隠居たるもの、突飛な求めに呼応する。昨日おとといと岩岳・八方尾根スキー場でたっぷりと遊んだから、2022年1月28日金曜日、「年寄りの冷や水」にならないよう今日は“休養日“とした。といってもゴロゴロしているわけではない。山では身体を動かさないことにはどうにもならないことが多々ある。家内にすっかりなくなった薪を、戸外の薪棚や物置から補充しなくてはならない。せっせと働き一段落したころ、窓の外から「テストドライバー!」と声がかかる。声の主は、雪にまみれて庭で滑り台を作っていたつれあいだ。
姪孫のための滑り台
1月10日に屋根雪がドンと落ち、連絡をくれた管理事務所に雪かきしてもらってひと安心したというのに、この間またしても降りまくり、1月22日2週間ぶりに散種荘に到着した時、積雪は肩まであった。「かつての白馬のようだ」という人もいるし「異常気象だ」という人もいる。とにかく寒くて−20℃にも達したそうで、さすがに2度目ともなるといちいち狼狽はしないが、2階トイレの水道管は再び凍ったまま一昼夜にわたって流れなかった。つれあいが姪孫のためにせっせと基礎工事した「滑り台のための雪階段」もかわいそうなことすっぽりと雪の中。幸いなこと今回の滞在中も天気は良さそうだから、ゲレンデに出向かない休養日に発掘調査に取り組むこととし、今滞在一回目の休養日25日にそれを実行、そしてそのまま拡張工事も果たしていた。
雪にまみれて庭で滑り台を作っていたつれあいが「テストドライバー!」と私を呼ぶ
そして今日、洗濯や薪活に勤しむ私を尻目に、つれあいは“滑り台“の核心に着手した。ウッドデッキの雪山のはしに造られた階段を登り、庭に滑り出し、くるっと回って外回廊に帰ってくる、そこからウッドデッキに上がってまた階段を…。そういう壮大なコース設定である。今日、庭に滑り出したその先を固めるのだ。前回の休養日、駅前に買い物に出たついでに、古くからあるスポーツ用品店、地元から信頼を寄せられる白馬ヤマトヤでプラスチック製ソリも購入済みだ。つれあいに熱が入る。ちらほらと細かい雪が落ちる中、彼女は上着を一枚脱いだ。そしてウッドデッキに戻ってきて窓の外に立ち、ニヤリとほくそ笑んで「テストドライバー!」と私を呼ぶ。
アイルトン・セナに想いを寄せて
昼食をとりながら、テストドライバーはコース設計者であるつれあいに、抜本的なコース変更を提言している。そこに至るテストドライブの経緯をドライバーの視点から以下に記す。
安全が確認されていないテストコースは危険がいっぱいだ。雪山に入るときのウェアに着替えよう。決して大袈裟とは言わせない。コース外に飛ばされ、雪に埋もれてしまう可能性だって否めない。雪の重みに折れ落ちていたアカマツの枝を目印とするスタート地点に立ち、行く手をながめやりコース取りをイメージする。さあ野心がみなぎってくる。軽快にスタートダッシュを決め、第一ヘアピンにさしかかる。しかしそこを曲がりきれない…。私はあっさりとクラッシュした(ぽってりとひっくり返った)。顔の3分の1が雪にまみれる。とても冷たかった。
抜本的なコース変更を提言する
「この短いコースにふたつのヘアピンカーブを設定するのはあまりにも命知らずだ(だってぽってり止まっちゃうもの)。直線主体の豪快な(簡単な)コース設定へと抜本的な変更を断行すべきだ(素人に曲がりくねったコースを作るのは難しい)」コース設計者はそれに応えて午後から新たに作業を開始した。真っ直ぐ滑って角にぶつかったら止まり、立ち上がって右に90度向きを変えてまた滑りだす。また真っ直ぐ滑って角にぶつかったらまた…。そうやって外回廊に到達すればいい。距離も延びるし、姪孫たちにはその方が楽しかろう。
「テストドライバー!」が再び試走する
「やり過ぎた…」とつれあいはヨレヨレで八の字眉毛になっている。「年寄りの冷や水」はよしとこうと、スキー場にも行かず休養日にしているというのに何たることか。そもそも「年寄りの冷や水」とは、江戸後期の夏に甘味料を入れ売られた「冷や水」が流行し、普段は湯冷ましを飲んでいるような年寄りが、若い者の真似してそれを飲んで腹をこわしたことからくる言葉。どちらにしろ、明日あたりからしばらくの間また雪が降るというから、原型を固めたこのあたりで今はよかろう。さてと、テストドライバーは危険なテスト走行に挑む。おお、悪くない、いいじゃないか…。「リュージュパーク散種」の開業は2週間後を予定している。メロン坊やもさぞや喜ぶことだろう。ああ、もうすぐ隠居の身。「年寄りの冷や水」は楽しいからいけない。