隠居たるもの、苦労人とみえてあたしの泣き顔を見て見ぬふり。東京でその日の新型コロナウィルス新規感染者が67人だったと発表された7月1日、久しぶりに古くからの友だちヤスに会うべく荒川を渡った。雨が降ったりやんだり、その上に強く風が吹く生憎の天気、昼過ぎには酒飲みがくだを巻き始める葛飾区立石の聖地 立石仲見世もこの日はひっそりしていた。ヤスと顔を合わせるのもほぼ4ヶ月ぶりになる。

「ヤスのアニキの形見分け」第二弾

3月8日「ヤスの兄貴の形見分け」(https://inkyo-soon.com/yasu-brother/)で、17年前に不慮の事故で亡くなったお兄さんのレコードをヤスからもらい受けた話を紹介した。お兄さんは私からしても中学高校の2年先輩であり、そうした顛末を含めた省察に感極まったヤスが、形見分けレコード第二弾を用意するから取りに来い、3月の半ばにそう言っていた。しかし、新型コロナ禍にからみ色々とすったもんだのあげく、延び延びになってしまった。ようやくのこと、京成電鉄に身をまかせヤスの自宅に向かう。彼に選別を委ねきると、ウケを狙って「?」というものを混ぜるからだ。(前回はそのおかげで「渥実二郎の世界」に浸ることができたわけだが…)

ビールを飲みながら二人で吟味した結果、渡辺貞夫「California Shower」、八神純子「Mr.メトロポリス」、五木ひろし「全曲集BEST14」、中島みゆき「親愛なる者へ」、アル・ディ・メオラ「白夜の大地」、LEE MORGAN「The Sidewinder」、西部劇ベストヒット、「My Fair Lady」サントラ、バート・バカラック「明日に向かって撃て!」サントラ、「Classic Rock」(オーケストラによるロック名曲集)、ペレス・プラード楽団/ザビア・クガート楽団「ラテン音楽 スーパー・デラックス」、この11枚をあらたに形見分けしてもらうことにした。その晩、庵に持ち帰るなりTechnicsのレコードプレイヤーにかけてみる。まずはと、中島みゆき 1979年3月発表の第5作 「親愛なる者へ」をチョイスした。私たちが中学2年から3年に上がるころのアルバムだ。もちろん、中島みゆきは知っているが、アルバムを通してきちんと聴いたことは今までに多分ない。

タクシー・ドライバー 苦労人とみえて

またしてもやられてしまったのである。とりわけても、2曲目の「タクシー ドライバー」、これは名曲だ。

「やけっぱちの騒ぎは のどがかれるよね…笑っているけど みんな本当に幸せで 笑いながら 町の中歩いてゆくんだろうかね 忘れてしまいたい望みを かくすために バカ騒ぎするのは あたしだけなんだろうかね」

寄せた想いが成就せず、本当はとても悲しいんだけどそうとは気取られたくなくて、それに加えてバカ騒ぎすれば心持ちも少しは変わるんじゃないかといいように錯覚し、心とは裏腹に「夜の繁華街」でことさらにはしゃいでしまう。しかし、帰る段になってひとりタクシーに乗ると、落差を伴って実のところに立ち帰り、思わず涙がこぼれる。すると…

「タクシー・ドライバー 苦労人とみえて あたしの泣き顔 見て見ぬふり 天気予報が 今夜もはずれた話と 野球の話ばかり 何度も何度も 繰り返す」

中島みゆき本人の動画は滅多に見つからないので、BEBEさんのカバーでどうぞ。

苦労人とみえるタクシードライバーは、泣いている若い女性の心情をバックミラー越しに察知し、だからといって気の利いた優しい言葉は持ち合わせておらず、でもちょっとでも気を紛らわせてあげたいと一生懸命に、彼女にはどうでもいいはずれた天気予報と野球の話を繰り返す。その無骨な心遣いに彼女は少しだけ救われる…。これは中学生の男子にはわからない。この歳になるとタクシードライバーのおじさんの方にシンパシーを感じる。そりゃあ人間だもの、色々ある。これは名曲である。

「感染拡大要警戒」で「夜の街要注意」

ヤスに会いに行った次の日、7月2日の東京の新型コロナウィルス新規感染者は107人だった。「タクシー ドライバー」の彼女のような子が、やりきれない思いを抱えてあてどなく「夜の繁華街」をふらつくことも、またしばらく許されなくなりそうだ。私たちは「要警戒」なことは言われなくたってとっくのとうに知っていたし、「夜の街要注意」って怖い顔しているけど、ちょうどピッタリ2週間前の6月19日に「接待を伴う飲食店」の休業要請を解除したのは当のあなたたちだ。それにしても、会見のときに持ち出したそれぞれのボードの配色が、日曜日の選挙を前にした小池百合子都知事のイメージカラーであるグリーンなもんだから、「相変わらずちゃっかりしていらっしゃることで…」と思わず吹き出してしまった。

またお兄さんに教えられた。まだまだ辛抱が必要かもしれないが、その間だってそりゃあ人間だもの、色々あるさ。今は陽気に「ラテン音楽 スーパー・デラックス」を聴いている。もちろん、1曲目は「マンボNo.5」。ああ、もうすぐ隠居の身。こちとら苦労人とみえて、そうだろ?ヤス…。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です