隠居たるもの、物語られる情緒が心に沁みる。先日、ハンガリー映画「心と体と」(原題:「Testről és lélekről」)を観た。あまりの暑さとともに、いろいろ殺伐としている今日この頃である。“雪が舞う森で2頭の鹿が出会う”という冒頭シーンから引き込まれ、エンドロールが流れるに至っては、心がキレイになった気さえした。ハリウッドには作れない、こうした清々しい佳作がいつの時代にもある。

ウィキペディアによると

プロットがこう説明されている。「ハンガリーの首都ブダペストの郊外にある食肉工場。品質検査官の産休代理として派遣された女性ラーツ・マーリアは、内向的な性格で、職場になじめない。中年男性エンドレは、財務部長の役職ではあるものの、左腕が不自由のため引け目を感じ、職場では消極的で、人並みの幸せを求めることは諦めていた。ふとしたことから、毎晩二人は同じ夢の中でそれぞれメス鹿とオス鹿となって交流していたことを知り、現実世界で二人の気持ちに変化が生まれてくる。」

アレクサンドラ・ボルベーイが演じる

主人公は「内向的な性格」なのではない。劇中では匂わす程度にとどめているが、アスペルガー症候群なのだと類推する。だから、不必要に傷つかないよう「ひとりで」慎重に暮らしている。その彼女が、同じ夢を見る「他者」と出会い、少しずつ殻を破りながら「他者」と共に生きようと不器用に努力する。そして「諦め」もゆっくりと溶けてゆく。女性監督エニェディ・イルディコーが撮った、大変に愛おしい作品である。2017年の第67回ベルリン国際映画祭でグランプリ受賞、などと仰々しい前置きは必要ない。https://www.senlis.co.jp/kokoroto-karadato/

今宵も「INKYOシネマズ」で

昨年、私が観た映画の本数は125本。といっても劇場で観たのは4本だけで、今年なんかはまだ一度も映画館に足を運んでいない。つまり、最新作ではない。それでは、どこで観ているのか?プロジェクターが映し出す我が庵のリビングルーム「INKYOシネマズ」である。後方から光が映写されるやいなや、それは「映画になる」のだ。無理して5.1chにしてあるから音響もそこそこ悪くない。夜は晩酌して酒が入ってしまうから、読書というわけにもいかないし、昨今のTVときたら自ら「報道の自由」をすら手放すていたらくだ…。だから、ハードディスクに録りためた中から、気分に合わせた「上映」が夜な夜な繰り広げられる。昨晩も友人たちとひとしきり飲んだ後、「007/カジノロワイヤル」を観た。私はこと切れて寝ちゃったけど…。

雪景色の鹿たち

一昨日、ジュリアン・オピーを観に東京オペラシティアートギャラリーに行った。鑑賞後のミュージアムショップも楽しみのひとつ。オピーのポストカードとともに購入したもう一枚がある。寄り添い生きる「雪景色の鹿たち」。もちろん、撮影地はハンガリーではなく、北海道の根室だ。

「INKYOシネマズ」はホラーを上映しないし、ストックもしない。几帳面な性格なので、ハードディスクに落とした時点で「いつか観なくてはいけない」と憂鬱になるからだ。ああ、もうすぐ隠居の身。心に沁みた映画をまたひとつ、胸の奥にひっそりとしまった。

投稿者

sanshu

1964年5月、東京は隅田川の東側ほとりに生まれる。何度か転宅するが、南下しながらいつだって隅田川の東側ほとり、現在は深川に居を構える。「四捨五入したら60歳」を機に、「今日の隠居像」を確立するべく修行を始め、2020年夏、フライングして「定年退職」を果たし白馬に念願の別宅「散種荘」を構える。ヌケがよくカッコいい「隠居」とは? 日々、書き散らしながら模索が続く。 そんな徒然をご覧くださるのであれば、トップにある「もうすぐ隠居の身」というロゴをクリックしてみてください。加えて、ホーム画面の青地に白抜き「What am I trying to be?」をクリックするとアーカイブページにも飛べます。また、公開を希望されないコメントを寄せてくださる場合、「非公開希望」とご明記ください。

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