隠居たるもの、庵にこもって想いを馳せる。昨夕、2020年4月8日の18時をもって「緊急事態」が宣せられた。いまだ隠居にたどり着いていない我が身、3月28日より出社せずに在宅で仕事をするよう指示されている。今のところ、この宣言で暮らしが大きく変わるのかどうかはわからない。しかしながら、そんなのんきなことを言っていられるのも、たまたま立脚する今の“立ち位置”からくる幸運にのっかているからこそで、新型コロナウィルス渦の中、多くの人々が眠れないほどの不安を抱えながら日々を過ごしていることを想像するのは難しいことではない。

Uber Eatsでしのぐ若者がいる

我が庵にも顔を出してくれたことのある20代後半の知己がいる。先週に入ってから、彼女にしばらく発熱が続いていると聞いた。こんな折だから、もちろん心配になって各方面に相談し病院にも行くのだが、PCR検査をしてくれないのだそうだ。一人で暮らす部屋に彼女は買物にも行けず閉じこもり、熱が下がらずだるい身体を抱え不安にさいなまれながら、Uber Eatsのデリバリーを頼りにギリギリしのいでいる。これは当たり前のことだろうか?月曜日に放送されたTBSテレビ NEWS23で、各国の検査数が比較されて紹介されていた(Our World in Data調べ)。それによると、人口100万人あたりでドイツは11,127件、オーストラリアは10,917件、イタリア10,482件、韓国は8,606件、アメリカ3,824件、イギリス2,580件、日本はなんと311件である。知己の彼女が新型コロナに感染しているのかどうかは検査してくれないのだから実のところはわからない。仮に検査の結果そうだったとしたら、ホテルに身を寄せ費用の心配もせず治療にあたらせてもらえるはずだ。しかし実際には、彼女は一人で不安に震えながらUber Eatsに余分なお金を払い続けている。これは彼女にだけ起こりうる特別なことだろうか?PCR検査もさることながら、小池百合子都知事はオリンピックの延期が決まった直後の会見で危機感をあおりながら「感染者専用のベッド4000床を確保する」と見得を切った。あれから2週間がたって、確保できているのはいまだ1000床だそうだ。そもそも新型コロナウィルスの脅威が喧伝され始めてから数えると3ヶ月近くもたっている。

布製マスク2枚の効能を説明してくれる人たちがいる

4月1日、安倍晋三総理大臣が「全世帯に布製マスク2枚配布」をぶち上げると「はあ?なにを言ってけつかるんじゃ!」と世論は炎上した。それに対し、経済産業省の官僚である浅野大介氏がFBで「シェアしてほしい、真意を説明します。」ともっとわかっていない投稿をドロップするもんだからさらなる炎上を呼ぶ。浅野氏は早々に削除をするのだが、ご丁寧に「一読してよく理解するように」と浅野氏から引き継いで政府の真意を広報せんと努力して回覧する人たちがいた。ご心配には及ばない。理解しています。その上で怒っている人の意も汲んで欲しいのだ。「理解しているからこそ怒っている」真意を。

即座に生活に困らない幸運な立ち位置にいる浅野氏のような方々には理解が及ばないのかもしれないが、すでに立ちいかなくなっている人々がいる。吹けば飛ぶような小さな町工場を13年間やっとの思いで切り回していた私には痛いほどわかる。「期日が迫る手形を落とすことができそうもない」、そんな時はそれ以外なにも考えられない。だからといって考えるだけでは資金も湧いてこないから気が病んで胃が痛くなるばかり。現金商売で毎日の売上げを積み重ね、それをその月の支払いに当てている人たちがいる。例えば小規模の飲食店なぞはみなそうだ。壊滅的にお客さんが減って、今月の店舗の家賃をどう捻出したらいいのか途方に暮れている経営者も多いだろう。それにフリーで仕事をしている人たちだって…。案内される融資を待っていたら潰れてしまうかもしれない。そんなところに、補償対策はあとまわしで466億の税金をかけて「布製マスク2枚を送るから、ありがたく思ってね❤️」というんだ。喧嘩売ってんのか?って話じゃないか。そうした人たちはみんな怒ってるし、そうした人たちを友だちに持つ人たちも怒ってる、そうした人たちの窮状を想像できる人たちも怒ってる。心臓マッサージがすぐに必要な人を目の前にして、「AEDを強くあててあばらを折っちゃうといけないから、まずはみなさんの骨密度を上げる処方をしましょう」と言っているようなものだ。東大じゃ教えてくれないんだろうけど、一般大衆はそんなに馬鹿じゃないんだぜ、この馬鹿野郎。

「桜」とかをダラダラやっていたから、と的を外す人がいる

昨日の会見によると108兆におよぶ経済対策のほとんどは落ち着いてから回収する融資と猶予で、実際の給付は6兆あまりだった。見出しを作ることにことさら神経を使っている様は相変わらずだ。 ここまで時間をかけて作ったその内容については、昨日来あらゆるところで取り上げられている。とにかくうちに回ってくることはなさそうだ。会見の最後は、日本国内からも多くの感動が寄せられたドイツのメルケル首相テレビ演説を真似してみて、現場で頑張る人々を賞賛し「絆を強くして心をひとつにしよう」と締めくくられた。こう思う。「心にもないだろうに…。よくも歯が浮かないものだ、くどいよ、やれやれ…。」

「桜を見る会」とかくだらないことを国会でダラダラやっていたからこんなに遅れたんだ、と責任を転嫁し根拠のない上から目線で意に沿わない者を猛々しく罵倒する方々がいる。同時にやれば良かっただけのことだ。たまには働いたらいい。権力を持つ者が、その権力をかさにきて民主主義の手順を蹂躙した疑義が生じていて、しかもその過程で善良で実直な公務員が死にまで追いやられている。その疑義の渦中にあるのは概ねひとりで、何を隠そう昨日も記者会見をしたあの方だ。これは字義通り根源的な民主主義の信頼を問う人と人の絆の問題だ。だから、「あんたに言われてもなあ…」と歯ぎしりする人が後を絶たない。

新型コロナウィルスは様々なことを炙り出した。皆が皆というわけではなかろうが、「有能なんじゃないか」幻想を持っていた官僚たちは権威を振りかざす役立たずで、権力志向の政治家にはリーダーシップがまるでなく、そんな中で国全体に抜き差しならない分断がいつしか出来あがり、20代後半のあの娘はひとりUber Eatsを部屋で待つ。これが、いつまでも晴れない「鬱々とした気分」の正体である。

どうにもならなくなったら、もう無理だと思ったら、笛を3回鳴らしなさい。もちろん防護服なんか持ってないけどさ。ああ、もうすぐ隠居の身。おじさんとおばさんは駆けつける。

参照:白日に晒された「鬱々とした気分」の正体 https://inkyo-soon.com/depressed-air/

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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