隠居たるもの、とかくに人の世は住みにくい。昨日1月21日から、散種荘に腰を落ち着けている。スノーボードシーズン真っ盛りなわけであるから、諸々やりくりの上、間隔を置かずに訪問頻度が高まるのは「むべなるかな」なのである。ガラガラの新幹線と私たち2人だけが乗客だった高速バスを乗り継ぎ、午後2時10分、もはや勝手知ったる白馬駅前に降り立つ。望外の天気で気温も高く、すっぽり雪に包まれた山がすごぶる美しい。緊急事態宣言下にある東京を抜け出した解放感に身体も伸びる。いつもと変わらず駅近くのスーパーで買い物を済ませ、うきうきとタクシーに乗り込んだ。

「白馬村に関係する全ての皆様へ」

「平日はもうガラガラですよ。従業員の寮から新型コロナの陽性者が出ちゃったから…」遠目にも空いているスキー場の混み具合について尋ねると、タクシーの運転手さんがそう教えてくれた。リゾートバイトを含め、シーズンに人手を集めるための寮がある。そこで幾人か新型コロナの陽性者が出てしまったらしい。どうやら駅前の飲食店でも出たらしい。警戒心が薄くはないかと気になっていたのだ。口を塞いでいなかったり、レストハウスで平常時とかわらず振る舞ったり、そんなスキー客・スノーボード客の数も決して少なくはなかった。私たちはといえば、家を出てから帰るまで、マスクを外すことは少しの間も一度としてなかったし、人々が口を開けて飲み食いしているレストハウスに立ち入ることも避けていた。前回ここを後にしたのは1月13日だった。それが、たった1週間後の1月20日には「白馬に関係する全ての皆様へ」と題する物々しい村長メッセージが発表されるに至っていた。

https://www.vill.hakuba.lg.jp/gyosei/soshikikarasagasu/somuka/somukakari/7/7942.html

感染警戒レベル5「特別警報2」

「感染が顕著に拡大している状態で国のステージ3相当」なのだそうだ。村長のメッセージに目を通すと、17日から19日の3日間で新たに7人の陽性者が確認されたという。日々に1000人だ果ては2000人だというステージ4の東京で暮らしていると、いささか「危機センサー」が鈍麻する。それにひきかえ、山に囲まれた田舎のこと、昨年末までいたって平穏だった分、医療体制も含めて不安は募るばかりだろう。報じられる地方ニュースを見るにつけ、飲食店への時短・休業要請など浮き足立っているのが伝わってくる。スキーリゾートを標榜しているにもかかわらず、3年ぶりにせっかくまともに雪が降ったというのに、今シーズンは頼みの綱のインバウンドさんからの収入もほぼ皆無、その上に感染のピークがシーズンの真っ盛りと重なる。1日に何本も八方尾根スキー場に出ていたシャトルバスは、気づくと今週から1日1往復に減便されていた。私は、好きな時に訪れるというほどの「関係する」者でしかないが、ここで日々に暮らし生活を営む皆様の苦悩はいかばかりか…。

「この1週間であれよあれよと」

今日は気温が高く、雪ではなくて雨が降る。家にこもり、ウッドデッキに散らばる雪の隙間にサンダルを置いて「オラファー・エリアソンのアイス・ウォッチ風」(参照:「我が家に展覧会がやって来た!:オラファー・エリアソン編」https://inkyo-soon.com/olafur-eliasson/)などと戯れていると、約束通りに白馬村役場の税務課職員が「地方税法403条により固定資産税算出の為、現地での実地調査」にやってくる。「白馬村」のワッペンがついた作業服、手にはヴィクトワール・シュヴァルブラン・村男Ⅲ世のトートバック(参照:「ヴィクトワール・シュヴァルブラン・村男Ⅲ世のこと」https://inkyo-soon.com/victoire-cheval-blanc-3/)。調査を終えたのち、少しだけ世間話を交わす。「この1週間であれよあれよという間に大変なことになっちゃいまして…」と若い彼は言う。つけ加えてこうも言う。「せっかくいい雪が降ったのに、白馬に来れない外国のお客さんたちが本当に気の毒で…」自分たちの窮状ではなく、外国からのお客様に気持ちを向けている。さらに去り際にこうも言う。「マスク着用など感染抑制にご協力いただいた上で、ぜひスキー場をお楽しみください。乗り越えるしかありませんから。」後期中齢者であるおじさんはこう思う、「君がそういう了見なら大丈夫だ、もちろん協力するよ」。

「デイ・アフター・トゥモロー」を観るのは何度目か

久しぶりに2004年ローランド・エメリッヒ監督作、地球温暖化による大災害パニックムービー「デイ・アフター・トゥモロー」(https://filmarks.com/movies/38425)を観た。どういうわけか、つれあいがこの作品が好きで、今までに何回も観ている。科学者の警告を「それに従ったら経済の被害はどうなるというのだ?」と政治家は冷笑して無視し、みすみす甚大な人命が失われる、そして嵐はいつか去る。そういう映画だ。私たちがこの1年間、この国で目の当たりにしていることだ。ああ、もうすぐ隠居の身。これはあの悪党どもが招いた人災である。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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