ手立てまではない。腹立たしいのだろう。彼の表情にはもしかしたら「それなのにこうした人たちが営業ターゲット」という悲哀も隠されていたのかもしれない。彼はうつむき加減で店を出て行った。今ここでこそ大切なのは、コモンセンスとデリカシーだと私は考えている。若い者たちばかりが槍玉にあがるが、決してそんなことはない。何も考えていないボンクラは、年齢に関係なくそこかしこにいる。だから感染が劇的に抑制されることは期待できない。この日、1月5日の東京都が発表した新型コロナウィルス新規感染者数は1287人だった。

「鉄壁の危機管理」

歴代最長となった安倍晋三政権の官房長官として、「鉄壁の危機管理」能力を称賛されたガースー総理のことだ。上の写真でヨイショされているように、「Go To キャンペーン」の推進を批判されていても、きっと深慮があったに違いない。グズグスとキャンペーンを停止しなかったのは、遠望に基づいて細かな調整を施していたのではなかろうか。そう、もしかしたら、新型コロナ感染のピークを意図的に年末年始にぴったりと合わせたのかもしれない。

1月6日、人がすっかりと少ない日本橋でそんなブラックジョークをひとり呟きほくそ笑んでいた。以前から私には、ガースー総理は「権力を振りかざすのが好きな特高警察みたいな顔したおじさん」でしかない。考えや理念が伝わってきた経験もない。「鉄壁の危機管理」といったって、質問に答えず怖い顔して睥睨していただけだし、今この危機をここまで野放しにしてきたことを省みるとき、いったいそれが誰にとっての「危機」だったのかわかろうというものだ。「緊急事態宣言」が現実的に語られたこの日、東京都が発表した新型コロナウィルス新規感染者数は1591人だった。

「緊急事態宣言」発出の記者会見はもうすぐ

疑問に思っていた。「緊急事態宣言」は「発令」するものではないのか?なぜ「発出」なんだろう?同じ点に引っかかっていたのか、大学の先輩がFBで取り上げておられた。広辞苑1983年版によると「発出」とは①あらわれること。あらわすこと。おこすこと ②出発に同じ、「発令」は法令・辞令などを発布・公表すること、なのだそうだ。つまり、この「緊急事態宣言」、強制力を持たないから「発布する」という意味合いの「発令」は使えない。だからといってアベノマスクで追い込まれて「緊急事態宣言」をするにいたった安倍晋三前首相に恥をかかすわけにはいかず、彼が大見得きって「一大事」感を醸し出せるように、官僚がどこかから意味ありげな「発出」という言葉を捻り出した、真相はそんなところだろう。これからガースー総理の記者会見があるように聞いているが、それに先立ち「その記者会見で聞きたいだけ質問できるのか」とただした記者に対し、加藤勝信官房長官は「総理には他にも大切な仕事があるのだから!」と語気を荒げたそうだ。多分、大切な会食でもあるのだろう。どうせ「鉄壁の危機管理」能力を発揮して下を向いて紙を読み上げるだけだろうから見る甲斐もない。どちらにしろ「緊急事態宣言」を「発出」しておきながら、根拠なく「東京オリンピック・パラリンピック予定通りに開催」のままであるならば、「実はなにも考えていません」ということに変わりはない。そのことが「コモンセンス」のないあの人たちにはわからない、大事なことをなにも考えてないから。

以前にも記したが、私は「自粛」をしているわけではない。知りうる限りで状況をわきまえて、それを「行いや態度」に反映させ、「今までしていたことを、考えもなく同じようには今はしない」という選択をその都度にしているだけだ。だから「緊急事態宣言」が「発出」されたからといっても…。今日1月7日、東京都が発表した新型コロナウィルス新規感染者数は、とうとう2447人だった。Eテレに「旅するためのドイツ語」という番組がある。先日の放送で、敬愛するローター・マテウスの言葉が紹介されていた。W杯に5回(1982年から1998年)も出場、キャプテンとして優勝も果たして“闘将”と呼ばれたドイツのサッカー選手だ。こんな言葉だった。ああ、もうすぐ隠居の身。「今ここで目の前の現実から 目をそらすことだけは許されない」

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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