隠居たるもの、休みの日には日曜大工。といっても、今これといった定職を持っているわけではないから、取り立てて「休みの日」があるわけではないのだけれども、あらかじめ「すること」が決まっていない日のことを、これまでの習わしに従ってなんとなく「休みの日」と呼んでいる。大雪の日曜日に白馬に入り、打って変わって月曜日からはずっと晴れ。だからといって連日スキー場に出かけるほど若くない。わきまえこそが肝心だ。月火そして木金は滑るが、間の水曜日は筋力の回復に充てる休養日と予定を立てた。一昨日2022年3月9日がまさしくその休養日だったというわけだ。とっくに届いていた組み立て式レコード棚を、腰を据えてこしらえることにした。

やまずに続くレコードの増殖

テレビのない散種荘では、30年ぶりに所有するに至ったレコードプレイヤーの上で回るLPレコードこそが主な娯楽だ。鳴らしてみると想像を超えた臨場感が音にみなぎる。「それならあれもレコードで聴いてみたいねえ、お?こんな渋いのが中古で出てるじゃないの」などとしているうちにレコードが増殖し続ける。そもそもが道楽者なんだから仕方あるまい。しかしながら、えてして道楽者というのは自身の道楽者ぶりを過小評価するから始末に悪い。当初「こんなにもいらないのだろうけど」と考えていた収納スペースがみるみると手狭になる。心持ちへの字口になったつれあいの視線が痛い(私が新しく見つけたレコードに再三再四感動しているくせに…)。こうしたとき、まずは小手先で誤魔化せやしないかと試みるのは世の常だ。

ユニオンレコードラック

昨年末、12月上旬だったろうか、ディスクユニオンの通販で「ユニオンレコードラック(1マスBOXタテ入れ・組立式)」を買い求めてみた。ヘビーローテーション中のアルバムを無造作に放り込んでおけばいいし、底に滑りやすいフェルトを貼って邪魔にならないところに容易に動かすこともできる。餅は餅屋、さすがディスクユニオンである。痒いところにしっかり手が届いている。なにしろ80枚も入るのだ。とても具合が良くて、これで万事解決といっときは胸を撫で下ろした。しかし、それがいけなかった。ひと安心した私は、SALEという文字が踊る年末にさらにたたみかけてしまう…。

https://diskunion.net/portal/ct/detail/3005002188

6マスレコードラック・ナチュラル(LP約480枚収納)

年が明け、2月になり、新たにレコードを収めるスペースがとうとうなくなった。専用の棚を導入するにしたって設置できる場所は限られているからメジャー片手にあれこれ頭をひねる。やっぱり餅は餅屋、ディスクユニオンに頼ることにして6マスレコードラック・ナチュラル(LP約480枚収納・組立式)を注文した。これまでのレコード棚は余っていた自前の板を箱に渡しただけの大雑把なものだから収納力なぞわからない。それに、なんだか怖くて今現在レコードが何枚あるのか数えたこともない。しかし、重宝している1マスBOXで80枚、そして新たに480枚、合わせて560枚、さすがにこれだけあれば大丈夫だろう。すでに届いていた棚を組み立て、階段下スペースを模様替えし、そこにレコードを移し替える。「休みの日」にしかできない大掛かりな芸当だ。

カマシ・ワシントンとオウテカ

その間、つれあいはウッドデッキを雪の蹂躙から救い出すべく奮闘していた。白馬ではようやく雪解けが始まった。“雪山“の深奥部は固い氷となっているから、削れるところを削って少しでも深いところに陽光が届くようにする。やはり北風より太陽なのだ。そんなこんなで昼食後、私たちは身体を伸ばしに散歩に出た。途中で地区管理事務所の軽トラックとすれ違う。私たちは春らしく朗らかに挨拶を交わす。するとうちの担当者はこうつけ加える。「事務所気付でレコードが届いたので、ついさっきお宅に置いておきました!」そうだった、カマシ・ワシントンとオウテカの手頃な中古レコードをディスクユニオンで見つけて発注してあったのだった…。「段ボールには“レコード“と書いてもないだろうに、レコードってわかってるんだね」とつれあいはにやにやと手厳しい。

道楽あってこそ

「これからひと月1枚にすれば、10年と少しはこれで大丈夫なんじゃない?」すべて収めた様子を確かめてつれあいはそう言った。150枚くらいの余裕を見てとったのだろう。きちんとした棚を導入することで探しやすく、そして取り出しやすくもなった。階段下のスペースが「収納スペース」としてキリッと引き締まったことも喜ばしい。「どんなもんよ」といささか疲れた私も悦に入る。脚力は温存したとはいえ、休養日に身体を動かした甲斐があろうというものだ。しかしつれあいは知らない。私がタワーレコードに今後発売されるリイシュー含めた新譜をすでに7枚予約発注していることを。まあ、必要とあらば売ったりなんだりやりくりしていくさ。ああ、もうすぐ隠居の身。道楽あってこその人生だもの。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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