隠居たるもの、望まぬ届きものに気を煩う。午前10時38分、つれあいからメッセージが送られてきた。

「ついに事務所のポストに…」

メッセージには布製マスク2枚、いわゆる“アベノマスク”の写真が添付されていた。大通りを渡って墨田区にしばらく歩いた集合住宅の小さな一室に構えた仕事場、つれあいはそこに「出勤」する。エントランスを通りつつ、当然のこと郵便受けをチェックをする。もうそろそろ届くのだろうと覚悟はしていたが、仕事場にまで届くとは予期しておらず、不意打ちを受けてなんとも脱力してしまった心持ちを早々に薄めたくて、つれあいは苦々しくメッセージを寄越してきたのだろう。

ということは、うちには4枚?

エイプリルフールに安倍総理大臣から誇らしげに発表されたこの施策。「???」とどうにも納得がいかず、4月3日には「私なぞに送りつけるのは税金の無駄使いだから辞退したい。どうしたらいいか?」と首相官邸に税金を払っているこちらからわざわざ問い合わせたにも関わらず、下々の意向には興味がそそられないようで、後に愛犬を小脇に抱えてくつろぐ姿を拝見しはするものの、返信がなされることは一向になかった。466億もかかるこの施策に首をかしげるのはなにも私に限ったことではない。だからこそ4月17日の記者会見で、誰に吹き込まれたのか「御社のネットでも布マスク、3300円で販売しておられたということを承知しております」といつものようにニヤついて一矢を報いようとしたのだろうが、それも裏目、朝日新聞が販売していたのは繊維の街 大阪府泉大津市のメーカーが製作した比べようもない大変に立派な製品だったことが確認されている。(参照記事:https://mainichi.jp/articles/20200420/k00/00m/010/195000c)もはや“アベノマスク”から“アホノマスク”へと名称をエスカレートさせる者も出る始末だ。一切合切「ごめん、勘違いしてました」と謝ってやめればいいものを…。それがついに届いてしまったのだ。しかも、集合住宅だから判別のしようもないのか、墨田区にある仕事場にまで…。近いうちに江東区にある自宅にも魔の手が及ぶ。ということは、「必要ない」とはっきり意思表示した私たちのもとに、こともあろうに布製マスクが4枚…。

その行方を考える

受取拒否しようかとも考えていた。厚生労働省に返送するなり、拒否の意向を記しサインしたメモをはっつけてポストに投函するなり。しかし、この時節に物流の負担を増やすのもどうかと躊躇して、なにか良い方法はないものかと模索する。少なからず責任もあろうから、地域の自民党選出の先生に引き取ってもらおうか。それもダメだ。わが地域の自民党選出の先生は元IR担当副大臣、賄賂もらって逮捕され今となっては保釈の身、それに実のところは二階幹事長の派閥に属したままなのに、なぜか表向きは離党したことになっていて役に立たない…。近所の共産党「なんでも無料相談室」に「必要ないという人の分を取りまとめて、ホームレスを支援するNPOにそちらから寄付したらどうでしょう」なんて持ちかけて預けようかと思ったが、利益供与にあたるから議員はおいそれと寄付ができないのだという。まったくなんだかなあ…。そんな時に近所の知人が動いた。

マスクを必要な人に!

https://www.facebook.com/%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%82%92%E5%BF%85%E8%A6%81%E3%81%AA%E4%BA%BA%E3%81%AB-106962437655922

私なりに要約すると「マスクの配布の是非については色々な意見もあろうが、一方では配られたマスクを無駄にしたくないという思いもあり、不要なマスクを回収して必要な人に届けようというアクションをすることにした。江東区内で回収協力店舗を募り、そこに回収用封筒を配置し、そこに持って来てもらうという方法をとる。どれくらい集まりどこに渡したかはこのフェイスブックで開示する。」とのこと。さすがと感嘆する。すでに案内されている回収協力店舗だって知っている。このような人たちとともに近所に暮らし、その上で知己でいられることはまったくもって幸いなことである。

それで4枚は何処に?

あらためて真剣に考える契機をくれたご近所さんに感謝したい。ありがとう。4枚そろったら、「マスクの寄付を快く受ける」と表明している NPO法人ホームレス支援全国ネットワーク(http://www.homeless-net.org/)に送ることにした。「ホームレスの方に渡したい」という明確な意向が私たちにはあるからだ。路上で変死した方からも新型コロナウィルスが検出されている。住所がない彼らにはなにも届かない。布製マスクすらも届かない。理由はそれだけで十分だ。

昨日からなのだろうか、新型コロナウィルスに対処する医療関係者に感謝の意を表するため、午後7時に一斉に拍手することになったそうだ。感謝するのはやぶさかではないが、それだけで事足りるわけではなかろう。拍手して「やった気」になって感極まっていてはいけない。医療従事者の負担を少しでも軽減しなければならないし、そのためには物資だって人的資源だってもっともっと必要だ。466億はそういうところに投入すべきだったのではないか?どちらにしろ、マスクを寄付するために、いかほどかの郵送料を私は負担しなければならない。だから一人10万円の一律給付は、我が家においては実質いくらか目減りする。なぜにここまで煩わされなくてはならないのか。まあ、貸しにしておくさ。ああ、もうすぐ隠居の身。ツケはいつか払ってもらう。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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