隠居たるもの、随所の痛みを忘れ去る。東京にも春の嵐が吹き荒れた2021年3月13日土曜日夕刻のこと、近くで暮らす若夫婦(サッカー部後輩と姪)に頼まれて、1歳半になる姪孫(てっそん)メロン坊やの子守に出向いた。顔を合わすのは2週間ぶりになる。この世に生を受けて18ヶ月のメロン坊や、たった2週間で驚嘆するほどに成長していることがある。この日もまさしくそうだった。メロンの箱をのぞいてニンマリ笑った生後10ヶ月のまんまるの顔が微笑ましく、昨年5月に私が「メロン坊や」と命名したのであるが、なんとそれに「異を唱えた」のである。ご存知だろうか、チチヤスヨーグルトのパッケージに描かれたキャラクターの男の子、それを指して「これはボク」と主張したのだ。この子の名前は「チー坊」だ。

メロン坊やは今日もゴキゲン

春雷のピークは去ったものの雨まだ強く残る午後5時半、メロン坊やはうどんを食べてエネルギーチャージを終えたばかりだった。焼き鳥のテイクアウト持参の私を右手を上げてにこやかに迎える。この子は眠くさえなければいつだってゴキゲン、春の嵐で外に出られなかったからだろうか、この日のテンションはいつになく高い。こちらは生まれて初めてのぎっくり腰に見舞われてからまだ3週間、それが遠因なのか右側肩甲骨下背筋も痛くしちゃってるし、ここ数日は右の五十肩にも脅かされている。突発的な動きに用心して腰にコルセットはしてきたが、どうにも手強い夜になりそうだ。つれあいと交互に「焼き鳥でビール」をし、かわりばんこにメロン坊やのお相手をつかまつる。

両腕を後ろに回し、手のひらを上にして、前屈みにそそくさと歩く

「え?おじいさん?それは、おじいさん?」とつれあいが尋ねる。メロン坊やが「〇〇しゃん」と言いながら、両腕を後ろに回し、手のひらをくるりと上にして、前屈みにそそくさと動き続けるからだ。「これこれ、1歳半の乳幼児が志村けんのコントの真似はしないだろう」とたしなめる。しばらくすると発語の見当もついてきた。「あ、ペンギンさん、だな!」にっこり笑ったメロン坊やは、「ジェスチャー」に正答した私を指差して「その通り!」と称えてくれる。そのまま「こども図鑑」を一緒に見るよう促される。指差し教えてくれるのは、これが「ペンギンしゃん」であり、大好きな「いちご」はこれで、なんとなく「にんじん」、たまに「かば」だったりする。覚えた言葉を披露し、趣味嗜好を垣間見せてくれる。「そうそう、にんじんがあるんだ。ボクがお店になるから買ってみて」と思いつき、人参のおもちゃを持ち出して突然に「お店屋さん」を始める。「いくらですか」と尋ねると「しぇんえん」と法外な金額を要求するではないか。他の商品は選択させてくれないし、「まけてください」と懇願してもビタ一文の値引きもしてくれない。押売りである。いたしかたない、おもちゃのちっちゃい夏目漱石のお札で支払っておいた。

フライング・ボディシザーズ・ドロップ

メロン坊やが、適当な助走距離をとって、そこを小走りして勢いつけて、座って待ち構えるこちらに抱きつくように身をあずける。嬌声をあげながら、私にもつれあいにも何度か繰り返す。鉄人ルー・テーズの得意技 フライング・ボディシザーズ・ドロップ(空中胴締め落とし)の特訓に違いない。不思議だ。身体の痛みを忘れてる。子守を始めてから3時間もしたころだろうか、若夫婦が帰ってくる。今日は旦那(私の中学高校サッカー部の25学年後輩)の誕生日で、寿司ディナーをしたかったのだが、乳幼児同伴OKの店がどうにも見つからなかったのだという。それはそれとして、ふたりでゆっくりと落ち着いて食事をする時間も少しは必要だろうから、そのためにも近くで暮らしているんだし、遠慮なく言ってきたらいい。スッキリ後腐れなく「バイバイ」と手を振るメロン坊やに見送られ、私たちは若夫婦の部屋を後にした。そして「騒々しかったでしょう」とお詫びに一階下のお宅に立ち寄ることにする。春の嵐は完全に過ぎ去っていた。

「メロン坊や」を卒業して、この春から晴れて「チー坊」となる

若夫婦が暮らすのは集合住宅で、小さな子供が動き回る音というのは、すぐ下の部屋に著しく響く。そのお詫びと釈明にうかがったのだ。本来なら恐縮至極なところ、まったくたまたまの偶然にして「もっけの幸い」なことに、以前からここには私たち夫婦ととても親しい友人カップルが暮らしている。彼らは、ありがたいことにメロン坊やを「知り合いの子」として可愛がってくれる。いくらか酒を酌み交わしながら聞いた。先日、若夫婦とメロン坊やが3人で出かけるところを見かけたので「どこ行くの」と声をかけてくれたそうだ。その時、一家は水族館に出かけるところだったという。そうか、それで「ペンギンしゃん」なのか。

3月は卒業の季節である。前髪が眉毛までかかり、黒目がちな丸い目と丸い顔のチチヤスヨーグルトの「チー坊」、確かに似ている。そして彼がこの子を「これボク」と自己認識するほどに成長した以上、「メロン坊や」は卒業ということにして、今後しばらくは「チー坊」と呼ばねばなるまい。調べてみると、「チー坊」には家族がいるそうで、お父さんは「チーパパ」、お母さんは「チーママ」、さらにお姉ちゃんは「チーネエ」。ちょっと「チーママ」はどうかとソワソワするが、それは汚れた大人が思うこと…。兎にも角にも、子供はよってたかって育てるに越したことはなかろう。ああ、もうすぐ隠居の身。だから私は「チーオオオジ」なのである。


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投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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