隠居たるもの、知恵を巡らし日を送る。幸いなこと、できうる限り庵にこもる今日この頃である。とはいえ、必要火急とまではいわないが、どうにもドアを開いて足を外に踏み出さなければならないこともある。私にとってそれすなわちスーパーと公園だ。ここ数日来、このふたつはテレビでさかんに槍玉にあげられる。東京都にいたっては、混み合うスーパーに対策を講じるよう今宵に新たな要請を出すそうだ。もはや「3密」を回避するだけでは足らず、たったひとつの「密」からも遠ざかる姿勢が各々に必要であるところ、あまりに無防備な方々を目にして驚くこともある。誹(そし)りを受けるのは致し方なかろう、さもあらんと思う。だからこそ、私にしても「密」になりかねないこのふたつの施設を、工夫もなく利用しているわけではないのである。

リーダーは指導力を発揮した

3月25日水曜日、東京オリンピックの延期が決定した途端、小池百合子都知事は週末の外出自粛を緊急に要請する。案の定、関東近郊のスーパーは大変なことになったわけだが、それについては3月28日の省察「パニックレジャーに興じる人々」(https://inkyo-soon.com/panic-leisure/)に記している。以来、いっときのクレイジーなパニックはいくらか落ち着きはしたものの、いつもより多く買い込まなければならない人々でスーパーは混雑し、ソーシャルディスタンスを配慮しない人にぴったり後ろに並ばれゾッとすることも何度かあった。なんとか独自な対策はないものか…。思案するのもつかの間、我が家においては圧倒的な指導力のもと明確に戦略の変更がなされ、スピード感をもって即日に実施された。この優れたリーダーは誰あろう、もちろんつれあいである。

嵐のように買い物をして立ち去る

まず、利用する店を変更する。それまでは食材が新鮮なことが売りの店を愛用していたが、そこは狭くてどうしてもお客さんがごった返す。なので近隣にあるもうひとつの敷地面積が広い店に鞍替えをした。

次に、利用回数を週2回にしぼる。ほぼ毎日のように寄っていたのを週2回に減らし、あらかじめリストアップしてまとめ買いをする。それに加えて、利用日時を平日の午前中に限定した。もちろん、圧倒的に空いているからである。

第三に、店舗内での役割を明確にする。「あなたが物色して手に入れるのはこれとこれ」、出発前に指令書きを手渡される。そこには「☆ハートランドビール、☆キムチ、☆焼きそばの麺(シマダヤの)、☆魚(なんでもOK)、☆玉子、…」といった具合に私が担当して購入すべきものが記されている。売り場の配置も当然に考慮して担当分けされているから、店に入るなり私たちはそれぞれにカゴをつかんで二手に分かれる。滞在時間を少しでも短くするとともに、ふたりが並んで密集の原子とならないためだ。もちろん、メモにないもの(例えばチャンジャなぞ)もこっそりカゴに放り込みはするが、それはあくまでもご愛嬌。ここしばらく棚から姿を消したままの日清焼きそばが残念と憂いながら、物色を終えた私はつれあいを探す。彼女が押すカートの下段にカゴを置き、あとを託して店を出る。精算を済ませるつれあいを外で待ち、差し出されたエコバックを肩にひっかけ以後は運び屋に徹する。こうして今日も、作戦はまんまと成功した。

雨が降った後にきれいに晴れ上がった休みの日、公園はとてつもなく混み合う

2月27日木曜日、安倍総理大臣から突如として全国の学校に休校の要請がなされてからほぼ2ヶ月、18年におよび日々に接してきた木場公園の様子は明らかに変貌した。学校がなくなり行き場がなくなった中高生がバスケットボールやサッカーに楽しく興じる平日、小池都知事の緊急要請を経て子どもづれが溢れかえるようになった土曜日曜、そこにジョギングやウォーキングをする者たちが加わる。とりわけ、雨が降った後できれいに晴れた日、それが土日どちらかにあたったりすると、湧いてきたのかと思うくらいに人でごった返す。この間の土曜日、東日本に春の嵐が吹き荒れた。明けて19日の日曜日、天気予報通り気温も高くきれいに晴れ上がる。すべての条件はそろった。報道で「湘南や千葉の海に車で押し寄せる人たち」を目にして思わず顔をしかめた方も多いだろう。木場公園だって阿鼻叫喚だったに違いない。

隅田川テラスで憩う

小名木川を伝って萬年橋から隅田川テラスに下り、東京湾に向かって南下する。清洲橋、隅田川大橋、永代橋をくぐって佃島を望む。ここを目途に引き返し、永代橋を渡って対岸のテラスに下りて新大橋まで北上する。こちとら川っ子、気持ちいい。途中、新型コロナ禍ですっかりご無沙汰している馴染みの焼き鳥屋のあんちゃんを始め、私たち同様にマスクをして行き交う近隣の知人ら何人かとすれ違い、ソーシャルディスタンスを保ったままお互いの無事を喜び合う。散歩かウォーキングを日課にしている私たちであるが、「密」であることが容易に想像できる木場公園を避けて、この日は行き先を隅田川テラスに変更していた。日向ぼっこしている人が思いの外に多いことにいささか閉口しはしたが、風も穏やかでいい散歩になった。庵に戻って早くから風呂につかり、ベランダでビールを楽しんだ。出先と日時がふさわしいのかどうか、お門違いの人が目に余るかどうか、やめる判断も含めて、これからも常に注意を払いたいところだ。

「密」から遠ざかる

ほとんど在宅勤務にしている会社もあるのだろうし、縛られずに曜日のルールをそれぞれで変更したっていいんじゃないだろうか、うまいやりようはないもんかな、だって緊急事態なんだし、なんて考えたりもする。一方で「なんでしないかね、人がいるんだからジョギングしたけりゃ口をふさぎやがれ」なんてちょっと腹を立てたりもする。東京都はスーパーにどんな要請を出すのだろうか。必要とあらば、うちのリーダーが的確に指導力を発揮してくれるだろう。モタモタするのは性に合わない。臨機応変に賢く立ち回ろうってえやつだ。

え?岡江久美子さんが新型コロナで逝ったの?なんてことだ…、なんてことだ…。ああ、もうすぐ隠居の身。今は「密」から遠ざかる。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

こちとら川っ子、「密」に倦んで遠巻きにする日々件のコメント

  1. リーダー素晴らしい!

    髙橋秀年

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