隠居たるもの、新たな命の産声に、笑みを噛みしめ忘我にひたる。金曜日、若い友人夫婦に第二子が誕生した。産まれたその日に、「予定日よりちょっと早く産まれちゃいました」と連絡を受け、「第一子のときと同じく、ほど近い亀戸あたりの産院にいる」というから、日曜日の今日、もうよかろうと駆けつけた。ニューフェイスは、どこか穏やかな顔した鼻が高い男の子だった。ジタバタする姿がなんとも可愛い。わかるでしょ?
背が高くてスレンダーな彼女
2013年7月21日、参議院選挙の投票を終えて、コーヒーを一人で飲んでいたつれあいが、その店に投票を終えてやはり一人で入ってきた、背が高くてスレンダーな彼女を「ナンパ」する。山形出身の彼女は、新潟の専門学校を卒業し、仕事を得るため東京にやって来て、我が庵から徒歩2分ほどのマンションでひとり暮らしをしていた。20代後半に差しかかった、酒がしこたま強い彼女との交友はここから始まった。すべての電車が止まった記録的な大雪の晩に、我が庵でおでんをつまんだこともあった。また、木場公園でこんなこともあった。肉じゃなく魚介を炭で焼いて飲もうと催した「秋刀魚バーベキュー」、参加者に、キャッチボールをしようとグローブふたつ持って来ていた親子がいた。お父さんが疲れたころ、彼女が「代わりましょうか?」と申し出る。そして、彼女の強肩ぶりにみなが仰天する。高校時代、ソフトボール部のショートだったという。
私たちは「仲人」なのである
どこかに適当な奴はいないものか?勤め先も少人数だというし、東京にツテもそれほどないだろうから、とちょっとお節介なおじさんはヤキモキしてしまう。いまだ隠居にたどり着いていない我が身の、勤務先の後輩たちに聞いてみると、「お客さんで、年格好も似たような、ちょうどいい感じの青年がいます」という者がいる。新宿三丁目、酒場の銘店「鼎(かなえ)」に登場人物全員を呼び出して、一緒に飲んでみることにした。2014年3月のことだったと記憶する。現れた青年は、190センチはあろうか、こりゃまたスラッと背が高い。「お似合い」とお見受けしたが、そこから先は立ち入るべきではないから、順調だったのか、紆余曲折だったのか、そこまでは与り知らない。ただ、帰省のたび玉こんにゃくだった彼女のお土産が、「お母さんが…」といって山形のブランド米「つや姫」に昇格を果たした2015年のお正月、「車輪は動いたな」と静かに手応えを感じ取ってはいたのは事実だ。案の定、二人はその年の10月に結婚する。二人に求められ、主賓スピーチを引き受けた。心から喜ばしい夜だった。
少しばかりにお節介
一昨年、2017年の春に第一子の女の子が産まれた。聞いてみると、お転婆に成長しているそうだ。この子の誕生を機に、若い夫婦は同じ江東区内の少し離れたところにマンションを買って引っ越した。ゆえに、今はそう頻繁に会ってはいない。だが、こうして事あるごとに連絡をくれるから、まだ名前も決まっていない第二子にも早々にお目にかかれた。かえすがえずも喜ばしいかぎりだ。
来週あたりには、姪とサッカー部後輩の子供も産まれるだろうか。あれ?そういえば、この二人が決定的になったのも、私が連れてった新宿三丁目のバー「どん底」でのことだったんじゃないか?そうか、機会があれば、また新宿三丁目でやってみようか。ああ、もうすぐ隠居の身。少しばかりにお節介、これが私の処世である。