隠居たるもの、最後のピースをあて嵌める。2021年8月7日、散種荘にアオゾラカグシキ會社の小ぶりな本棚と細長い棚板が搬入された。昨年9月の完成以来、様々な荷物が運び込まれた散種荘であるが、実はその当初より懸念されていたことがあった。そもそもからして「山の家」である、溢れかえるほどに物品を持ち込むつもりは毛頭なく、自分としては手加減したつもりであったのだが、引越ししたそばから本などがスペースからはみ出す。圧倒的に収納力が乏しかったのである。CDプレイヤーを追加で導入し、そうとなればいくらかCDも置かれることになって、さらに拍車がかかり、そこにもってきて私が調子に乗ってレコードを買い足し続けるものだから、いつしか抜き差しならない問題になっていた。
そこでアオゾラカグシキ會社の出番だ
上の写真を見て欲しい。レコードに追いやられた本やCDは、仕方なく階段に当面の居場所を見つけた。というか、小さな「山の家」には潤沢な「スペース」などなく、暮らしに支障を来さないのは実のところここしかない。とりわけても階段の下から3段は、階段を設計する際にスペースを節約するため無理に角度をつけたため、その分だけ面積が広くなっている。散種荘のどこを探しても「余剰」と思える場所はここをおいて他にない。さすがに最下段に固定物を置くわけにはいかないから、下から2段目と3段目にかけて、微妙に角度を変えた踏み板2枚をまたぐアクロバチックな本棚を据え置くことができれば、万事は解決する。そんな「モノ」を散種荘のためにこしらえられるのは、アオゾラカグシキ会社の友繁さん以外にいない。5月のことだったろうか、私は清澄白河のショールームに無理難題を持ち込んだ。
背高ノッポが身体を折って本棚をとりつける
アオゾラカグシキ會社の友繁さんはラモーンズのボーカルであるジョーイ・ラモーン(身長198センチ)くらいに背が高い。その彼が身体を折り曲げて本棚をとりつけている。まずもって、この家具の形状は常識から外れ最下段だけがひとまわり小さい。その上、階段のスペースを大きく占有しないよう小ぶりにこしらえられているから安定性に欠ける。そこにもってきて、「四角でなく不規則な形の木の踏み段を、鉄枠が若干に突出しながら支える」という特殊な構造の上に設置される。それゆえ細心の注意をもって寸法が決められている。底面には溝までうがたれているのだ。そして最後は壁に直接ネジ留めされる。材質は前方に置かれている1人がけソファと同じくブラックチェリー。見事に期待に応えてくれた。「こりゃあ、想像以上に素敵なモノができ上がったな」友繁さんが身体をふたつに折って作業している姿を、私はそう思いながら後ろから眺めていた。
本というものは棚に収まってこそ映える
さっそくCDやら本を収めてみる。あまりのスッキリ具合にうっとりする。「本というのは棚に収められてこそ映えるのだなあ」とあらためて気づく。その棚自体が素敵なのだからなおさらだ。そして友繁さんにはもうひとつ作業が残っている。注文していた幅135センチ×奥行15センチの棚板の設置である。建築時、階段下の隅のスペースを「隠れ家的書斎」にしようと目論み、「ふふ、乙であろう。かえって狭い方が落ち着くものなのさ」などとひとりごちてデスク状の板をしつらえていた。それがどうだ、乙もへったくれもありゃしない。やはり悲しいかな「収納力の乏しさ」ゆえ、現実はただモノを放り出して雑然と置いておくだけのスペースと化していた。そうして「机」を占拠している「不届き」な諸々を、それこそ「棚上げ」するために「棚をこしらえて欲しい」しかも「最初からあったかのごとく」と注文したのである。必然的に材料はナラとなった。
職人の技に感嘆する
作業を見守り「ありゃあ素人にはできないやね」と感嘆した。あらかじめうがっておいた穴を通してネジでとりつけるまでは想像がつく。その後、ネジが目につかないようその穴を木ダボで埋めていくのだが、その技はまさしく職人のものだった。まず木ダボを棒のまま差し込み、受けの板の表面に合わせて糸鋸で切る。表面の微妙なざらつきを鑿で均す。最後にオイルで仕上げて出来上がり。結果、あたかも最初からあったかのような仕上がりとなったし、細々とした占拠物は目論見通り「棚上げ」された。散種荘でこの省察を試みるとき、おおよそ食卓テーブルを使う羽目になっていたのだが、なんとも乙なことに、今回は階段下の隅の「隠れ家的書斎」でパソコンを叩いている。
最後のピース
本棚と机まわりの棚、このふたつは最後のかけがえのないピースだった。前回、オーディオラック等をこしらえてもらった時に知ったのだが、友繁さんとは実は大学の同学部の先輩後輩だ。だからというわけではないのだろうが、今回も私たちの図々しいお願いに応じ、家具制作の末に出る端材を米袋8つも持って来てくれた。7年も乾燥させているというこの木材は、薪ストーブでよく燃える。「今度、一杯やろうよ」との約束は新型コロナ禍ゆえにいまだ果たせていない。いつになるかはわからないが、そのうちに必ずやろう。大学の後輩であるあなたに、私の高校の先輩である中島誠之助の言葉を送る。ああ、もうすぐ隠居の身。相変わらず「いい仕事してますねぇ」。
参照:アオゾラカグシキ會社ホームページ https://www.aozorakagu.com/